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2014年4月22日 (火)

刺激惹起性多能性獲得細胞 ばなし

世の中の多くの人が美人に憧れるんでしょうけど、美人だっていいことばかりじゃあない…といいますか、巷で「美人何々」と呼ばれているのにはロクなものがないような気がします。

▽ 例えば、女子大生が殺人事件に巻き込まれれば「美人女子大生」、主婦が何かの犯罪をしでかせば「美人妻」と きたものです。あの女性はどうやら普通に「美人」のカテゴリーに入るのだそうで(僕はそういう判断に自信がないのです)「美人研究員」ということに、なるのかどうかと思っていたらなんだか違うラベルがあるようです。

…しばらく様子見をしていたんですが、一向に「でできそうな」議論が出てこないので、ここいらで一石投げてみようかと。こういうのは事務所の blog ではできないので、個人 blog の方で書いてみます。

■ あの割烹着の女性の件です。僕の(技術)分野でないので、以下の議論におかしなところがあったらご指摘のほど。

 さて。

■ まずはこの件全体について個人的な意見を。

 とはいえ、個人的な意見を述べるには僕自身あまり興味を持って経過を見ていないのですが、どうやら今日(21日)にNHKに出ていた研究者の一人が、

「写真を切貼りしたことが既に捏造」であり、それは科学ではない

という解説をしたもよう(twitterで見たので正確でないかも知れませんが、幾人かの tweet から推測するにそういう論旨だったもよう)です。

 私としては、もし写真が「切り貼り」(つまりコラージュ?)されたものだったとすると、この解説の意見に賛成ですね。写真の「切り貼り」は捏造であって、いかに他に正しい結果があろうと、その捏造画像が含まれた論文は失格だと思いますね。レフェリーが気付かない程度に巧妙に仕組まれたものだったとすると なおさらです。

■ で、今度は僕のフィールドに近い特許の件です。どうやら(これもまた聞きなんですが)、

  • 特許出願があるからあまり詳しいことは言えないのは当然
  • 特許出願中は秘密にしておくのが当然で、これが研究の邪魔(?)になってる
  • 研究論文がダメになったので特許出願もあぶない

とかそんな話がでているもよう(これも二次情報です、すみません…ゴシップとか弱いんですよ)。

■ 弁理士、というか知財に関わっている人から見ればこんな発言は笑止千万で、まず最初の二つについては、特許は出願されればやがて審査がどうとかに関わらず(特許になったとかならないとかに関わらず)公開される(例えば今回の彼女の出願は国際特許出願であり、既に公開されている=WO2013163296)ので、秘密にする意味がわからない。つまり前二つは、おそらく「出願前」と「出願中」とを取り違えているのです。

 ですので、こちらは、すこし勉強してください(特に一方の発言は特許出願をよくしていそうな研究者から発せられた模様なので、そういう知識も必要でしょ?)としか言いようがないものです。

■ 最後の一つ、特許性については、確かにやや不安要素はあるものの、どういう権利の請求の仕方をしているか(どうクレイムしているか、という)によって判断は随分違ってくるはずのもので、そこを検討せずに一概に片づけることができない問題です。この点は、そういう議論に踏み込めないのに、「専門家」の意見を鵜呑みにして断定的に書いているマスコミが問題だと思います。

■ ちなみに上記公開公報(WO2013163296)によれば、請求の範囲(クレイム)は74あり、そのうち最上位の請求項は、

1. A method to generate a pluripotent cell, comprising subjecting a cell to a stress.

となっています。あまりに簡単で訳すまでもなさそうなので敢えて訳しません(あ。pluripotentは、「多様性の」という意味だそうです)。ポイントはこれが単なる方法の請求項で、ストレスを与える、ということしか書いていない点です。

 発明の特許要件にはたしかに発明が完成されていること、というのがありますが、「細胞にストレスを与える」ということならば普通に実施できそうなので(それによって多様性細胞ができる、という部分を置いておけば)、この方法発明については、あながち発明が未完成とする根拠もなさそうですし、実施可能性という点も問題はなさそうです。

 ただし、細胞にストレスを与えるということだけならば、新しさの観点の特許性(新規性・進歩性)は ないようです。と、いいますのも、本件請求項1には、US2001/0070647A1(MARI DEZAWA et al)がX文献(単独で新しさを否定する文献)として引用されているのです(国際調査報告より)。

■ ここではその文献との対比はしないこととしても、要するに

その程度のことは新規ですらない

ということです。しかしそうだとすると、今度は発明が未完成であるとは(外見的には)言えないように思われます(だって、従来からあった方法だと言うのですから)。

 念のため、ここで申し上げますが、発明が未完成であるか否かは、発明がクレイムにおいてどのように表現されているかにも依存するのであり、ここでは単純に「こうしてこうする方法」とだけ書かれているために、その方法によってSTAP細胞ができていたか否かとは無関係に、当該クレイムの特許性の議論ができてしまうことがポイントなのです。

 論文が正確であるか否かと、それに基づく特許出願に係る発明が特許されるか否かとは簡単には同列に論じられないのです。

■ 寄り道になりますが、ちなみに国際調査報告からすると、請求項7については進歩性有りの判断がでているようです。請求項7は、

7. The method of any of claims 1-6, wherein the cell is present in a heterogeneous population of cells.

となっています。米国で出願されたらしいのに勇気のある(?)クレイムです(米国では形式的に拒絶されるクレイムだからです)が、それはそれとして、「不均一細胞集団中の細胞にストレスを加えて多様性細胞を得る」というのには新しさはある、という認定を受けているというわけです。

■ さて。これを日本で権利化するためには、まず日本国内の特許出願に変換する手続が必要です。これを「国内移行」といいます。国際特許出願は、「国際特許」というもの(実はそんなもの、ありません)を狙うのではなくて、特許協力条約という条約の各締約国での権利を得るための手続です。すべての締約国で権利化するのは第一に経済的な理由から困難ですので、ふつう、権利が必要な締約国を選んで「移行」します。

 日本で権利がほしければ、日本国へ「移行」するわけです。

■ 国内移行後、審査の請求を行って、特許庁審査官による審査を受ける必要があります。

 ここで我が国で特許になるかどうかが判断されます。既に書いたような理由から、私個人としては、本件を新規性・進歩性以外の観点で拒絶することが難しいのではないかと考えます。つまり発明未完成を根拠にすることは難しいのではないかと思うわけです。

■ それでは実施可能要件はどうか。仮に発明が実施不可能である(ストレスを与えても多様性細胞は得られない)というのであれば、記載要件(実施可能要件)の問題になります。クレイムされた発明は実施ができなければならないのです。しかしもし、この拒絶理由が通知されたとしても、

  1. STAP細胞があった場合:後だしの実験結果が認められるか否か
  2. STAP細胞がなかった場合:STAP細胞とは関係ないものとしてクレイムが書き換えられるか否か

の問題をクリアすれば権利化できる可能性があります(もともと欲しい権利であったかどうかは別として)。

■ しかし特許庁もやりにくいだろうと思うのです。というのも本件、STAP細胞の有無という大事なところが未だ不明確であって検証待ちであり、かつその検証が

いつになったら終るのかが必ずしも明確でない(サイエンスとは一般にそういうもの)

のに対して、一度拒絶理由を通知してしまうと、概ね60日以内には応答して貰わなければならず、特許するかどうかの判断を迫られてしまうからです。

 STAP 細胞があったと後から判明したとき、拒絶査定していたら責められる立場になりますし、一方、STAP細胞がなかったと後から判明したとき、特許査定していたらこれも責められることになるわけです。しかしながら産業発展という特許法本来の側面を考えたとき、(他の特許要件を満足するときには)特許査定しておかなければ、万一の場合にどうしようもない結果になるわけで、たいへん悩ましい、正直言えば移行してほしくないとか思っているんじゃないかと。いえ。これは悪い冗談でした。

■ ともあれ、論文については個人的には今の段階で既にダメだろ、と思うのですが、特許出願については、それとは何ら関係なく、権利化される可能性はまったく否定できない、と考えるわけです。

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コメント

 特許制度は中途半端な理解で語られることが多い。中国が新幹線技術について出願したときも的外れな議論が多く、JR東日本の社長まで会見して、相手の技術内容もわからないままに断固した対応をとると、言わざるを得なかった。その後、中国新幹線事故がおきたら、何も報道されなくなった。
 STAPの特許性はないと思います。26年前の常温核融合発明と同様な道を辿るのではないでしょうか。
 STAPがノーベル賞級の発明であるとして世間一般に知られており、発明者の一人とされる人が、「合理性ある仮説」でしかない、と公に言明したものを特許査定できる審査官はいないでしょう。
 常温核融合の時は、現象が証明されていないとして拒絶査定されたはずです。それなら、常温核融合実験装置としたらいいのか、と議論したものです。
 怪しげな発明でも、世間的に話題となったものには研究費がつくので、「常温核融合」における電極材料の研究」のお題目を付けると、研究費がつくので、本題はともかく自分の研究を強引に常温核融合に結びつけて国から研究費をせしめるということが行われていたようです。
 ところで、STAPに対してISRで引用された発明は、東北大の出澤真理教授の出願で、STAPの請求項1と同じ内容が記載されているので、X文献として引用されたものです。
 経済産業省所管のNEDOが注目して開発支援しており、第三の多能性細胞(これはMUSE細胞と名づけられた)として「特許が成立した」と発表しているが、マスコミの話題としてはあまり取り上げられていない。
 この違いは、理研の宣伝が旨いのか、ノーベル賞候補と言われている笹井さんと、NATUREの権威なのか。
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100177.html

 MUSE細胞は、実用化に向けて開発研究がすすめられており、NEDOは「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発」について公募している。
 この開発プロジェクトの採択審査委員に理研の細胞材料開発室の室長が入っているのだから、当然理研はMUSE細胞の存在を知っているといえるだろうが、理研の特許担当者までには先行技術として知らされていないので、一行クレームの可能な大発明と思い込んだのだろう。
 副センター長の笹井さんは、実験には加わらず、論文の論理構成について参加しただけ、と会見で言ってしまっているが、そうだと、発明の着想には加わっていないことを言明したのでNATUREの審査を通るためには貢献しているが、発明者とはいえないのだろう。
 検証委員長の丹羽さんは、特許出願の後に論文作成に加わったようで、発明者としては記載されていない。
 論文著者としては載っていない発明者のkojima kojiとは何者?
 STAPの出願人はアメリカの病院、理研、東京女子医大となっているが、STAPがごみ発明と判明したときに、出願費用の分担が適切だったのかとクレームがつく可能性がある。理研は、その辺を整理しておかないとまずいのでは。

投稿: 月山 | 2014年4月22日 (火) 12時38分

 詳しくはないのですが、脇から申し訳ありません。
新幹線の件、BBSを流し読みしていると“中国側が技術指導を受け入れず”、安全確認も怠り手抜き工事の末の事故、と見たように思います。報道は政治的配慮という事ではないでしょうか?
 何も問題がなければ車両を埋める必要などもなかった訳で、BBSで話題が途切れたのは掘り起こした後だったように記憶しています。
 間違っていたらご容赦下さい。一点、気になったもので。

投稿: 匿名 | 2014年4月23日 (水) 17時09分

>特許出願があるからあまり詳しいことは言えないのは当然

高効率でSTAP細胞生成する条件(ベストモード)を伏せて、の意味のように勝手に思ってました。

常温といえば、「常温超伝導」もありましたな?
いまどうなっているのか?

投稿: おやじ | 2014年4月28日 (月) 14時34分

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