反論ばなし(その7)
事務所開設以来、家庭でも使えるような小型の複合機を利用してきましたが、最近どうも、スキャナとしての調子が悪くなってきました。ADF(シートフィーダ)がすぐ詰まるし、読み取りの結果に微妙に線が現れたりします。やっぱり業務用としてはもう少しまともなものを入れないとだめか、と、清水の舞台から飛び降りる気持ちで(大げさ)、スキャナ専用機を買いました。なんてったって、紙書類の読み込みは特許事務所で必須の作業の一つですからね(全面電子化しているというならともかく…)。
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スクラップのお供に最適!
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文書のデジタル化にオススメ 両面を一気に読みますし、読み取りも高級複合機なみの速度です。オマケみたいな名刺管理ソフトは、まぁ、そんなもんとして、Adobe Acrobat 9が付いてきてこの値段ですから、お買い得かな、というわけです。
読み取ったファイルは PDF か JPEG になってしまうので、特許出願用には一段、ファイル形式の変換が必要ですが、これについては近いうちにソフトを書いて対応しようと思います。
■ 必要は発明の母、というようなことを言いますが、「こんなものがあったらなぁ」という思いが発明につながる、というのは大概のケースでその通りです。課題がないところに発明が突然できるというのは珍しいわけです(ただし化学分野は除く)。
人は、壁にぶち当たると多くの場合、仲間を捜したくなるんじゃないでしょうか。
「誰か似たような壁にぶつかってる人、いないか?」
という具合に。
発明に対する姿勢も同様だろうと思います。課題が発生したら、似たような課題を解決している例を探したりするのが普通じゃないでしょうか。
そういう意味では、特許庁が先行例からの創作容易性を判断するにあたり、
「先行例と審査対象の発明との課題の共通性」
を見るというのは合理的に見えるわけです。
■ しかし、課題が同一だからといって、それから想起される構成が相違する先行技術が、審査の対象となる発明の創作容易性の根拠になるでしょうか。
…もっともこれは特許保護がどういう目的でされるべきかという視点で本来は論じるべきことがらと言えるかも知れません。特許保護の目的として技術の豊富化というところまで含めるのならば保護するべきですし、課題解決を重点に置くのであれば、先行例を超える特段の効果がない場合、保護する必要はないと言えるかもです。
なんか、シュレディンガ方程式があるのに、わざわざ経路積分法を提案するファインマンのようなものですが、経路積分のように、シュレディンガ方程式とは違った側面があるのであれば、技術豊富化を目的とするか否かの観点はあまり関係ないのですが…。
■ 話を戻しまして。
今回、見たいと思う判例は、平成18年(行ケ)10415号事件です。
無効審判で特許権者側が勝ち(無効でないとの判断)、その後裁判でも特許権者側が勝った、という事例です。
無効審判が請求されたときにクレイムは訂正されているようですが、その訂正クレイムが、
【請求項1】検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し、画像処理によって表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法において、前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で、欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において、輝度が変化する点を基に欠陥を検出することを特徴とする欠陥検査方法。
というものです。
要するに表面が凹となる欠陥があり得る物について、その欠陥を見つけるにあたり、凹部のエッジだけで見ていくと、2つの凹が重なり合っているときに2つあることが分からない(一部が重なり合う2つの凹のエッジは1つの閉曲線みたいになる)ので、凹部内の輝度変化で欠陥検出をしよう、というわけです。
もうちょっとかみ砕くと、普通の人間の目はちゃんと分かれていて、それぞれ別にエッジがあるので2つあるとわかるわけですが、「天才バカボン」に出てきたおまわりさんの目はくっついて鉄アレイみたいになっているので、そのエッジは1つの輪だけになり、2つあると言えるかどうかわからない。そこで、白目の中の黒目部分で判断したら…という話……あれ? わかりにくかったかな?
■ 無効審判、無効2005-80254で特許庁は、請求人側が挙げた文献について、
「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題は記載も示唆もされていない。
との判断を示しています。
■ 裁判では、原告側、もう少し証拠を補充したようですが、
原告が引用する甲2公報、甲7公報、甲8公報及び甲9公報には、ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題が記載されているが、当該課題に対応する検出方法は、本件発明1のように「凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」ものではないから、その対象となる欠陥の重なりは本件発明1が課題とする欠陥の重なりと同じではない。したがって、上記各公報に記載された課題と本件発明1の課題が同じであるということはできず、ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題が周知であるからといって、そのことから、本件発明1の「凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」構成に想到することが容易であるとすることはできない。
と判断されてしまいます。
欠陥が重なりあってしまい、その個数を正確に計数する必要がある、との課題は周知だった。しかしその方法として欠陥である凹部内部の輝度変化を見る、という話はどこにも書いてないし、そのヒントになることも書かれてない、ということです。
■ 原告側は、
甲1発明は、欠陥のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し、本件発明1は、欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎない
との主張で頑張りました。エッジでみようが、内部でみようが同じじゃん、という主張ですね。しかし裁判所は、
甲5公報には、「観察物体の段差等のエッジ部の検出では、凸部から凹部に変わる部分と凹部から凸部に変わる部分とでは、微分干渉画像の濃淡の分布が反転する」(段落【0007】)と記載されており、傾斜方向が変化すると濃淡が反転することは公知であったと認められる。しかし、甲5公報には、重なり合う欠陥を正確に認識するために、「凹部の輝度変化」、すなわち、凹部位置の情報のみに基づいて欠陥検出を行うという技術的思想は記載されていない。
…中略…
原告が引用するいずれの刊行物にも、本件発明1の「重なり合った複数の欠陥を正確に計数するために凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」技術的思想が開示ないし示唆されていると認めることはできず、本件発明1の相違点に係る構成が当業者に容易想到であるとすることはできない。
としました。「ちがうよ」と言ってるわけです。私個人の見解を言えば、これら特許庁・裁判所の判断はとても妥当なものだと思います。
■ 喧嘩は適当なところでお互いに折れてしまったほうが傷が浅い場合が多いものです。この件では原告側は証拠にムリがあると思わなかったのかなぁと考えてしまいます。早い段階でムリありと判断すれば、そこから(原告側が被告の特許権を実施しているとすれば)交渉に切り替えられたのではないかと思うのです。それとも実施権が取れなかったりしたんでしょうか。具体的事情はよく分かりません。
いずれにしても、「課題同一」だけで押しまくり、「構成の相違」が蔑ろになっている場合、そこは反論ポイントになる、ということです。まさかに特許庁の審査でそこまで杜撰なことはないと思いますが、無効審判を含め、交渉段階では無理矢理理屈をこねてこられることも想定されますので、本件を参考にした反論というのは、そういうときに生きてくるかもかなぁと思います。
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コメント
構成がほぼ同じなのに課題の相違や課題の文言の有無だけを
根拠として延々と反論してるというのはどうなのですかね
投稿: コメンタ | 2009年7月 4日 (土) 09時17分
コメンタ様
コメントありがとうございます。
課題が本質的に相違している場合、構成がまったく同じというのは、結構稀なのではないかと思います。
課題が本質的に違うのに、構成が同じに見える、というのは、おそらくは構成の表現において彼此区別が付きにくいものになっているなど、別の原因があるのではないかと思います。
ですから、私は、課題相違の主張をする場合、それだけでなく、その課題相違により、構成が実はこう違う、という主張まで持って行くべきだと思うんです。
その主張もなく、課題が違うというだけでは、反論としては弱いようにも思います。
ただ、これは一般論ですから、個別具体的な話では、課題相違だけで反論が成立する余地があるのかも知れません。または、それしか反論のしようがなければ、仕方のないこともあるかも知れない、とは思います。
投稿: ntakei | 2009年7月 7日 (火) 02時27分