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2008年8月22日 (金)

[弁理士試験]吉藤を読む(22)

本日の東京西部は、北側から南へと雷雲が駆け抜けていきました。その軌跡では強烈な落雷があって、弊所のある町田市でもちょっと怖いくらいの落雷音が聞かれました。だいたい稲妻の発光が見えてからの秒数におおよその音速(350m/sくらい?)を乗じれば、落雷地点までの距離が分かるというものですが、光ってから秒数を数えるまでもなく音が聞こえてくるということは、すぐ傍に落ちていることを意味しているわけです(ぎょぎょ)。  
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▽ ところで、落雷とはいうものの、実際には下から上(地表から雲へ)昇っているんですよ(帰還雷撃)という話を所内でしたら、あまり信用されませんでした。雲底側が負電位で、対向する地表面に正電荷を呼びますから、実際には雲底側の負電荷は落雷までの間に、「階段状前駆」と呼ばれる経路を通じて地表に近接しています。その前駆に対して地表から引き寄せられた陽電荷が触れた直後、今度は階段状前駆の経路を遡って地表から雲側へと強烈な勢いで陽電荷が流れ出すわけで、これが帰還雷撃と呼ばれる、「落雷」の正体、ということになります。結局、電子の動きとしては確かに「落雷」といえそうなものかも知れません。この話、記憶によれば、ファインマン物理学の電磁気学に所収されたものですから、興味のある方はご参考まで。

■ 新規な発明の公開の代償として、特許権を付与する、という特許法ではありますが、では新規であれば特許権が付与されるのか、というとそうではないことについては既に述べてきました。新規性のほか、まず「発明」であることの要件、そして現在では「進歩性」と呼ばれる要件があるのでした。保護に値しない、既存技術から容易に為し得、産業の発展に寄与しない発明は、「発明でない」とするのではなくて、創作容易であるが故に特許権を与えない、という特許要件として規定されているわけです(進歩性)。

■ さて、それではそういう各要件を満足したとして、特許権を与えることとなるか、というとまだ不足です。それは他の出願との関係で権利を与えるか否かという問題が一つ。なんせ特許権は独占排他的権利として構成したいわけですから、複数人の同じ発明にそれぞれ特許権を与えたのでは独占排他性が得られない。そこで、他者の同じ権利を排除する必要があります。このための我が国での要件が「先願」というわけです(39条)。しかし、この先願の規定についてはもう少し後へ置いておくとして、もう一つ。他者の出願とかかわりなく、その発明に固有の性質において特許権を与えるか否かを定める要件があります。それが、今回ご紹介したい、32条、「不特許要件」です。

■ 吉藤先生は、現行法制(昭和34年)当時の話から始められます。昭和34年、現行法が施行されたとき、不特許要件には次のようなものが列挙されていたのです。

  • 飲食物又は嗜好物
  • 医薬又はその混合方法
  • 化学物質
  • 原子核転換物質
  • 公序良俗又は公衆衛生を害するおそれのある発明

の5つです。その立法理由を、昭和34年2月の「逐条解説」から拾ってみましょう。
 まず、「飲食物又は嗜好物」については、これらが日常生活において欠くことのできないものであり、これに独占権を認めると、独占的に不当な価格が形成されて日常生活が脅かされるおそれがあるからということです。
 また、医薬又はその混合方法も大体同様の理由です。このときは二以上の医薬を混合する方法については不特許要件に入っていたわけですね。
 化学物質や原子核転換物質については、産業政策的なところがあり、要するに当時の日本と他の先進国との間での技術力の差があったことに配慮して、「先進諸国によって…特許がとられることにより我が国の…工業が蒙る圧迫を防止するためであるといわれている」としています。なお、化学物質については当時、この条文からはずすかどうか、世論調査をしたようです。それによると、化学物質の製造会社、その使用をする会社、学会、研究所等の1300を対象として質問状を配付し、そのうち回答を得た625件を分析しています。それによると特許権付与に賛成が44.2%、反対48%、回答不能等が7.3%で、一応、この改正時点では化学物質をここへ残すことにしたというわけです。

■ ところが、時代が下るにつれて、飲食物や医薬、化学物質が不特許要件から除かれ(昭和50年)、ついで TRIPs 協定の成立に伴って、原子核転換物質も不特許要件から外されることになりました(TRIPs27条を参照)。

■ そして残っているのは、

□第32条
 公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明については、第29条の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

と、これだけです。
 では公序良俗を害するおそれのある発明とは何なのか。該当例として、「紙幣偽造装置」というのがよく挙げられておりますが、吉藤先生は、「紙幣事件」(昭和59(行ケ)251号事件)を紹介しています。この事件、実は実用新案の事件ですが、こんな話です。
 考案の内容は

「表面に任意形状のパンチ孔を、幅方向に二つ折りまたは長手方向に四つ折りした折り目を避けて穿設したことを特徴とする紙幣。」

というものです。
 判決によると、審決では、

「紙幣を含む通貨は、…(中略)…現在の社会生活、経済活動の基礎をなすものであり、通貨に対する信用がひとたび失われると収拾のつかない混乱に陥り、ひいては国の存立を危険ならしめるのであるから、通貨の信用を危険に瀕せしめる行為に対して、国が厳しい態度で臨み、その発行権限を国が掌握し、紙幣の様式等を法律で定めるとともに、その偽造、変造、行使の行為を刑法により厳しく禁止しているのである。このことを考えると、刑法第一四八条及び第一四九条に規定される違法行為となる、あるいは少なくともそのおそれがある行為となる以外はその実施がほとんど不可能であり、また、私人によるそのような違法行為をそそのかすことにもなりかねない本願考案は、やはり公の秩序を害するものといわなければならない。」

というように述べたようです(なお、このほか、本件については産業上の利用可能性も否定しています)。
 判決は(詳しくは原文にあたって頂きたいのですが、ここでは抜粋をします)、

「本願考案を実施できる者は国だけであることは当然の事理であるところ、原告は、社会福祉の観点に立つて、国が本願考案のような構造をもつた紙幣を採用することを願つて、本願考案を出願したのであつて、原告若しくはその関係者等が現に流通している紙幣にパンチ孔を穿設しようというものではない。実施が法律上制限されている場合にも、発明の特許性(考案の登録性)が失われるものでないことは、パリ条約の規定(第四条の四)を持ち出すまでもなく明らかである(考案の実施が不可能であることは公序違反にならない。)。」

「本願考案は、紙幣に係る考案であつて、偽造紙幣に係る考案ではないのであるから、右(1)にいう刑法違反となる以外に実施できないとの理由は失当」

「効果の確認が違法行為につながるという点についても、技術的事項の確認であれば何も現実の紙幣を用いなくてもできることを考え合わせれば、この理由も意味がない。」

「本願考案の構成が違法(犯罪)行為をそそのかすとか、そそのかさないということは、本願考案の技術的性質とはいささかの関係もないことであるばかりか、実用新案法第四条は、考案がその考案本来の目的に使用されたときに公の秩序を害するおそれがある場合を規定しているのであつて、本来の目的以外に不当に使用され、その結果、公の秩序を害するおそれがある場合などは包含されないと解すべきである。」

「被告は、本願考案は、技術的価値がなく、現実的意味をもつて実施できる可能性がないから、犯罪行為をそそのかす以外に意味がなく、それゆえに、必然的に公序違反とならざるを得ない旨主張するが、右主張には論理のはなはだしい飛躍があり、到底理解できるものではなく、失当である。」

 激しい言葉もありますが、注目するべきは、本来の目的以外に不当に使用されて、その結果公序を害する場合は包含されない、と判断していることで、要するに「本来の目的からして公序良俗を害するかどうか」がポイントになるのです(「ビンゴ事件」なども同旨と思います)。

■ 公衆衛生の関係でいえば、吉藤先生は、公衆衛生を害するおそれがある場合、

(a)その害を除去する手段があれば、公衆衛生を害しないと解する
(b)害を除去する手段がなければ、プラス・マイナスを比較考量するべきと解する

とします。後者の(b)は、例えば医薬品で作用と副作用とがある場合に、副作用が忍容できるか否かで考えよう、というものです。もっとも吉藤先生は、もっと実務的に、審査の段階で害の有無が不明瞭であったら、と考えます。このとき(a)有無が明らかとなるまで審査を待つ、(b)有無不明のまま特許するのどちらとするか。吉藤先生は、

「特許法は、安全性・品質を確保するための法律ではなく、発明を奨励するための発明である。たとえ、現在、安全性・品質の点で劣る発明であっても、これが基礎又は誘因となって今後の改良発明の出現を刺激し、促進し、技術の進歩に役立つことが期待できるが故に発明を奨励する法律」

であるとして、のような許容度の広い(b)の考え方が適切としています。妥当だと思います。
 なお、補足的に、パリ条約4条の4との関係にも及んでいます。このパリ4条の4は、もう条文は挙げませんが、販売制限のある物質であっても、将来法律が変るかも知れないし、専売業者なら売れるというのだったら、専売業者が実施権を獲得するかも知れないのだから、特許については関係なく判断しておけ、という話です。ちょっと、公序良俗とは相違する観点なのですね。

■ と、いうわけで、今回は公序良俗の話でした。この話は掘り下げていくと、「ペアレンタル・アドバイザリー」になりかねないところもありますんですが、試験用としてはこの程度のものでしょう。なお、公序、良俗の言葉の解釈については馬鹿馬鹿しいものですが、一応再現できる方が安心できるかと思います。口述で出題、ということもあり得ますのでねぇ。

■ 長くなってるのに、余録ですが、高校時代の日本史のO先生が、太宰府天満宮について、

「あれは菅原道真公が死後、その恨みをもって落雷などの災いをもたらしたので、雷除けに祀ったもの」

だから、合格祈願・学業成就という話はないと思う、としたうえで、

「まぁ、『落ちない』という意味では、良いのかもしれないけどねぇ」

と述べていました。しかしながら、雷は最初に書いたように帰還雷撃で昇っていくものですから、その説も妥当しないような。
 しかし、道真公の教養にあやかりたいという気持ちであれば、それが一番良いのではないかと思います。ちなみに私、こと試験関係につきましては「神頼みをすると落ちる」傾向にあり、試験についてだけは自救することにしております。

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