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2014年7月 4日 (金)

Alice in Wonder...

「身びいき」という言葉があって、戒めるべきことながら、これを戒めるのはなかなか難しい。

弁理士には専門分野があるわけだけど、先日 化学を専門分野とする、とある弁理士が、

「ソフトは(権利化業務が)簡単でいいですよね。化学はたいへんで。」

という。
いいかげん、この種の「私は たいへん」理論には辟易するのだけど、これも一種の身びいきだと思う。
一方で、ソフト関係を専門とする弁理士も、さもソフト分野は特別、とでもいうように理論を展開する人があるから、これはお互様というべきものである。

▽ 結局、どの専門分野においても、それぞれの分野に独特の苦労というものがあるのが普通なのであるが、その労苦は実際に担当した者でないと分からないものなんだろうか。

 さて、Alice Corp v. CLS Bank の件である。

■ 件の判決は米国最高裁のものであるが、日本のメディアで、さも「ソフトウエア特許は死んだ」的に書かれているのを目にした。これについては少し誤解があるようにおもう。
 この判決については既にいくつかの論考がネット上にもあがっているので、詳しくはそちらも参照して頂きたい。私としては敢えてそれらにさらに論考を加えようというのではない。
 そしてもちろん反対の説を唱えるつもりでもないのだが、私の言いたいことを敢えてやや扇情的に書くならば、

とりたてて内容のない判決にしか見えない

というところである。

■ 本件の争点は「抽象的アイディア(Abstract Idea)」(「ソフトが」ではない)が特許適格性(Patent Eligibility)を有するかどうかに関係している。
 判決文を見ると、そもそも抽象的アイディアが特許適格性を有しない理由は、科学技術における必須の活動を先取(pre-empt)させて独占的行使を認めるようなものだから(判決文 II, paragraph 2のあたり)であるという。これは納得がいく。日本風にいえば産業発展を目的とする特許制度において、産業発展を阻害する権利創設は本末転倒だというのであり、じつに当然のことである。
 ところが本件判決は、そのすぐ後で、抽象的アイディアがクレイムに含まれるからダメ、という趣旨ではないよ、としたうえで、「新規であり有用であれば」(ibid, paragraph 3でDiamond v. Diehr, 450 US 175, 187(1981)を引用してるあたり)特許適格性を有すると言える余地があるとも述べている。
 つまるところ、「抽象的アイディア」が含まれるか否かで判断できる問題ではなく、「抽象的アイディアが産業発展を阻害するならダメだ(なぜならそういう抽象的アイディアは産業発展を阻害するから)」というように述べているようにも読め、論理的にはやや破綻している(トートロジー的である)とも読めなくはない。

■ こうした判断がでてきたのは結局のところ、先例を正当化するためではないかというのが私の個人的な感想(これもまた、身びいき?)で、最高裁としては旧知の「三部作判決」を変更する気は毛頭ないと言っているだけに見える。つまり定立されている規範としては何ら従来と変わりないのではないかと思われるのである。

■ で、あれば
 本件の問題は対象となった発明の特許適格性が、従来通りの規範に沿って判断してどうかということになるのではないか。

 誤解を恐れずに大雑把にまとめれば、FlookをNG、DiehrをOKとした旧来の判決の要旨は、ソフトウエア・アルゴリズムについてはより大きなプロセスの中に含まれている限り特許適格性を有し得る、ということであり、新規性がアルゴリズムそのものにかかるならば特許適格性は否定されることになる。このあたりを今回の判決では、

significantly more than a patent upon the ineligible concept itself

というように表現しているんだろうと思うんだけれども、では具体的にそれはどういうものか明示したか(Hasbro等のゲームメーカはアミカスブリーフで明示を求めたようだ)というと、そうでもない。

 多少なりとも判断基準っぽいものを示した部分があるとすれば、Diehr事件を引用して述べている、「産業が得ることができなかった何を提供している」という部分かとおもう(ibid, B, 1, paragraph 5あたり)。単に「コンピュータを用い、」と書けばいいという話でないぞ、と言いたいようだが、これも従来から当然の話であって、どうもすっきりしない。

 本件、要は対象となった特許権におけるクレイム・ドラフトという事実問題なのではないかと思うわけだが、それに対して明確な解答が判決から得られないのだ。

■ つまるところ、この判決は従前の取り扱いを再確認しただけなので、取立ててあわてて何かを検討しなければいけないというほどのことはないのではないか(米国代理人は例のごとく大騒ぎするだろうけれども)。

■ ただ現実には USPTO が本件に対する反応を示している(http://www.uspto.gov/patents/announce/alice_pec_25jun2014.pdf)ことから、実務家としてはこれに対応せざるを得ないのは確かだ。と、いうよりも、これに対応しておくことしか、いま特にできることがない、と言うべきか。
 つまり発明が「抽象的アイディア」に係る可能性があるのであれば、このUSPTOのアナウンスにある two-part analysisを通過し得るかくらいは検討しておこうよ、ということであろう。具体的な権利化の戦略としては「単なる一般的なコンピュータの動作でないこと」が最後の砦になりそうであるが、審査官ごとのばらつきは拡大することになりそうで、そこが最も恐れるべきところであろうか。

■ なお、なんとなく、日本の審査基準に比べて「ゆるい」基準ではありそうだと思われるかも知れないが、米国での判断基準は日本における判断基準とそもそもベースが異なるので、「ゆるい-きびしい」という一次元的論理で語るのはちょっと乱暴で、日本でOKなように書いておけば米国でも大丈夫、というのはすこし楽観的に過ぎるんじゃなかろうか。米国出願を考えるなら、少なくとも上記の two-part analysis は意識しておくべきところであろう。

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コメント

こんにちは。。
技術分野が化学で無いので、あまり関心を持たなかったですが、
化学の分野の権利は、実施例に限るような権利で、権利範囲が狭く感じるようになりました。
その点では、ソフトの分野の方が多少権利範囲が広い?のかな。
と言うのは、化学では、実施例に無いものをクレームで含めることが実務上難しいのではという印象からです。
本当でしょうか。

投稿: yy | 2014年10月16日 (木) 14時21分

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