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2015年6月 2日 (火)

斜め読み判例集[2]

 久し振りの更新です。
 なにやら過去記事にコメントを頂戴していて、「職務発明」のことについてのことを書け、というリクエストのように思うのですが、職務発明制度の改正については、従前の「事前承継」の運用といまのところ大きな相違があるとまで思えないのが実情ではないかと考えています。問題がまったくないとまでは言いませんが、実務的な運用面を考慮すると、いろいろ意識してなされた改正かなと。

▽ というわけで、職務発明制度の件は、ひとまず後に回しまして、ちょっと一つ、創作容易性の判断に関して、興味深い、かな? と思われた判決があったので、速報的にご紹介。

■ 発明の対象が、工場で使われるような、オーバーヘッドクレーンというもので、技術的には細かいところの発明になり、しかも元は外国語の出願とあってか、出願明細書がとても読みにくいので、いつものような技術的内容の説明はやめておきます。念のため、出願番号は

特願2011-115010号

です。判決の番号を書き忘れていました。判決の番号は、平成26年(行ケ)10149号です。
 結局、発明のポイント(として裁判所が認定したもの)は、ホイストのグリップが搬送の対象物であるカセットポッドが配置されている固定棚の上方に「直接到達」することであるようですが、今回、判決の趣旨を見て頂くにあたり、発明の内容を全体的に理解する必要まではないように思います。

■ 審決においては、ふたつの文献、国際公開2002/035583(判決文中で、刊行物1、と呼ばれています)と、特開平10-45213号公報(同じく、刊行物2と呼ばれています)が引用されています。このうち、刊行物1についての審決での認定(として判決文に記載されている)内容によれば、その認定内容は本願発明のクレイムの表現を使いつつ、各部構成の語を刊行物1記載のものに置き換えたようなものとなっています。
 実務をご経験の方にはお馴染み、と言えばいいのでしょうか。審査段階の拒絶理由通知でも、こうした「本願発明の表現を使って引用文献を認定する記載」は、よく見るものです。ごくまれには、出だしに「引用文献には」とあって、続く文章がクレイムのコピペだったりというものもあります。一々腹を立てていても仕方ないのですが、いくらなんでも対比といえるのかとやるせない気持ちになることもあったりします。

■ さて。そこで今回の裁判例です。裁判長裁判官は設樂判事です。さいきん知財高裁所長になられた方で、前任の飯村判事に代わってどのような判決を書かれるのか、その動向が気になっていたところです。
 判決文には、主な認定の後で、若干付記的に、こう書かれています。

「審決は、(1)刊行物1の記載によれば、刊行物1には、前記第2の4(4)のとおりの事項(刊行物1事項)が記載されていると認定した上、(2)相違点1について検討するため、刊行物1事項を本件発明と対比すると、刊行物1事項の「グリッパ」、「伸長可能アーム」、「ウェハキャリア」、「キャリア搬送車」は、それぞれ本件発明の「ホイスト把持部」、「移動ステージ」、「カセットポッド」、「オーバーヘッドホイスト搬送車」に相当し、また、刊行物1事項の「一方の位置」及び「他方の位置」は、本件発明の「第1の位置」及び「第2の位置」と言い換えられ、さらに、刊行物1事項の「ロードポート」は、本件発明の「固定棚」ということができるとして、同解釈に基づく刊行物1事項の構造を再度認定(再解釈)した上、(3)同再度認定した後の刊行物1事項の構造を、刊行物2発明に適用可能か否かを検討したものである。
 しかし、上記再度認定した構造は、刊行物1事項の具体的な構成を本件発明の構成に相当するものと言い換えて得られたものであるから、刊行物1事項を包含する上位概念というべきものであり、刊行物1事項そのものではない。このような認定方法は、刊行物1事項の刊行物2発明への適用の容易想到性を検討する前に、刊行物1に記載された具体的な構成を捨象して、適用対象となる事項を認定するものであり、結果として容易想到性の判断の誤りをもたらす危険性が高く、相当ではないというべきである。」

■ 要するに引例(刊行物)を再解釈する過程で、引例における具体的技術は上位概念化されて捨象されてしまっており、そうした上位概念化された技術が副引例に適用可能かを判断するのは、判断を誤る危険が高いからやめなさい、という話かと理解しました。

■ ポイントは不適切な上位概念化が行われたか否かになるかと思いますが、裁判例として具体的に、「構成対比にあたって、引例記載の構成を、本件発明の構成で次々置き換えていく認定方法」が問題とされている以上、この認定方法で審決を構成することは、今後、審決を維持しにくい状況になるかも知れません。出願人側としては喜ばしいこと、ではありますが。

■ なお、本件判決の主要判断は、(1)刊行物1記載の内容を刊行物2に組み合せることは、刊行物2の技術的意義を失わせる結果となること、(2)刊行物2において刊行物1の内容を適用する必然性がなく、動機付けが得られないこと、(3)さきほどの対比において、「ロードポート」が「固定棚」と対比できるというのは、具体的構成からみておかしい、というあたりになるかと思います。
 概ね、動機付けの有無を判断の根拠としているもので、想到容易性判断の内容としては出願人側にとって納得感のあるものとなっているのではないかと思います。

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