« ■ | トップページ | 随に ばなし »

2009年9月16日 (水)

乱読日記[139]

齋藤吉見,「日米[特許侵害]」

ドキュメント 日米「特許侵害」―泉精器2500日の熱き闘い
斎藤 吉見
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 362576

だいたい2週にいっぺんくらいは町田市の中央図書館の扉をくぐる。
扉をはいった右側に段ボールが2つほど並べられていて、「ご自由にどうぞ」と書かれている。
いつかも書いたが、これらの段ボールには「リサイクル図書」と称して、図書館の蔵書から除籍された図書が入っているのである。当然、すこしばかり古い本が多いのだが、ときに興味をひく本があったりして、行くたびに覗いてみている。

▽ 今回の乱読の対象は、そうして拾ってきた書籍である。

■ この8月末、泉精器が民事再生手続開始の申立を行って、帝国データバンクの大型倒産情報に一覧されたことは、ちょっとばかりショックだった(それと相前後して株式会社BHAが事業停止になったのも驚きの一つだったけど…)。
 この倒産した泉精器が本書の主役である。相手方はフィリップス。言わずと知れたオランダの多国籍企業である。

■ 本書は、一部を小説的な流れで綴る一方、裁判所での説示やら訴状に関する事柄などを細かく並べた下りがあるなど、いささか変則的なつくりでできている。そのために、記述が曖昧だったり癖があったりして分かりにくい箇所(とくに著者の癖なのか、小説風部分での会話が若干ぎこちなくて気になる)があったり、そうかと思うと、法律文書そのものになって事情が微細に亘ってしまう箇所があったりと、山あり谷ありで、とても読みにくい

■ 事件は、three-head のシェーバー(ひげ剃り)に係る特許権侵害と、商標の侵害・不正競争があったとするフィリップス側の申立に始まる。
 特許権のほうは、シェーバー内部での刃の配置に関わるものらしく、泉側は訴訟と前後して設計変更をしているようである。一方、商標の侵害などという部分は、立体的な形状に関わる商標権の侵害なのかと思って読んでいたのだが、そうでもないようで、どちらかというと日本でいう不正競争的な侵害、つまり形態のデッドコピーによる名声へのフリーライドを訴えたもののようだ。

■ 本書にはヘンリー幸田先生とか、存じ上げている先生のお名前が散見される。すべてが具体的なのである。具体的すぎて、訴訟にかかった額が書かれているのは、どうかなぁと思ったけれども(やっぱし米国弁護士は高すぎなとこあるよなァ)、それは置いておいて、なるべく事件の真相を伝えようという著者の考えらしきものは伝わってくる。

■ 結論的には、特許権は侵害しているとされたが、不正競争の訴えについては、当該形状は機能的に必須のものでデザインではない、という線で蹴られている。部分勝訴という感じだ。
 末章、というかあとがきを元高裁で既に故人となっている三宅正雄先生が書かれていて---三宅先生らしい歯に衣を着せぬ調子で、これが「あとがき」でいいのかなァという感じなのだが---、それによると、どうやらこの事件に前後してNHKあたりがドキュメンタリーを放送したらしく、当該NHKのドキュメンタリーで一方的な日本側敗訴に描かれたのが著者の気に障ったというのが、本書の発端であるらしい
 まぁテレビのドキュメンタリーなどというのは、多かれ少なかれ演出上の都合が入るわけで額面どおり受け取れないのは分かっているものの、映像の力というのはなかなか洗脳的で恐ろしいものがあるわけで、本書がそのようなテレビ局による歪曲された事実の修正に役立ったというのならば、それはまぁ、よかったのであろう。

■ しかしながら、---件の「あとがき」で三宅先生がご指摘になっているので、私のほうが受け売っていると思われるとちょっと困るのだけれども---本書において実務家が読むべきなのは、「陪審に対する裁判所の説示」というところで、本書の172ページから210ページに亘って引用されている部分であると私は(三宅先生同様私も)思う。特許事件はどのように判断されるべきなのか、クレイムをどう読み、抗弁はどのような意味があり、損害賠償で認めるべきはどのような額であるかなど、細かく、しかし簡潔に説示されているのである。
 敢えて三宅先生の「ご推薦」部分をここに引用すれば、

何といっても圧巻は、陪審員に対するスタンリー・マーカス判事の説示部分である。特許制度の原点から説き起こし、特許侵害事件、不正競争防止法事件における立証責任の分配の問題までも、しかも素人にわかりやすく、一言の無駄もなく、諄々と説き諭した、至れり尽くせりの説示は、その全体を通じて、ひとりアメリカにおける特許訴訟といわず、我が国の、この種訴訟のA,B,CからZに至るまでの実務的基礎理論を漏れなく織り込んでいるのには、ただ感服のほかはなかった。

ということである。この、先生の「ご推薦」は、多少は誇張の感もなきにしもあらずな気がするけれども、それでも一読の価値はあると思う

■ こうして戦いをくぐり抜けてきた同社が、民事再生法の適用を受けるに至ったことは残念なことではあるが、ひとつ明るい話題として、どうやらここ数日で再生手続が具体的になり、融資枠が設定されるなどの事態となっているらしい。
 同社ウェブページの「社長挨拶」のページトップには、社長とともに数名の男性が一緒に写っている写真が掲載されているが、どうも、この写真の社長の右側の人物は、ヘンリー幸田先生のような気がする。してみると、この写真は本件訴訟に関係していたときの写真ででもあるのだろうか。
 私自身は、ご縁のないところではあるが、また元の通り、再建されることをご祈念申し上げたい。

■ そういえば、本書はダイヤモンド社から出版されているが、ダイヤモンド社といえば、竹田先生の「特許の知識」とかもそうだったような。

 ダイヤモンド社、私らが平成19年度の特許委員会でまとめた「進歩性」関係の著作を出版してくれないかなァ(こんなとこ、見てないか)。

|

« ■ | トップページ | 随に ばなし »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/165428/46232195

この記事へのトラックバック一覧です: 乱読日記[139]:

« ■ | トップページ | 随に ばなし »