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2010年1月20日 (水)

乱読日記[150]

レックス・スタウト,「黒い山」

黒い山 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1828)
レックス・スタウト
早川書房
売り上げランキング: 116203
おすすめ度の平均: 4.0
5 冒険スパイ小説でしょうか
3 異色ずくめ

安楽椅子探偵の元祖がシャーロック・ホームズだとすると、究極の安楽椅子探偵がネロ・ウルフだろう。

▽ なんせウルフときたら、美食家の巨漢で、座る椅子を選ぶほどの人物である。そして、わずか20ブロックの距離(タクシーで8分)先の現場へ行くことを嫌い(「赤い箱」)、雇用しているアーチー・グッドウインに調査のすべてを任せてしまう。
 件の、アーチー氏にいわせると、

「私立探偵といっては少し活発すぎますよ。ところが私の主人ときたら動きませんからね」(「毒蛇」)

と、いうわけで、まさに動かざること山のごとし、なる人物なんである。

■ そのウルフ氏が、この作品では山に登ろうというのだから穏やかではない。
 しかもその山はウルフの現住所、米国内ではなく、バルカン半島のモンテネグロ(黒い山)にある山なのである。

■ 最初にお断りしておくが、本格のミステリ好きであれば、本書の構成はいささか納得がいかないだろうと思う。ホームズ物語でいえば、「五つのオレンジ種」のようで、なんとなく政治色の強い作品であり、そして探偵物としては話の落としどころが少しばかり安直である。その意味で「ウルフもの」としては異色な作品に数えていいように思う。

■ しかし、
そうであっても、「ネロ・ウルフが好きだ」というのであれば、本書は割とお薦めできる。以前、本書とは別の「ウルフもの」を原語で読んだときの雰囲気からして、あのアーチーらしいマシンガンのような、流れる英文で書かれているのも一因だとおもうが、何よりも翻訳が良いのではないか。
 読んでいると、まるでウルフやアーチーとともに、危険な山路をともに移動しているかの気分になれる。ウルフがその巨体を動かして山を登るさまが目に浮かぶようで、やや滑稽な雰囲気すらある。実際、読んでいる間、私の頭の中はモンテネグロの山中をさまよった。

■ なお、付言すれば、今回、ウルフたちが訪れるモンテネグロとアルバニアの国境付近は、じつはウルフが幼少時代を過ごした場所という設定である。本書にはなんと、ウルフの生家すら登場する。また、ウルフたちが遊び回った場所も(その辺がまたご都合的に使われている点があるのだが)。

■ 私にとっては久しぶりのウルフシリーズだった。フリッツの美味しそうな料理の点数が少ないとか(?)、若干食い足りないところがあったものの、先に書いた翻訳の良さも手伝ってか、読後はそれなりに満足した。
 また、本書の「解説」によると、さらに別のウルフものが、ポケミスで刊行されるらしいから、そちらも楽しみにしておこうと思う。

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