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2015年7月 4日 (土)

その後のアリス

本日(あ。もう昨日か)参議院では、特許法と不正競争防止法の改正案が通過した。
そういえば、原始法人帰属の件については何か意見はないのかと言われていたので、そのうち何か書こうと思っているのであるが、今回はその話ではない。

▼ さいきん、Alice 判決後のことをちょっと調べていて、web の検索もしてみたら、なんとまあ自分のサイトがひっかかってしまったので、(あれはあんまり中味がないことを書いたのだが)と少し反省したのだ。
 という、わけで今回は Alice のその後の話をすこし。

■ という前に Excuse。
 前回の記事は要するに、最高裁の判決は、それまでの最高裁の判断をなぞっただけで最高裁自体はなにも変わっていないってことと、最高裁のいう判断基準は(どうも伝統的に)

あんまり使えない

ので、どうせ後の判決が荒れることになるだろうよ、という話だった、つもりであった(おっと。ここでいう「最高裁」は米国の、ですからね、念のため)。
 この前回の記事の「気持ち」はあんまり変わっていないけど、思ったよりも厳しい判断が続いていて、正直 CAFC にはすこしがっかりしているところもあったり。

■ さて、それ
で「その後の Alice」としては、近ごろ出た AIPPI の6月号冒頭に、比較的まとまった論説がでていたので、まずはそれをご紹介。

■ この論説は、実際には Alice だけでなくて、MPF についての最近の傾向にも触れられていて、どちらもなかなか参考になる、と思う。けれども、今回はそのうち Alice についての部分だけ触れる。
 この AIPPI の論説では、Alice 事件以後の USPTO の取り扱いを簡単に紹介した後で、Alice 前後のいくつかの判決を紹介している。
 このうち Alice 前のほうはちょっと置いておくとして、Alice 後の判決については、

  • buySAFE v. Google Inc., (13-1575(Fed. Cir. Sep. 3, 2014))
  • Ultramercial, LLC v. Hulu, LLC and WildTangent (2010-1544(Fed. Cir. Nov. 14, 2014))
  • Digitech Image Tech., LLC v. Electronics for Imaging, Inc. (758 F.3d 1344(Fed. Cir. 2014))
  • Planet Bingo, LLC v. VKGS LLC(13-1663(Fed. Cir. 2014) (non-precedential))

を挙げて、実際の判断の例を紹介している。
 これらの例は、いずれも特許適格性を有しないと判断された例であって、この論説は全体としては、どういうものが特許適格性を有しないと判断されたかを紹介するものになっている。またそれに続く、「実務的アドバイス」は(多少翻訳が残念な気がするが)USPTOが特許適格性を有するとした具体例や、有しないとした具体例を紹介して、チェックポイントについて簡潔に述べたもので、まとめとして理解するには十分な情報だと思う。

■ とはいえ、それならばこの論説にある基準(例えばUSPTOの具体例)から、誰もが一義的に特許適格性の結論が出せるものかというと、明らかに

こりゃだめだ

というもの(まさに数学的アルゴリズムが書いてあるだけとか)はともかく、コンピュータ上で実行されるように記載されている場合、それが「特定のデバイス」であると認められるのかどうかとか、そんな判断は、実は容易ではない(という程度には最高裁の指針は役立たずなのである)。

■ なおこの論説では紹介されていないが、Alice後に、適格性が争われ、初めて特許適格性が認められたという事例(DDR Holdings, LLC v. Hotels.com, L.P. (2013-1505(Fed. Cir. 2014))も一応見ておくべきなんじゃないかと思うので、ついでにご紹介。

 この事件で争われたクレイムはこんな感じである:
claim19 '399特許(相当簡略化したもの

 商取引の機会を提供するウェブページを提供するアウトソースプロバイダに適したシステムであって、
 a)データ格納部…
 b)アウトソースプロバイダ側に配されたコンピュータサーバであって、…
 …(ii) リンクがクリックされた第1のウェブページの一つをソースページとして、…
 …(iv) 受信したデータを用い、(A) クリックされたリンクに対応する商取引の対象物に係る情報と、(B) ソースページに対応する複数の画像情報要素とを表示する第2のウェブページを生成してブラウザ側へ送出するコンピュータサーバ
 を有する。

■ 技術的内容を簡単にいえば、こんな感じである。ウェブサイト上で広告バナーをクリックすると普通ならばその広告を提供している他社のサイトへジャンプする。つまり、広告バナーを表示していたサイトからは離れてしまうわけである。本件では、これを嫌って、広告を提供している他社のサイトの情報を取ってきて、自分のウェブサイトと合成して表示してしまい、自社サイトから離れないようにするのである。

■ 話を戻して特許適格性の判断において CAFC は、こう述べている。

 この'399特許は、数学的アルゴリズムをクレイムしたものではないし、基本的な経済的または昔からある商慣行をクレイムしたものでもない。このクレイムはビジネス上のチャレンジ(ウェブサイトを訪れた顧客が離れないようにする)ようにしたものであり、インターネットに固有のチャレンジである(Page 19, 2nd Paragraph ll. 5-10)。

 クレイムに現れているものは、サーバコンピュータであってごく普通のコンピュータであろうが、対象となる技術分野において特有の課題を解決しているという点に着目して、適格性ありと判断しているようにも見える。一般的な限定を超えた、非凡な技術だと見られたものであろうかと思われるが、非凡と平凡とを隔てる基準は微妙なままである(じっさい、判決自体で、"Distinguishing between claims that recite a patent-eligible invention and claims that add too little to a patent ineligible abstract concept can be difficult, as the line separating the two is not always clear.", Page 16, 3rd Paragraph ll.1-4などと述べられている)。

■ 結局のところ、裁判所を含め、特許適格性の判断はまだ揺らぎがあるということである。実務的指針を、と言われれば、せめて具体的なハードウェア構成は出せるだけだしておきましょう、という程度の話はできるんであろうが(じっさい、現地代理人の傾向は基本的にそうなってるように思われる)、なかなか確定的にならないあたりがもどかしいところである。
 こういう状況なので、米国でのソフトウエア発明については、対応すべき事態が発生したときに、情報収集をちゃんとしている現地代理人から、その時点その時点で新しい情報を聞きながら対応を検討するという一手間がしばらく必要になりそうである。

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