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2010年7月 5日 (月)

盗作疑惑の晴れた くず のはなし

犬が人間を噛んでもニュースにはならないが、人間が犬を噛めば立派なニュースだ、

というような言葉を聞いたことがあるが、ニュースというのはかなり片面的で、訴訟が発生したときにはヤンヤとはやし立てておきながら、その訴訟がはやし立てた方面と違った結論になると押し黙ってしまう。
これがまぁニュースの本質だというなら、ニュース自体が相当悪い性格を有しているというべきだろう。

▽ そうでも言わないと、ニュースを使ったハラスメントというのが実現できることになってしまう。

■ その漫画、「弁護士のくず」は、小学館の漫画雑誌に連載されているものであるが、「懲戒除名“非行”弁護士を撃て」なる名称の書籍の著者である弁護士から盗作だとして訴えられていた。
 訴えられた当時は、「盗作疑惑!」などと多くの雑誌や新聞が書き立てた、ようだ。

■ 当該事件については、昨年末に盗作ではないよ、という判決がでていたが、原告側が控訴していたようである。このほど控訴審で原審と同じ結論がでた。しかし、この結果はあまりメディアには採り上げられなかった。

■ 両者のストーリーについては、地裁判決平成20年(ワ)第5534号に詳しくでているから、ここでは繰り返さない。なんなら単行本で確認を…といいたいところだが、該当するエピソードは、争いがあるものとして(だと思うが)単行本掲載を見送られている、そうである。

■ 裁判所の判断を、まず地裁のほうから見てみる。

 A.(双方ともの著作の題材が、)実在の事実ないし事件であることについては、当事者間に争いがない。

 B.同一性は、表現それ自体でない部分において同一性が認められるにすぎず、翻案の侵害の根拠となるものではない。

 C.上記事実の中には、原告書籍の出版以前には一般に知られていなかった事実(原告が顧問弁護士の事務所を訪問した際の同弁護士とのやりとりや、原告がオーナーの妻の自宅を訪問するが面会を拒否されることなど)も存在するが、これらの事実も、あくまで事実である以上、一般に知られた事実と異なる取扱いがされるものではない

 D.事実ないし事件を素材とする作品であっても、素材の選択や配列、構成、具体的な文章表現に著作者の思想又は感情が創作的に表現された場合は、著作物性が認められ(る)

 E.表現上の創作性がある部分において既存の著作物と同一性を有する場合は、翻案権の侵害となり得る。

という前提のもと、「原告書籍と被告書籍との間には、次のとおり、表現上の創作性のある部分において同一性を有すると認められる部分も存在しないというべき」とする。

■ 要するに「弁護士のくず」で題材となった事件は、原告著作の題材と同じであるようだ。で、原告側はストーリーの類似性として、

  • (1)事件を受任した弁護士が報酬を期待して喜ぶ点、
  • (2)弁護士が依頼人を支配しているという「逆転した支配関係」
  • (3)敵側弁護士事務所の様子
  • (4)解任通告に慌てる様子
  • (5)敵側弁護士を侮る様子

など、多くの点を指摘しているものの、

  • (1)について:事件を受任した弁護士が報酬を期待するのは当然 → その感情の表現は自然でありふれており、創作性が認められない
  • (2)について:逆転した支配関係の表現は単なるアイディア → 翻案には当たらない
  • (3)について:表現された内容が違う
  • (4)について:表現は自然でありふれており、創作性が認められない
  • (5)について:侮ることとなった原因がちがい、表現された内容がちがう


といったように基本的に原告側書籍のうち、訴えにおいてポイントとなっている部分は、ありふれた表現であって創作性が認められないようなものか、あるいは表現された内容に相違があるという判断がされている。それで、被告側漫画が、原告側書籍の翻案であるという原告側の主張を蹴ったわけだ。判決を見る限り、妥当な判断だったと思う。

■ 控訴審はほとんど原審をサポートしており、

原告書籍各部分は、いずれも、表現において、ごくありふれた記述をしているにすぎない。他方、被告書籍各部分は、エピソードやアイデアを共通にしている点を含むものの、原告書籍各部分と表現上の本質的な特徴部分において共通するものは存在せず原告書籍各部分の表現上の本質的な特徴を直接感得するものということはできない。したがって、被告書籍各部分は、原告書籍各部分の翻案に当たらない。また、同一性保持権等の侵害に当たるとの主張、民法709条所定の不法行為に当たるとの主張も採用の限りでない。

と結論を述べている。
 原告書籍は(私は読んだことがないが)ドキュメンタリーなのではないかと思うのだが、それ故に小説のように表現上個性的なものがあるわけでもなく、エピソードやアイディアが共通していても、表現としては共通していない、というような判断に至ったのではなかろうか。

■ 翻案であるか否か、また、表現とはどういうものか、を考えるにはちょうどいい素材みたいだし、何よりこれで(おそらくは---まだ上告ということがあるかもなので、おそらくは---)「盗作疑惑」も晴れて、小学館側は大手を振って件の漫画を単行本に落とせるのではないかと思う。そうなったら、話題のために一冊買ってみてもいいかな、などと思っているところだ(あるいは本件自体を題材にして漫画にしたらどうなんだろか。…あー、それはちょっとアレか)。

□ 最新の単行本

弁護士のくず 10 (ビッグコミックス)
井浦 秀夫
小学館
おすすめ度の平均: 5.0
5 どうか読んでください

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