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2010年7月 3日 (土)

条文を読んでみるはなし(25)

先々週分の記事ではありますがー。

▽ 絶賛「書く書く詐欺」中でしたが、いつまでもこの状態に置くわけにもいかないし、かといって吉藤やもうすぐ改訂のある中山先生の本等から諸説を取り出して並べてもどうかなぁと思っていたわけで…。

■ などと思っていたら、渡りに船な判決が。平成21年(行ケ)第10323号事件ってやつ。
 29条1項をもう一回書き出してみます。

□ 第29条1項 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
1.特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
2.特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
3.特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

 ここで、「特許出願前」などという言葉は、比較的分かりやすいのですが、「公然」とか「知られた」等というのは、どういうのが「公然」なのか、どういう状態になれば「知られた」と言えるのかがイマイチ不明瞭なわけです。

■ 例えば外から見えない機械内部の発明があるとして、その機械を外見だけ見た、発明に係る動作は見なかったが、とにかく内部に発明のある機械の外見だけは見た、という場合は「知られた」に該当するのかどうかなど。
 こうした言葉が実際にどういう意味なのかを考えるのが「解釈」というもので、例えばここでいう「公然」等の文言の解釈については、青本に掲載されているわけですが、青本でどういうふうに書いてあるかというと「過去の判例を参考にしてみると…」というように書かれているわけです(正確な文言はこうではないですが)。
 解釈をある程度確定させるのは、過去の判断例による、というわけですが、幸いなことに(あるいは不幸なことに?)この29条1項における各文言の解釈はだいたい争いのないところまでできあがってしまっています(つまり、青本記載の通りなんですが)。
 もっとも、もうすこし争うべき側面があれば、ちゃんと争って後の判断に影響を与えたいところではあります(弁理士といえどそのくらいの野心は必要だと思います)。

■ さて、件の事件ですが、これはある文献が3号所定の「頒布された刊行物」に該当するかどうかが一つの争点になったものです。本件に係る発明は家電製品の発明なのですが、ここでいう文献とは、当該家電製品の修理者(サービスパーソン)用の「テクニカルガイド」でした。
 この事件において、裁判所はまず、

 特許法29条1項3号所定の「刊行物」を「頒布」するとは、不特定の者に向けて、秘密を守る義務のない態様で、文書、図面その他これに類する情報伝達媒体を頒布することを指す。

と解釈を述べます。
 つまり、守秘義務の契約が頒布先との間であったかどうか、これを問題の一つとします。そうして裁判所に提出された証拠を勘案してみると、

 甲1のようなテクニカルガイドは、サービス業者の便宜のために頒布されるものであって、顧客(消費者)に交付されることは想定されていない(乙1)。しかし、そのような趣旨で作成されたものであったとしても、そのことから直ちに、甲1について秘密保持契約が締結されていたと認定することはできない。
のみならず、甲1について、黙示にも秘密保持契約が締結されていたと認定することはできない。
 すなわち、甲1には、以下のとおり、公知の事項が多数含まれており、仮に、秘密保持契約を締結するのであれば、守秘義務の対象を特定するのが自然であるが、秘密として取り扱うべき事項の特定がされた形跡はない。

ということでした。
 書かれていることは明白で、解説の余地もないと思います。守秘義務契約がされていたと見られる形跡が一切ない、というわけです。

■ ちなみに、守秘義務契約がされた上で見せた、というのなら「公然知られ」や、「頒布された刊行物」に該当しない、ということになります。
 そうすると極端なはなし、仮にある人(あなたでもいいですよ)以外の地球上の全員がその発明の内容を知っていたとしても、守秘義務の契約がされた上で知らされたものであれば、それは「公然知られ」等に該当しないというわけです。
 では、守秘義務契約をしたうえで、地球上の全員にその発明を知らせたという場合はどうだろうか…などと考えていくと、夜も寝られなくなる(古い)ので、やめますか。

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