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2010年6月14日 (月)

誰にも間違いはある はなし

この blog でも何度か採り上げてきた「はやぶさ君」が、日本時間の昨日遅くに還ってきました。
1時過ぎに放送された NHK ニュースの映像が秀逸で、大気との摩擦熱で溶融分解する「はやぶさ」本体と、それに先行して放り出されたカプセルとがきれいに映し出されていました。花火のごとく分解する本体の映像には、その儚さを想って涙する人も多かったのではないでしょうか。

▽ ところで今回の「はやぶさ」プロジェクトでは、twitter やブログ、ストリーミングによる中継など、ネットワーク上の技術をいろいろと使っての広報も効果的に行われていました。
 そのうちのブログでは、ラストの数回、「いまX時。はやぶさは地球からLキロのところにいて、あとY時間で再突入です」のような更新が見られましたが、更新者も焦っていたのか、XやY(現在時間や残り時間)に誤りが散見され、ちょっとばかり微笑ましく…

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■ 現在、我が国の特許実務では期日計算の誤りが、かなり致命的なものになる可能性も高く、従って期日計算はとにかく慎重に行われるものです。いっそ、特許庁側で計算して、「この日までに」とでも書いて送ってくれればいいだろうに、などと思っていたのですが、こんな事件が発生するようでは特許庁も頼りにならないようです。

■ その事件は平成22年(行ケ)10095号。主文は不服審判の審決を取り消す、というもの。つまりは原告(出願人)勝ちの訴訟です。
 特許庁からの書面は、まず特許庁内で起案され(この日が起案日)、その後、出願ソフトウエアを使って特許庁からダウンロードした日付に「送達」されたことになります(この日が送達日)。
 本件でいえば、拒絶査定があったのは平成21年6月26日。その送達は同月30日です。出願人が在外者であったため、審判請求期間は1月勝手に延長されていて合計4月となっています。
 さぁ、計算をしてみましょう。
 初日は6月30日。この日は算入しませんから、起算日が7月1日。この4月後は11月1日ですが、期限はその前日に満了するので10月31日が末日となります。さてそこで、平成21年10月31日は土曜日なので、特許庁は休日にあたり、従って期限末日は次の開庁日となって、最終期限は、平成21年11月2日、ということになります。
 そこで本件に係る出願の代理人は当該11月2日に審判の請求を行いました。

■ しかるに特許庁の審決は、いわく、

「本件審判の請求は平成21年11月2日にされているので、上記法定期間経過後の不適法な請求であり、その補正をすることができないものである。したがって、本件審判の請求は、特許法第135条の規定により却下すべきものである。」

とあったようです。

■ おそらく事務所で担当していた人物は目を点にした後、何度も期限を再計算したのではないでしょうか。その上で混乱した状態で外国のお客さんにレターを書き、なんだか特許庁が間違ったようだと。
 かくなるうえは裁判しか方法がなく、勝訴の見込みは十分あるが、コストはかかると。説明も大変で、大変困ったことであったろうと思います。

■ もちろん、裁判においては被告特許庁側はなんら反論せず、請求原因のすべてを認めました。準備手続の場では平謝りだったのではないかと邪推します。
 まぁとにかく、裁判所としても、各事実に争いがないので、今回の審決は取り消すことになったというわけです。
 こういう場合、裁判を行うにあたり必要になったコストは特許庁側に負担してほしい感じですが、これは審決取消とは別途、国家損害賠償とかそっちの方面の別途の争いになるのであろうと思います。
 その後、審判の審理の後に本件がどのような結論となるかはまだ不明ですが、少なくともこの件については公式の(?)謝罪くらいは欲しいところですよね。いや、謝罪といってもアタマ下げろというよりは、再発防止策としてどんなことをするつもりなのかと。特許庁の対策というやつ、ちょっと聞いてみたい気もしませんか?

■ さて「はやぶさ」の、昨日の「帰還」より数日前、 NHK では「はやぶさ」の話を採り上げていました。もとより興味のある話なので録画して観たのですが、中に登場した的川博士のいう、挑戦的技術に取り組めば、後から商業化の可能性もついてくる、という話などが耳に残りました。どうも近年はいろいろ保守的な話が多いのですが、どんな環境でも挑戦的な事柄というのはできるものだろうと。
 「はやぶさ」プロジェクトの科学的意義は十分達成されたことと思いますが、このプロジェクトはそれ以上に、もとより日本人が持っていた挑戦的な精神を思い起こさせてくれたことに価値があるのではないでしょうか。
 末筆ながら…

「おかえり。はやぶさ。」

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コメント

>こういう場合、裁判を行うにあたり必要になったコストは特許庁側に負担してほしい感じですが

裁判費用は特許庁負担なのでは?

それ以外の関連コストまで求めるのは無理と思いますが。
仮に、認められてしまうと、逆のケース、すなわち、出願人側に非があるケースで、特許庁側のコストを出願人側で負担するということになってしまいます。

投稿: とおる | 2010年6月14日 (月) 21時06分

とおる様

コメントありがとうございます。
訴訟費用は特許庁側の負担ですね。
個人的希望としては、「それ以外の関連コスト」ぶんです。
逆のケースの場合---明らかに突拍子もない見解を振りかざして裁判に持ち込まれたケースは別として---争いがちゃんとある場合は、出願人等は審判請求などのコスト負担をしていると思われるわけですが、いかがでしょう?

まぁ私もあまり真剣にコストを負担すべきと主張しているわけではなく、出願人の心情的にはそうだろうな、という程度です。むしろ私の興味は特許庁側の改善策の方ですが、公表されたりはしないものでしょうか。しないかな。

投稿: ntakei | 2010年6月16日 (水) 02時46分

>争いがちゃんとある場合は、出願人等は審判請求などのコスト負担をしていると思われるわけですが、いかがでしょう?

普通に考えて、裁判にかかるコストは、審判請求料に含まれないのではないでしょうか?そもそも、審判請求料が審判での実費相当額を超えてるのかどうかも怪しいような気がしますし。

また、争いがあるといっても、出願人側敗訴で、訴訟費用も全額負担の場合、出願人の心情的にはともかく、客観的かつ法的には、出願人に100%の非があるので、今回の「逆のケース」になると思います。

改善策については、こういう事件が頻発しているならともかく、属人的かつ偶発的な大ポカであるなら(過去に類似事件ありましたでしょうか?)、組織としては当事者に注意するくらいしかできないんじゃないでしょうか。

投稿: とおる | 2010年6月16日 (水) 06時15分

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