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2009年7月13日 (月)

マナーではない問題

電車の中で、ちょっとした拍子で携帯電話機を取り落とした。
拾い上げてから破損がないかと改めて筐体をみると、あちこちの塗装が禿げてきているのに気がついた。まだ2年そこそこなのに。

▽ 前の携帯までは電池の残量表示が2/3になった時点で充電するようにしていた。
 ところが、これだと1年半ほどで電池の充放電に支障が現れ始める。一部のセルが死んだんだろうと思うが、フル充電の状態からでも1日程度で残量表示が2/3になってしまう。
 今回の携帯では、電池の残量表示が1/3になるまで充電をしないことに決めた。
 その結果、電池の持ちは見違えるほどになり、先日、同一機種で2年経過というタイミングで電池パックを交換した(ドコモの場合、プレミアクラブに入っていれば無料だそうだ)。

■ 近頃では、携帯電話機の着信時にメロディが鳴動されることは珍しくない。
 最近の楽曲に疎い私ですら、着信時のメロディは適当に選んでいる(ちゃんと自作の MIDI データを放り込んである)。
 さらに最近では「着うた」(ソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標)とか称して、MP3等でエンコードした楽曲の一部を再生させることも行われている。

 こうしたサービスでは、エンドユーザも着信時に利用する楽曲の利用料を支払うことになる。利用料はサービスの態様によって多少の差があり、着信のメロディだけの場合(例えば MIDI 等で表現された楽譜情報を基礎に携帯電話機内のシンセサイザが音楽を鳴動する場合)と、アーティストが演奏した楽曲そのものの音源データ(一般にはMP3等、圧縮されたもの、以下、単に音源データと呼ぶときは、アーティストが演奏したものを指すことにする)を鳴動する場合とでは支払うべき著作権料の相違により、利用料にも相応の差が出る。
 つい昨日、この着信用の楽曲として、著作権者の許諾なしに音源データを提供したとして、岡山のサービス業者が逮捕されたそうだ。

■ この業者の場合、無断で配信していたというから、要するにCD等から勝手にMP3化したうえで配信をしていたとみえ、当然支払うべき著作権料などの支払いを逃れていたわけだから、かなり黒いケースといえる。

 しかし、

公の場で、携帯電話機が着信したときに音源データを鳴動させるのは、音源データに係る楽曲の「演奏権」を侵害する行為だ

という主張をしている団体があるのだが、この主張については、

「なんだそれは」

と言いたくなるのではないだろうか。
 まぁ、レストランや電車の中といった場では、たとえ着信したとしてもメロディが鳴動しないように「マナーモード」設定をしておくべきだとは思うが、それは著作権とはなんら関係のない話である。

■ このような主張をしたのは、ASCAP(The American Society of Composers, Authors and Publishers)である。より詳しい情報は、Electroic Frontier Foundation(EFF)というところのウェブページで得られる(http://www.eff.org/cases/us-v-ascap)。当該ウェブページによると、既にいくつかの amicus brief が出されているようだ。いますべてを review している余裕がないのだが、基本的には、この主張に反対する方向のものが多いように見受ける。

■ 知的財産権という広い枠組みで見た場合、特許権では、その製品に係る権利の主張を制限させる根拠として、

  • 所有権移転説
  • 黙示的実施許諾
  • 用尽論

といったものがある。所有権移転説は、いまでは流行らない(というか過去にもあまり流行らなかったと思う)が、要するに特許製品を譲渡したからには、特許権の実施権も所有権とともに移転したんだ、という説だ…ったと思う。たしか。この説の不当性については、特に述べない。
 次の黙示的実施許諾は、結構、主張される機会の多いものである。特許製品を譲渡したということは、特許発明が実施されることが分かっていて譲渡したわけであり、黙示的な実施許諾がなされている、と見るものだ。
 最後の用尽論は、特許製品を販売した時点で、特許権は「用い尽くされ」た、と考えるものだ。
 いずれにしても、特許権を用いて多重の利益の機会を与える必要まではない(そうまでして流通を阻害することは却って特許発明の保護に繋がらない)というわけである。

 著作権でも同じ事情はあり得るだろう。

■ では、著作権では用尽論みたいのはないか、というと、実は「譲渡権」については用尽が認められているのである。一つは、 WIPO 著作権条約6条(2)の規定で、「譲渡権について国内法に用尽を定めていいですよ」と謳ってる。で、我が国の著作権法の26条の2第2項は、譲渡権が及ばない範囲について規定を入れている。
 しかしながら今回 ASCAP が侵害されているとする権利は演奏権だから、この用尽の枠組みには入らない。
 そこで安直に反論するには、ASCAP が、携帯電話の事業者や着信用メロディの配信事業者に対して楽曲の配信等を許諾した時点で、着信時に鳴動することを目的とした許諾が行われており、それが公の場で行われることも当然に了解されているはず、と、黙示的使用許諾的な話に持って行くことができるんじゃないかと思う。

■ これに ASCAP が対抗するには、公の場で着信したときに鳴動させるときには別途ライセンス料を課すぞ、とでも明言すればいいわけだ。そうすれば、黙示的にライセンスを許諾したことにはならないから。

■ でもね。公の場で着信したときに鳴動するのが、演奏権の侵害だとは私には思えない。
 日本の著作権法22条(演奏権の規定)では、著作権者が、著作物を「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」…演奏する権利を占有すると規定している。
 この目的限定がどういう立法経緯で入り込んだかはちゃんと調べていないんだけど、この目的限定のおかげで、外で歌を歌っていようと

「おい、演奏権の侵害だぞ」

などと言われることがないようにしているんだと思う。

[※注]もっとも、リサイタルだとかコンサートということになると、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」に該当するから、ドラえもんの「ジャイアン・リサイタル」はグレーゾーンかも知れない(ただし、あの場合は特定少数しか集まっていない気がするから法上の「公衆」に該当するかどうかが微妙だ)。

■ おっと、何の話だった?
 そうか。えっと、つまり、米国だって事情は同じで、公園の芝生に寝転がって気持ちよく歌を歌ってたら、

「おい、演奏権の侵害だぞ」

なんて言われるようなのは著作権保護としては行き過ぎだと思うんだ。従って、上記日本国著作権法にあるような目的限定は実質的に万国共通の話だと思う

 そこで着信時のメロディは、着信を報知する目的で使われていて、公衆に直接聞かせることを目的としているとは言えないんじゃないか。

 そもそも、この程度の鳴動を許諾したところで、演奏権を占有するはずの著作者に何らかの損害が発生しているとかもないと思う。鳴動時間も高々十数秒であるし、むしろ、

「その曲いいね、なんて曲?」

というように宣伝的効果が期待できるんじゃないだろうか。

■ どうもCDが売れなくなっているせいか、各国の音楽著作権関係者は、無理難題をふっかけて著作権料を確保しようとしているような気がする。
 あまりムリなことをすれば著作物の使用がされなくなるだけで、実入りには繋がらないだろうに。

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