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2010年7月 9日 (金)

条文を読んでみるはなし(26)

一週ずらして1項を書き、2項の最初の記事を飛ばしているという、「時そば状態」(違う)になっておりますが、この混迷の状態を少しでも解消しておきたいと思います。

▽ …ま、実は解消するのは、まだちょっと無理なんですがー

■ とりあえず29条2項へ進みます。まずは1項も含めて条文を引いておきます。

□ 第29条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
 1.特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
 2.特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
 3.特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

この2項は、いわゆる「進歩性」の規定と呼ばれているものです。

■ 実をいえば、「進歩性」などという言葉は、条文のどこにもないのです。
 …それをいえば、1項の新規性だって、と思われるかも知れませんが、以前書いたように、旧法では「新規なる発明を…」という規定があり、それを具体的客観的に規定しようとしたものが1項であるとすると、新法の29条1項では「新規」という言葉は消失しているとしても、実質は「新規性」を規定したものだ、と納得できそうです。
 一方、旧法には2項相当の規定はなく、「進歩」なる語はどこにも登場したことがないわけです。

■ この進歩性という言葉は、欧州で使われる、Inventive Step というものの訳語であると説明されることもありますが、この Inventive Step という言葉に「進歩」(Progress)という観念が入り込んでいるとは必ずしも言えないわけです。
 ところで言葉というのは一人歩きをすると大層自由な存在で、個々人の捉え方により大きなニュアンスの相違として跳ね返ることがあります。ここでいう「進歩」という語感が、発明の特許性判断における審査官ごとのバラツキの大きさに影響していないか、という心配はあながち簡単に、

「あっりませんよ、そんなものー」

とは言い難い気が。

■ 一方、米国の 35 U.S.C. 103では、Obviousness(自明性)という言葉が使われており、為された発明がある基準から進歩的であるか、ではなくて、ある基準に鑑みて自明と言えるかをもって、特許性を判断することにしているわけです。「自明か」と問われれば、「進歩しているか」と問われるよりも低い基準になりそうで、かつ、各人の受ける感覚の相違のバラツキも小さそうに思えるわけで…。
 と、まぁこの話は、私が個人的に「進歩性」の語を厭う理由の一つであるわけですが、まぁそれはそれとして。

■ すこしばかり前振りが長かったですか。
 とりあえず歴史的経緯というのを書きたかったのですが。
 先ほども書いたように、我が国特許法において、この「いわゆる進歩性」の規定が導入されたのは、新法からでした。旧法時代にはこんな規定に相当するものはなかったのです。
 まったくちなみに、世界的にみて、"Obviousness"という語(概念)が使われたのは、1852年の英国の Patent ACT が初めてだ、という話です。「初めて」かどうかは伝聞ですが、以前ある先生からご依頼を受けて文献を探したので、その種の記載があったことは確かかと思います。

■ さて、仕切り直しまして。いわゆる進歩性の考え方としては、

  • それを発明成立性の要件と考える
  • それを発明の特許要件と考える

の二通りがあり、旧法において「いわゆる進歩性」相当の規定はないとしても、「旧法時代は新規でさえあれば登録していた」と言えるかというと、そうではありません。旧法時代の大審院判例を見ていきますと---各種の判断が見られますが基本的には---発明成立性の要件として捉える考え方が通説的だったようで、

「こんな当たり前のもの、発明といえるか」

という蹴り方をしていたわけです。

■ じっさい、「当たり前のもの」の登録を阻害することは新法制定時にはすでに当然のこととして議論はされていたようで、あとは要するに発明成立性の要件とするか、特許要件とするかについて侃々諤々があったようです。結局のところ、冒頭で見ましたように、「特許要件」として成立させることとなったわけですが…
(つづく)

 

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