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2010年12月 3日 (金)

条文を読んでみるはなし(45)

おおよそ高校受験程度の学力というのは、ほとんど学校で教えられたことをどれだけ覚えているかで決まっている気がします。
 学生時代、私も他の多くの例に漏れず、塾講師(というか個人指導塾だったけど)のバイトをしていたのですが、とにかく「成績の悪い子」の特徴というのは概ね型が決まっていて、その代表例が、先週やったことを今週忘れてるタイプの子だったと記憶しています。

 さて。少し前にやったことですが、皆様覚えていらっしゃるかどうか :) 。

■ 「特許を受ける権利」というのは、何だったか、といいますと、発明者が原始的に取得する権利で、ある見方では国家に対し特許を付与することを請求するための請求権だといい、また別の観点では財産権の一種であるともされ、結局は双方の性質を有したものだ、などと説明されています。
 でもってこの「特許を受ける権利」は、出願後、審査を経て特許権が成立すると発展的に消滅し、また拒絶査定の確定等によっても消滅します。
 そして財産権ですから、移転も可能ということになってます。

■ さて、
それで本日は38条。

□ 第38条 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。

これまた素敵に短い条文です。しかも内容がカンタン。
 特許を受ける権利が共有になってたら、そのうちの一部の人は、抜け駆けして出願しちゃだめですよ、と書いてあるだけのことです。
 抜け駆けしてされてしまった特許出願は、拒絶理由になりますし、無効理由ともなります。

■ ところで、そういう話なので、

「じゃぁ以上で」

で済ませるか、というと、そうでもありません(青本では若干そういう傾向が見られますが)。
 この38条に関しては、昨今、冒認出願の救済と関連して議論が高まってきているからです。
 参考になる判例の一つは、平成9年(オ)1918号(生ゴミ処理装置事件)というやつです。
 事案を少し整理した文献(知的財産法政策学研究 Vol.10(2006), pp.103-)から引用しますと、

  •  XとZは共同で生ごみ処理装置について特許出願をした。その後、YはXから右特許を受ける権利の持分の譲渡を受けたとして、翌年、特許庁に出願人の名義変更届けをし、その後本件発明について特許権者をZ及びYとする特許が登録された。
  •  この出願中、XはYを相手に、自分が特許を受ける権利の持分を有することの確認訴訟を提起したが、その間に特許が登録されたため、第一審でXは訴えの変更をして、本件特許のYの持分の移転登録を求めた。

というものです。
 この判決の要旨は、

本件の事実関係の下においては、上告人は被上告人に対して本件特許権の被上告人の持分につき移転登録手続を請求することができると解するのが相当

ということにまとめられています。当初は問題なく出願がされていたなど、事案がかなり特殊であることに注意してください。

■ つぎに、もう一件。平成13年(ワ)第13678号(ブラジャー事件)というのを見ます。
 こちらの事案はこんな具合。

  •  訴外Yは、原告Xに対し、乳癌等で乳房を切除した女性が補整用に用いるブラジャーの製作を依頼。
  •  原告Xは試作品を縫製し、Yに送付。
  •  その後、Yが代表取締役を務める被告Zが乳癌等で乳房を切除した女性が補整用に用いるブラジャーの特許を出願。その後、国内優先出願などを経て、結果的に登録。
  •  原告Xは、当初出願発明の発明者は原告であるとして被告Zらに対し、当初出願発明につき特許を受ける権利の確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起(平成11年(ワ)第20878号)。同裁判所は、当初出願に係る発明者が原告であることを認定したものの、国内優先権出願に係る特許の設定登録がされたことによって、原告の特許を受ける権利は消滅したとして、特許を受ける権利の確認の利益がないと判示。
  •  そこで本件では、原告Xは、被告Zに対して、特許権の移転登録を請求した、

ということです。
 本件では裁判所は、本件発明は原告によってなされたと認定しつつ、先の最高裁判決と本件事案と比べて、次のように述べています。

 平成13年最高裁判決は、「本件特許権は、上告人がした本件特許出願について特許法所定の手続を経て設定の登録がされたものであって、上告人の有していた特許を受ける権利と連続性を有し、それが変形したものであると評価することができる。」と判示し、真の権利者が特許出願をしたことを前提として特許を受ける権利と特許権との間に連続性があると評価すべきであるとしている。すなわち、特許法は、特許権が特許出願に対する特許査定(又は審決)を経て設定登録されることにより発生するものと定めており、このような特許法の特許権の付与手続の構造に照らすと、平成13年最高裁判決の事案において、自ら特許出願をした真の権利者である上告人に対して特許権の持分の移転登録手続請求を認めて権利者の救済を図ったしても、真の権利者が既に行った特許出願に対して特許がされたとみる余地があるから、特許法の登録制度の構造における整合を欠くことにはならいない。
 これに対し、原告に本件特許権の移転登録手続請求を認めることは、自ら特許出願手続を行っていない者に対して特許権を付与することを認めることとなり、特許法の制度の枠を越えて救済を図ることになって、上記の登録制度の構造に照らして許されない

つまりは、自己出願がないと移転登録請求はちょっとね、と述べているわけです。

■ そう考えると、共同出願違反の事案の対処というのは実は結構面倒なわけです。
 まず拒絶理由の判断時というのが、原則としては査定時となるはずなのですが、38条の条文じたいが、

「…特許出願をすることができない。」

とあって、出願時基準のような書き方をしているため、例えば出願中、抜け駆けされちゃった相手に対して、抜け駆けした側が、

わかったわかった、持ち分分けてやるから…

と、一部譲渡の手続を取ったとしても、譲渡では出願時点まで遡って共同出願したことにならず、抜け駆けされた側はもとより出願をしていない形になるので問題が残るのではないかと。
 そこで、出願人を追加するような補正を行うというようなことが考えられるわけですが、これについては審査便覧21.52(補正−1)という項目に、「出願人の表示の訂正について」という項目があり、原則としては、出願人の変更、追加、削除は出願主体の変更となるので補正は認めない、とあって、ぎょっ、と思うわけです。ところが審査便覧にはそのすぐ後に続きがあって、

2(抜粋).出願人の表示を誤記(脱漏を含む)した場合において、手続補正書に「誤記の理由を記載した書面」を添付したときは、その補正を認める。
 ただし、書類全体から判断し、出願の主体の変更とならない場合に限る。

となっていまして、結論的に言えば、脱漏であるとして補正を求めることになるかと。もっとも補正が可能なのは特許庁に手続が係属している間なので、一旦登録がされてしまうと、とても面倒なことに。

■ などというわけで、現在、「真の権利者」をどう保護するか、という議論が活性化しているわけでして(結論としては移転請求を広く認めることが求められている)、例えば、AIPPIで研究された成果などが、今年の春頃出ていたりするわけで(http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken_kouhyou/h21_report_02.pdf)、今後の動向がひとつ、興味深いはなしなのです。
 冒認出願問題まで含めてしまったので、いささか長くなりましたが、まずはこのへんまで。

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