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2008年9月12日 (金)

[弁理士試験]吉藤を読む(25)

08091201 なんでも、カビ毒つきの米が飲食用として流出してしまったとかで話題になっております。こういう残留農薬があったりカビが発生している米を事故米というらしく、通常、事故米は食用にはならない、糊などに加工されるそうですが、今回の場合、どうしたはずみか飲食用に流通した訳です。そしてその事故米を使って酒などが作られた---というのですから、酒飲みとしては見逃せない、ゆゆしい事態であります。

▽ そもそも酒造メーカーに流通した物は(農水省のウェブサイト掲載の資料によると)、アフラトキシンというカビ毒が検出された米らしいですね。
 アフラトキシンというと、個人的には山崎幹夫さんという方の書かれた「毒の話」という本の中で---記憶によれば---ガン発生の素地をつくる、イニシエータとして働く物質として紹介されていたような…。たしかその毒はアフラトキシンB2という名前でしたが。
 今回話題になっているのは、アフラトキシンB1という種類で、どうやらB2より凶悪らしい。肝臓にいる「万能水酸化屋」シトクロムP450の働きによって、一部に酸素がくっつけられて活性化し、ゆくゆくはDNAポリメラーゼを阻害したりするみたい。
 迷惑な話で、これによってガン細胞の素地が作られ、次いでプロモータが現れれば、ガン細胞ができあがる---ということになっています。しかもシトクロムP450が関与しているということは、肝臓が攻撃の対象になるわけで、たとえ肝臓ガンになったとしても、酒が原因か、アフラトキシンが原因かを特定するのは難しいんじゃないでしょうか。そこを理解したうえで酒造メーカーに出していたとしたら相当に悪質ですが、そうかどうかはわかりませんし、そうでないと信じたいものですが。

※絵は、P450によって活性化したアフラトキシンB1(AFB1-8,9-epoxide)の構造。

■ さて、頭をもとへ戻しまして、吉藤に集中したいと思います。
 先週は、先願に関する話題で、同日出願があった場合に、協議命令が発せられることを見ました。しかし、協議制は万能薬ではございません。吉藤先生が指摘するように、

(1)協議命令を受けるべきなのに、一方が誤って特許されてしまい、他方が審査係属中の場合、
(2)協議命令がないまま双方が誤って特許されている場合、
(3)一方が特許され、他方は拒絶が確定してしまっている場合

には、問題が生じます。
すこし問題を整理しておきますと、(1)は係属中 v. 特許、(2)は特許 v. 特許、(3)は、特許 v. 拒絶確定という話です。
 吉藤先生のスタンスは、簡単には、事実上協議したと同じ結果になるなら、特許権に影響を与えるべきじゃない、ということで、例えば(1)の例では、事実上の協議により、係属中特許が取り下げられれば問題なし、とします。ま、実務上は当然に、特許権者として、係属中の出願人を加えてもらうんでしょうが、自分の書いた明細書(クレイムのセット)のほうが出来が良い場合は、ちょっと納得しかねる場合もあるでしょうねぇ。
 (2)の例でも同じで、どちらかが特許権を放棄すれば済むはなし。ただし、単に放棄すると、これは将来効で、登録から放棄までの時間に有効な期間が残存してしまいますので、これは「通常の放棄ではない」と扱うとしています(12版でいう p.199 の注5)。要するに遡及的に有効期間がなくなるような放棄と見なす、ということで、法的な手当がないのですが、そうして解するほうが特許法の趣旨に沿う、という理由付けになるんでしょうか。
 (3)は、最も悲惨な例で、この場合は拒絶確定という状態に合わせるべく、特許権のある方を無効にする、としています。これは拒絶確定に納得している出願人(元・出願人)の意思を尊重するというような話になっているようですが、その理由付けの是非はともかくとして、結論としては仕方ないところかと思います。

■ で、次に吉藤先生は、先願の対象とされる出願の例やされない出願の例を挙げております。
 このあたりは短答式レベルの問題とも考えられますが、要するに、出願後、遡及的に出願の効果を失うような場合(取り下げ、冒認)を除いて、先願の対象となるわけです。で、注意的にではありますが、「放棄」というのは、一般に将来効、つまり、放棄した時点から後は権利はなくなるわけですが、放棄するまでの権利は残っていると考えるわけです。こういう考え方があるので、さっきの例では「通常の放棄ではない」などと言い出さなければならないのですね。
 一方、「取り下げ」というと、手続開始の時点に遡って権利を消し去ることになります。つまり、遡及効、ということです。

■ で、吉藤先生、次に「同一出願人の先後願」という話に移ります。

 んなバカな、同じ物を同じ人間が何度も出すかいな、

というのは、わかりますが、実はこういう状況は、ごく普通に発生し得るのです。
 一つには、大企業等で、大量に出願している結果、あっちの部署で出願した案件と、こっちの部署で出願した案件とでダブってしまったような場合。こういうのは審査の過程でも見つけ出すのは困難でしょう。
 また、一つには分割出願で、元の出願と同じクレイムが残っちゃっている場合。さらには、別発明と考えて出願したものの、客観的には同じ発明だったという場合などです。

 ん、まぁ、しかし同じ人間に対してならば、両方に特許権をあげても問題ないのでは?

というご意見もあるかと思いますが、特許権、存続期間は出願より20年(67条1項)。仮に、1年ごとに同じ発明の出願を繰り返し、同じ発明者がしたとして、「同一出願人」だからという理由で、重複権利に特許をし続けると、最初の出願から20年が経過しても、翌年分の出願があと1年、翌々年分があと2年…と、残っているわけですから、実質的に権利期間が延長されてしまう結果になります。
 これは不合理ですね。
 そこで、同一出願人であっても、先願の規定(39条)は適用するんだ、ということになります。こういうのを、出願人に関係なく「出願を単位で見る」ということで、「願主義」といったりします。一方、出願人が同一ならばと、出願人単位で見る規定ぶりもあり得なくはなく、こちらは「人主義」と言ったりします。例えば、同一人で同日の同一出願という場合は、人主義を採用して、「双方特許」にしてもかまわないわけです。ま、構わないと言えば構わないわけですが、一方が譲渡されたりすると…と考え始めると、きりがないので、以上のような扱いにしているわけでしょうかねぇ。
 この辺りの事情は、存続期間を放棄してもらう方法(ターミナル・ディスクレーマー)を採用しないこととも関係しているような気もします。

 あ、そうそう。同一人の場合も同日に同一の出願を複数したら、いずれかを選ばされることになります(選択特許措置)。以前は双方拒絶していたというのです(双方拒絶措置)が、ちょっと酷な場合があるからやめたんだそうです。
 このあたり、吉藤先生は特許庁での取り扱いの問題としていますが、実のところは、法の予定していない事項と言えなくはないかもしれません。まぁ、抜けがあるのは世の常で、抜けている部分は、よほどのことがない限りは、運用でカバーしていくわけです。

■ しかし、事故米は抜けて出て行っては困るわけで、もっと管理を徹底するとかして欲しいものです。聞けば、ふつーの米に事故米が混合されると、もう無事故のものと見分けはつかないそうで、このあたりは農政というか、食料に携わる方々の良心の問題と考えたいところです。背に腹は代えられない事情があったとしても、そこは「最後の良心」だと思うわけです。
 逆にいうと、消費者も、彼らが正当な努力によって要した費用を担保するだけの額は出さなければならない、ということでしょうね。そのへんの「監査」は相当難しそうですが、ブランド米などということで信頼を図るのであれば、そういう監査機関があってもいいかも知れません。
 ちえっ、なんだか堅い話になっちゃったな。酒でも飲むか…

この酒は…大丈夫かなぁ??

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