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2015年3月 4日 (水)

斜め読み判例集[1]

先日、警視庁の「遺失物センター」というところへ行ってきました。
何かを遺失したわけでは、ありません。昨年末に現金を拾得したのですが、これを届け出たところ、遺失者が見つからなければ遺失物センターで拾得者に交付します、という話になったのです。

(そんな大金ではないのに)

とは思いましたが、そういう約束になっているなら仕方ありません。
そして結局遺失者は定められた期間内に見つからず、引き取りに行けば頂戴できるという状態になったわけです。ちなみに、引き取りに行かなければ東京都の金庫に入る、という説明でした。

拾得した現金は、遺失物センターまでの交通費程度という少額なので、まったく意味はないのですが、「遺失物センター」という場所と手続に興味があったので、わざわざ引き取りに行ったわけです。

遺失物センターのシステムは、前時代的といえば前時代的なようで、所轄ごとにわけられた帳簿が二冊(たぶん一冊は記録閲覧用で、もう一冊は遺失物そのものをファイルしているか、遺失物の保管場所をファイルしてあると見ました)、コンピュータのデータベースが一つ。データベースはおそらく遺失物の状況を、他の場所で見たりできるようにするものでしょう。担当者は帳簿からそれぞれファイルを抜き取って何かの印を押し、データベースに何やら入力して、それから拾得物を交付してくれました。あの印は消印かなぁ。データベースは引取済のステータスに変えたのかなぁ。

▽ まぁ、そんな体験談。
 さて。ネット通販に関する事件があって、ちょっと興味を惹かれたので、斜め読みしてご紹介(タイトルは「1」にしたけど、続くかなぁ、これ)。

■ 事件は平成27年2月26日判決の知財高裁4部の案件で、事件番号は平成26年(ネ)10114号。
 事案としては侵害訴訟で、被疑侵害物がクレイムの技術的範囲に属しないと判断されたという単純なものです。

■ 事件に係る特許権は5177727号。「ネット広告システム」というもので、請求項は次の通り。

【請求項1】
(A)インターネットに接続可能な端末であるクライアントと、
(B)前記クライアントからの要求により該当する商品の広告をネット上で紹介提供する多数の参加企業のホームページが保管された複数のバナーサーバーと、
(C)前記バナーサーバーが提供する各前記企業の広告画像情報を予め分類仕分けして保管記憶した商品マスタを備えた店舗サーバーとからなる連携システムにおいて、
(D)前記店舗サーバーは、前記クライアントからのアクセスに基づき予めバナー情報マスタに記録保存された前記バナーサーバーのアイコンを含む当該店舗サーバーのホームページを当該クライアントのディスプレイ上に表示すると共に、
(E)表示された前記ホームページにおいて所定のバナーサーバーのアイコンが前記クライアントによってクリックされると前記クライアントのディスプレイ上に当該クライアントがクリックしたバナーサーバーから提供された前記広告画像情報を主表示すると共に、
(F)各前記企業のカテゴリーとそれに属するアイテムを体系的に記録した前記商品マスタから当該広告画像情報を表示した同一画面上に関連商品の他のバナーサーバーの広告画像情報の一覧表リストを副表示して両者を併記し、
(G)前記副表示されたバナーサーバーのアイコンが前記クライアントによってクリックされると、当該クリックされたアイコンのバナーサーバーから提供された前記広告画像情報を主表示し、且つ
(H)同一画面上に関連商品の他のバナーサーバーの広告画像情報の一覧表リストを副表示することにより、
(I)該当する広告以外に他の店舗の商品リストを次々と閲覧可能にすること
 を特徴とするネット広告システム。

(構成分説は判決文の通り)

■ 主要争点は構成Bの充足性でした。被疑侵害者のシステム構成との対比で問題になったのは、「ホームページ」及び「参加企業」の語の解釈です。
 被疑侵害者のシステムは、主に衣服を販売するもので、ブランドごとに仮想的に「ショップ」がつくられ、ブランド各社は自分の「ショップ」に商品情報や商品画像を登録するようになっていました。この「ショップ」に登録するデータを管理するシステム(バックヤードシステム)にはつまり、商品情報と商品画像とが保存されていることになります。
 権利者の主張は、このショップが「参加企業」に、また保存された商品情報と商品画像とが「ホームページ」に、それぞれ該当する、ということでした。

■ これに対して裁判所は、被疑侵害者がブランドから商品を仕入れ、ブランドごとに「ショップ」と表示して販売しているだけだから、ショップは「参加企業」にあたらない(『「ショップ」なる独立の販売主体が存在するものではない』、『受託販売であっても、被控訴人が自社の名義でユーザーに商品の販売をしている事実に変わりはない』)と判断しました。
 また「ホームページ」の語ですが、これは確かに商品情報と商品画像とだけでは「ホームページ」とは言い難いのではないかと思われます。裁判所も、

「ホームページ」とは、通常、「Webサイト」(ウェブサイト)と呼ばれるインターネット上のひとまとまりの「Webページ」(ウェブページ)又は「Webサイト」のトップページ(入口)に配置された「Webページ」を意味する。

として、やや広めに解釈してくれてはいるものの、ウェブページに表示されるデータが記録されている場合も「ホームページ」に該当するというのまでは少々厳しいかと。

■ 翻ってみれば、仮に本件被疑侵害者をターゲットにするならば、クレイムの言葉の選択(ワーディング)の問題とも言えるのですが、結局は当初の発明からして、本件被疑侵害者の技術的内容とは違う話なのであろうと思われます。
 本件発明は広告画像情報なるウェブページを提供するバナーサーバがいて、そのウェブページを主表示するか、そのウェブページへのバナーを副表示するという話と思われますので、飽くまでも広告主のウェブページを切替表示するという構成が必要で、一つのサイト運営者が多数の広告主から提供された画像を表示する構成とは同一視しにくいもの、だからです。そういう意味では攻め込み先がどうだったか…。

■ ということで本件、事件としては比較的単純なものなのですが、これに興味を持った理由は上記ワーディングの問題についての点もさながら、特許庁の審査官ならばこの被疑侵害者のシステムをもって本件特許権に係る発明に対して拒絶理由を構成しそうな気が致しまして、こういう侵害訴訟での技術的範囲の判断と、権利化の段階での技術的範囲の判断(創作容易という判断が含まれるとしても)の不一致というのは---一致させる必然性はないという主張もわかりますが---若干割り切れない感があるなあと。
 まぁ、それだけのことなんですが。

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コメント


職務発明が大改悪になりそうです。
実務家の弁理士としての意見を聞かせてください。

投稿: アホ私大 | 2015年3月16日 (月) 15時58分

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