やわらかな件のはなし
本日10月29日は、ホームビデオ記念日なんだそうである。
1969 年のこの日に、ソニーと松下電器とが民生用のビデオテープ規格(U規格)の開発を発表したことに由来するとか。ただ、U規格製品はあまり売れず、当初目的とされていた家庭への普及はその後の Betamax や VHS を待つことになるのは、今となっては知られた歴史。
▽ テープといえば、その昔、大学のころに DEC の機械でホームディレクトリの記録をとったと思しき TK-50 テープがまだ家にあるんだけど、これっていまでも使えるところ、あるんだろうか。
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■ コンピュータ関連技術は進歩が激しいので、私の大学院当時(もう10年以上も前)ですら、TK-80 はギリギリあったけど、TK-50 に対応する機械はもう見る影もなかった。そういう技術分野だから、コンピュータ関連技術もまた特許による保護合戦が激しいところでもある。ところが、
「未だにソフトは特許にならないって思ってる中小って多いんだよ」
という話が、先日ちょっとした話の中で聞こえてきて、少々驚いた。これはすこし啓蒙しないといけないのかもしれない。
ソフト委員会のヒラ委員としてはね(レイトン教授風)。
■ この種の「誤解」の発生は、どこから来ているのか。
一つには、そもそも「特許の対象にならない(法上の発明に該当しない)」という話に関わる誤解があるように思う。
例えば純粋なビジネスの方法だとか、単なるルールは確かに法上の発明に該当しないとしても、ビジネス方法であってもそれに用いるコンピュータの処理内容だとか、ルールに関係していても、それに対応するコンピュータ処理なんかは特許の対象となったりする。
これを単純に、「暗号化の方法は特許にならない」などと述べると、誤解が生じる原因になったりする。
確かに、暗号化の方法として、
「文字Aを文字Cに、文字Bを文字Aに、…と換字する暗号方法」
では、ルールの域を出ないわけだけど、換字暗号方法を使っているとしても、
「排他的論理和の計算を事前にテーブルとして記憶させる構成によると、テーブルの規模が膨大となってしまう」
という技術課題の下に、
符号ビットと共に入力される平文データ又は暗号文の処理単位データに対応した非反転データ又はその全ビットの反転データのいずれか一方をランダムに取り込む入力選択回路と、
上記入力選択回路を通したデータを受け、上記非反転データに対応した転置・換字処理を行うポジ用スクランブル回路と、
上記入力選択回路を通したデータを受け、上記反転データに対応した転置・換字処理を行うネガ用スクランブル回路とを有し、
上記ポジ用スクランブル回路は、上記データを受ける非反転用回路と、反転用回路とを有し、上記非反転用回路もしくは反転用回路のいずれか一方の出力を取り出す第1選択部を有し、
上記ネガ用スクランブル回路は、上記データを受ける非反転用回路と、反転用回路とを有し、上記非反転用回路もしくは反転用回路のいずれか一方の出力を取り出す第2選択部を有し、
上記符号ビットに応じて上記第1選択部もしくは第2選択部の出力信号の何れか一方を、上記入力選択回路の選択動作に対応させて取り出す出力選択回路と、
上記符号ビットに応じて、上記ポジ用スクランブル回路及びネガ用スクランブル回路での複数回の転置・換字処理の結果である上記出力選択回路の出力を最終転置する出力回路とを更にを有し、
上記出力回路を通して暗号文又は平文データを得ることを特徴とする暗号化・復号化装置。
とすると、特許として成立する(特許第3844116号)。
■ 判断のポイントは、暗号化の方法が技術的なことなのか、それとも単なるルールなのかを峻別することで、技術的なことであれば発明として成立し得るということなわけだ。まぁ、ルールとして見られることでも、クレイムの立て方によってくる部分もあるから、意外に発明として成立する部分は広い。
例えば、
音素(phoneme)索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書であって、
前記辞書は、一つの英単語に関する多要素を横一行に配置し、各単語の同類要素を縦方向の一列に配置した行列構造を持ち、
前記多要素は、四つ以上の要素からなり、少なくとも、
要素1:英単語の基本音声(母音音素、子音音素、アクセント音素)の国際発音記号(IPA)表記、
要素2:英語音声のIPA表記から子音音素を抽出し、ローマ字へ転記したもの、
要素3:英単語の綴り字、
要素4:英語の対訳語(日本語対訳語または他の言語の対訳語)、を含み、
前記辞書内の個々の単語の配列順序を、
第1並べ基準:前記要素2のabc順、
第2並べ基準:前記要素1の文字コード順、
第3並べ基準:前記要素3の文字コード順、
第4並べ基準:前記要素4の文字コード順、
の並べ基準の順に優先させた並び方にしたことを特徴とする対訳辞書。
などというクレイムは、かなり「ルール」の香りが濃厚なんだけれども、裁判所に言わせると、
「子音を優先抽出して子音音素のローマ字転記列をabc順に採用している点からすると,本願発明においては,英語の非母語話者にとっては,母音よりも子音の方が認識しやすいという性質を前提として,これを利用していることは明らかである。そうすると,本願発明は,人間(本願発明に係る辞書の利用を想定した対象者を含む )に自然に具えられた能力のうち,音声に対する認識能力,その中でも子音に対する識別能力が高いことに着目し,子音に対する高い識別能力という性質を利用して,正確な綴りを知らなくても英単語の意味を見いだせるという一定の効果を反復継続して実現する方法を提供するものであるから,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されており,特許法2条1項所定の「発明」に該当するものと認められる」(平成20年(行ケ)10001号事件)
ということになる。もっとも、上記対訳辞書のクレイムは表現としての問題はあり得ると思うので、たとえ法上の発明に該当しても36条(特許要件の一つ)による拒絶というのはあり得る。
■ そうなんだよな。もう一つには、特許要件の方を併せて考えるあまり、弁理士の方もはっきりと、
「これは特許(の対象)になりますよ」
とは言わないものだから(そもそも弁理士は予備的な見解として迂闊に特許になるとかならないとかは言わないものであるが)、誤解が生じてしまうのではないだろうか。
弁理士としては、法上の発明に該当するかどうかを心配している場合と、特許要件を欠くことを心配している場合とがあるはずだけれども、そのどちらを気にしているかを明言しないと、誤解が生じる結果になるんじゃないだろうか。ただ、中小の社長さん相手だと、
「先行例がなければ登録されます」
というような説明ではあまり納得してもらえず、「要するに特許になるかならないか分からないワケだな=特許にならないと言っているんだな」と誤解される場合があったりする。
かといって突っ込んだ説明は煙たがられることが多いので、誤解なく説明するのは難易度が高いとは言えるかもしれない。何かパンフレットでも作って、
- 特許の対象にならない場合
- 特許の対象になっても特許にならない場合
というのを区別して説明するのがベターかもしれない。大切なことは、対象になったとしても、権利にならない場合がいくらでもある、ということを理解してもらうことだが、これが中々ホネであることも多い。
■ いや、しかし少なくとも、
「ソフトウェア関連技術は特許の対象にはなるんです」
という話くらいは誤解を恐れずにもっと大々的にしても良さそうな気がする。あれはダメ、これはダメ、という「べからず」式の説明では、産業の発展にマイナスになるような誤解しか生まれないと思うのである。
■ ついでに思うところとして、特許出願に慣れていないお客様の場合、最初はとにかく早期審査制度を活用して、説明した内容がお客様の頭の中に残っているうちに一通りの処理を完遂することが適当じゃないだろうか。あまり時間がたってしまうと、
「あのとき特許になるって言ったから出願した」
というようなあらぬ嫌疑をかけられてしまう場合があるものである。こういう「誤解」は双方ともにうれしくないものだ。
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