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2010年7月20日 (火)

たまには意匠の話をしようか、と

先だって発売された iPhone4 では、筐体外周部の「さわり方」によって基地局との通信状況に大きな差がでるというような話で、どこかでは大いに盛り上がっていたようであるが、3GS 利用者の私としてはまったくもって「どこかの事件」であって、特段の興味を持ってはいなかった。

▽ それが先週になって、Steve Jobs が重大発表をするというような話になり、外周部に手が触れないようにケースを無償配布するということを聞いて、ああこれは大問題だったんだな、と。

※ 先週金曜分の「条文を読んでみるはなし」は「創作非容易性」の点に入っていて、私としても暴走気味になるものなので、すこし落ち着かせてから公開致します。すみません。

■ 製品開発においては、その技術的要素だけでなくて、デザイン的要素もまた重要なのは当然である。そこで日本の産業財産権法の体系としては、特許・実用新案で技術的要素の保護を図り、意匠法というものでデザイン方面の保護を図ろうとしているわけである。

■ と、まぁ
大上段に構えて書き始めたけれども、実をいえば私としては意匠法という法律があまり好きでない(意匠法がわかりません、と言っているわけではなくて、意匠法自体がよくできているとは思えないという意味で好きでない)のである。そうは言っても、ご依頼を受けることがあれば、そこは法律の定めるところに従って実務を行わなければならないし、じっさい形状に特徴のある案件を受けた場合、並行して意匠も出しておくほうが良いか、などと悩まないこともないのだが…。

■ 受験時代には、例えば意匠の類否等の評価をどうするかということについては、需要喚起で説明するか、創作説で説明するかなどとゆー不毛な(?)議論があった。
 要するにある公知意匠と出願にかかる意匠とが類似であると言えるかどうかを、出願にかかる意匠が、公知意匠に比べて新たな需要を喚起するかどうかで定めるか、創作性の有無で定めるか、というような話である。そう理論は先行しても、現実的には後で書くように、全体的にみて、

「似てるかな、どうかな」

的な判断になるので、この種の議論をいつ聞いても、私は不毛に感じたものだった。

■ 例えば、特許出願においてクレイムに沿っていない主張が受け入れられないのと同様、意匠出願でもクレイム相当範囲外の主張は受け入れられない。意匠出願における「特許請求の範囲」相当の部分は基本的には図面なので、図面に表されていない特徴を主張してもダメなわけである。
 今回は、そういう意味で頑張ったけど受け入れられなかった例をひとつ(平成22年(行ケ)第10079号)。

10072001

■ 意匠にかかる物品は「マスク」。ただしマスクの上縁部の「部分意匠」である。
 引用公知意匠は実用新案登録出願の図面(右図参照)。問題は意匠法3条1項3号該当(公知意匠に類似の意匠)かどうかである。
 すこし長くなるが、判断のポイントを抜き出してみる。

ア 原告は、本願意匠に係るマスクのような、立体物でありかつ形態が不使用時状態、使用直前状態、装着状態により変化する物品については、外部から観察される限り、物品の状態や観察方向は限定されるべきではなく、各状態、特に、需要者にとって関心が最も高い装着状態の形態に重きをおいて、当該部分意匠を多方向から三次元的にかつ総合的に観察した上で、部分意匠の形態の特徴を把握するべきであると主張する。
イ しかしながら、意匠登録を受けようとする者は、願書に意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付しなければならず(意匠法6条1項)、通商産業省令で定める場合はこれに代えて意匠登録を受けようとする意匠を現した写真、ひな形又は見本を提出することができ(同条2項)、意匠に係る物品の形状等がその物品の有する機能に基づいて変化する場合において、その変化の前後にわたるその物品の形状等について意匠登録を受けようとするときは、その旨及びその物品の当該機能の説明を願書に記載しなければならないとされている(同条4項)。そして、いわゆる基本六面図のほか、斜視図その他の必要な図面を加え、意匠の理解を助けるため必要があるときは、使用の状態を示した図その他の参考図を加え(意匠法施行規則3条、様式第6備考8、14)、開くものの意匠であって開き等の意匠の変化の前後の状態の図面を描かなければその意匠を十分表現することができないものについては、意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成すべきものとされている(同様式第6備考20)。
 したがって、出願人たる原告において、不使用時状態、使用直前状態及び装着状態とで、意匠に係る物品の形状が変化するというのであれば、本来、適宜の必要な図面を加え又は意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成すべきものであるところ、原告は、願書に、折り畳むとフラットな状態になることは記載しているものの、装着状態が別紙第1記載の図面とは異なるものであることを記載していないし、装着状態の説明もなく、別紙第1記載の図面以外の図面等を提出していない。

■ つまりは原告出願人は基本六面図だけしか出さなかったようだが、類否の主張としては

「不使用時状態、使用直前状態、装着状態により変化する物品については、外部から観察される限り、物品の状態や観察方向は限定されるべきでは」い、「需要者にとって関心が最も高い装着状態の形態に重きをおいて、当該部分意匠を多方向から三次元的にかつ総合的に観察した上で、部分意匠の形態の特徴を把握するべき」

というのだ。どうやら基本六面図だけでは装着状態の形態は不明なのであるが、既にそれしか出してはいないから、この状態で頑張るほかはない。そこで原告、「本願においては、基本六面図が開示されているから、マスク装着状態の再現性があり、装着状態の形態も開示されているのに等しい」と頑張るのだけれども、裁判所は記載要件の規定を参酌して、「出願人たる原告において、不使用時状態、使用直前状態及び装着状態とで、意匠に係る物品の形状が変化するというのであれば、本来、適宜の必要な図面を加え又は意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成すべき」だとして受け入れていない。

■ もっとも本件の場合、後出しの写真も参酌して、

「それをみても似てるよ」

と言われてしまっているので、救済は難しかったのであろう。
 なお、意匠の類否判断の基準について、この裁判所では、

意匠の類否判断は、全体的観察を中心に、これに部分的観察を加えて、総合的な観察に基づいてされるべき

などと難しく述べるんであるが、これはつまりは、部分に分割して、

「ここは似てる、ここは似てない」

などと言いつつ比較するんじゃなくて、全体として、

「似てるかなぁ? 似てるよねぇ」

とやるのが正しい的な話で、この辺までくるとなんというか主観的創作性も含んだ観点で評価されているのが当然視されているというか…、私にはそれでいいような、悪いような、客観性のない話に感じられるのである。
 そうとすれば、類否判断の「説得」方針についていろいろテクニックがあってもいいわけで、まとめりゃひとつ… …まぁいいや(意匠委員会あたりでやってるだろうと思うのですがあまり聞かない。どうも宣伝が足りないよな…)。

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