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2009年8月30日 (日)

反論ばなし(intermission 1)

ペリイ・メイスンは E.S.ガードナーが生んだ架空の敏腕弁護士ですが、シリーズ中の一作、「ころがるダイス」などでは、判事を指名したりしています。日本ではこんなことができるとは思えませんが、米国だとできるんでしょうか。

▽ 「反論ばなし」の閑話休題で、判事さんごとの判決文のおもしろさ、みたいなものがあるかなぁと思いまして、ちょっと集めてみました。

■ まず今回は、付記の研修でお世話になった飯村判事から。
 経歴や業績その他は、もう、改めてご紹介するまでもないかと思います。平成18年以降、知財高裁で部総括判事としてご活躍です。
 全体的に、丁寧な事実認定をされる方で、特許庁に対してはやや厳しめな姿勢が見え隠れしていると感じられました。技術分野としては化学系統のときに少しばかり遠慮がちな印象を受けたのですが、これらはサンプル数が少なすぎるので、あくまで私の個人的な印象です。

■ 既にご紹介済みの判例としては、平成19年(行ケ)第10176号(前回ご紹介?)、平成20年 (行ケ) 10458号、及び平成20年(行ケ)第10107号事件などでしたでしょうか。

■ 平成20年(行ケ)第10130号事件
 創作容易性の判断については飯村判事と他の判事との間にブレはないように思われます。標題の事件では、これまでの反論ばなしで書いてきました通り、引用文献の解決課題などを参照して、それと矛盾する改変により、本願発明が容易に想到できるとする拒絶審決を覆しています。

 この点、被告は、引用発明においても、自航空機の速度を増大させた場合には、警戒空域の表示範囲が前方に拡大し、CRT上の全体表示画面から、はみ出して表示されることがあり得るものであり、画面の効率化を必要とする解決課題、動機等が潜在的に示されている旨主張する。しかし、そのような主張は、引用発明における解決課題、すなわち、多数の他航空機が表示され得るCRT上の全体表示画面において「警戒空域」表示をすることによって、真に衝突を警戒すべき他航空機を操縦者に識別させることを容易にするという引用発明の課題とは相容れない効果を前提とする主張というべきであって、採用の限りでない。

■ 付言
 刑事裁判では判事ごとの考えが比較的反映されやすいのが、この「付言」であるとする話を見たことがありますが、知財事件ではどうでしょうか。
 飯村判事の付言は、例えば特許庁における手続の問題点への言及が多いようです。
例えば、平成20年(行ケ)第10118号事件。

 当裁判所は、審決が、所定の手続を経由することなく、原告(請求人)が主張した無効理由とは別個の無効理由について無効理由が存在しないと判断した点は、特許法153条2項や同法167条の趣旨に反する不適切な審理及び判断であると解する。その点を以下に付言する。

こちらでは、請求人が主張した無効理由とは別個の無効理由を審理したのですが、審判手続において特許庁が、特許法153条2項の規定による通知をし、当事者に意見を申し立てる機会を与える手続を採らなかったという案件でした。
 飯村判事はこの特許法153条2項の規定の趣旨を、

  • (1)当事者に対して、適正公平な審判手続を保障するとの趣旨、
  • (2)第三者に対して、審決の効力の及ぶ範囲を明確にするとの趣旨

の2つあるとし、後者については、審決の判断の基礎とした無効理由を構成する事実及び証拠がどのようなものであるかを、審判手続において明確にさせることが必要不可欠であるといえるので、請求人が主張した無効理由を審決で摘示することが167条の関係からしても必須であると述べています。

 さらに、事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求についての付言もあります。
 平成20年(ネ)第10019号事件ですが、事案が少々複雑なので、いずれ別途ご紹介するとしまして、その趣旨は基本的に、審理遅延を目的としているかのような訂正審判請求等は認められないとするものです。

 こうして限られた判決を見る限りは、あまり「付言」にも個性が出ている感はないように思われます。

■ ただ、特許庁における手続実務に納得がいかないことがいくつかおありのようです。
 例えば平成 20年 (行ケ) 10476号事件では、

特許法施行規則38条の16第1号は、特許権の存続期間の延長登録の出願に係る願書に添付しなければならないとされている特許法67条の2第2項所定の「延長の理由を記載した資料」として、「その延長登録の出願に係る特許発明の実施に特許法第六十7条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたことを証明するため必要な資料」と規定している。
これを受けて、特許庁は、「特許・実用新案審査基準」を作成、公表し、その「第VI部特許権の存続期間の延長」の「2.5延長の理由を記載した資料の記載事項」の項には、特許法施行規則38条の16第1号所定の資料に該当するものの一つとして、「特許発明であること(登録日、満了日、特許料の納付状況等)」とし、それを裏付けるための資料が例示されている(当裁判所に顕著な事実)。
しかし、そもそも、特許原簿のように特許庁に備えられているものまで、「証明するため必要な資料」に該当すると解することには疑問があるのみならず、そのことによって、審査、審判を担当する特許庁審査官、特許庁審判官が、特許原簿など特許庁に備えられている資料との照合を省略することが正当化される理由はない

としています。
 また、よく見かけるような拒絶理由や審決についても、納得がいかないと厳しいです。例えば、審決でした引用文献との組み合わせの論理を入れ替えようとした特許庁の主張に対し、

 そもそも、審決は、本願発明に係る容易想到性の判断に関しては、単に、「引用発明と引用文献2に記載された発明は、蛇口に連絡する切換弁において、水路切換機構を回動させる手段である点で共通するものであるから、引用発明において、回動伝達部にラチェット機構を用いることで相違点イに係る本願発明の構成とすることは、当業者に容易である」との説示をするのみであって、引用発明2に着目した実質的な検討及び判断を示していない。
特許法157条2項4号が、審決に理由を付することを規定した趣旨は、審決が慎重かつ公正妥当にされることを担保し、不服申立てをするか否かの判断に資するとの目的に由来するものである。特に、審決が、当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの判断をする場合においては、そのような判断をするに至った論理過程の中に、無意識的に、事後分析的な判断、証拠や論理に基づかない判断等が入り込む危険性が有り得るため、そのような判断を回避することが必要となる(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10261号審決取消請求事件・平成21年3月25日判決参照)。そのような点を総合考慮すると、被告が、本件訴訟において、引用発明と引用発明2を組み合わせて、本願発明の相違点イに係る構成に達したとの理由を示して本願発明が容易想到であるとの結論を導いた審決の判断が正当である理由について、主張した前記の内容は、審決のした結論に至る論理を差し替えるものであるか、又は、新たに論理構成を追加するものと評価できるから、採用することはできない。

として退けたりしています。
 途中に、とてもいいことをおっしゃって頂けていると思うのですが、審査をされる方の中に事後的判断はやむを得ないもので、そうなるのが当然とされる方がいらっしゃることは以前にもどこかで書いた通りです。この飯村判事のようなお考えが浸透していないのは、すこし残念です。なお、この事件の結論は、審判への差し戻しになっています。

■ そして最後に、「反論ばなし」の合いの手としての記事ですから、敢えて反論ばなし的なことを書いておきましょう。何でもかんでも噛みつくのは論外だという話です。
 平成19年(行ケ)第10331号事件から。飯村判事の判決です。
 なお、本件における原告の訴訟活動及び争点設定に関して、当裁判所の意見を述べる。

民事訴訟法2条は、「・・・当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」と規定する。(…中略… )
 (1)およそ、当事者の主張、立証を尽くした審判手続を経由した審決について、その理由において述べられた認定及び判断のすべての事項があまねく誤りであるということは、特段の事情のない限り、想定しがたい。また、(2)本件において、本件発明と引用発明との間の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとの原告の主張は、実質的には、相違点についての容易想到性の判断に誤りがあるとの主張と共通するものと解される。そのような点を考慮するならば、本件において、原告が、争点を整理し、絞り込みをすることなく、漫然と、審決が理由中で述べたあらゆる事項について誤りがあると主張して、取消訴訟における争点としたことは、民事訴訟法2条の趣旨に反する信義誠実を欠く訴訟活動であるといわざるを得ない。

争点はちゃんと絞り込まなければいけません。全部が全部間違いだ、などという主張は通りません。そういうことです。
 拒絶理由通知に対する反論であっても然りでして、よっぽどのことがない限り(反論が可能であったとしても)、正しい点と誤っている点とがまぜこぜになっているはずです。そこで正しいと思われる点についてまで、細かいことを述べて誤りだと主張するのは、「争点の絞り込みをちゃんとしてお互いに誠実にやりましょう」、という暗黙の前提に反することで、あまり好ましくはないわけですね。基本的には、意見は高々A4用紙1枚くらいにまとまるのがよいと私などは思います。意見書全体ではとても長くなってしまうこともあるのですが、争点は明確になるように心がけたいと思っています。

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