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2008年7月28日 (月)

久しぶりの はなし

哲学の話で聞いたんだと思うが、人間の音楽の鑑賞は、短期記憶内に記憶された先行音と、その後に聴取した音との関係を楽しむものだという。一般に人間の短期記憶は約20秒ほどしかもたないというし、記憶できる内容も限られている。なお説によっては短期記憶でも中期記憶でもない、音楽観賞用記憶があるんだ、ということになっているらしいが、ここではそれはどうでもいい。とにかく、短期記憶に入る情報から音楽の鑑賞をしているとすると、いくらゆっくりした音でも20秒の間に次の音が聞こえてこないと、それはもう音楽として成立しない話になる。

▽ そういう意味で、音楽の「限界」に挑戦した音楽があるかどうかは知らないが、音楽という言葉には、自然とその限界があり、これを超えると音楽とはもはや言えないというものがある。上のような短期記憶の例が事実なら、この例は人間にとっての音楽であるか否かの問題となり得るだろうが、一方で例えば仏教のお経が音楽か否かという話になると、お経のリズムと音階が音楽といえないこともない。語義の限界に対して、言語で定められる境界には、曖昧で無力なときがあるものである。

■ 均等のはなし
 特許権はそういう曖昧な言語で記述されたクレイムで確定されるためか、クレイムの記載と表現上の差しかないような侵害品が、非侵害とされる可能性が否定できない。これを問題と考えて、クレイムを厳密に文言解釈するのではなく、文言解釈の範囲を超えて技術的範囲を認定しようという考え方がある。これを均等論という。

 さて、話は一気に数年前に遡る。ある日本企業と米国企業との間に生じた侵害事件のことである。その訴訟経過は非常に複雑で、当時までの経過は、こんな具合である。1992 年、米国企業 Festo は、日本企業 SMC を USP3,779,401 及び USP4,354,125 の2つの特許権を侵害したとして訴えた。Festo のクレイムは、プロセキューションの段階で(少々余計な)補正がなされていて、SMC の対象物件を文言的にはカバーしていない。
 1994 年から1995 年に SMC が地裁レベルで敗訴した後、Hilton Davis の事件があり(1997 年)、この事件で最高裁が均等論の適用について、

1.均等論侵害の有無は、クレーム全体(as a whole)ではなく構成ごとに判断(element by element rule)。
2,特許性に関連する補正による禁反言は有効。理由が示されていないときは、特許性のために補正がされたと推定され、特許権者に反論の機会が与えられる。
3.実質的な差異があるか否かのテストを行う。旧来の(function, way, result)テストは、妥当でない場合があるから、interchangeability による判断をする。なお、これの判断時点は侵害時。

という3つの基準を明確にした。
 SMC は上告し、上告審は本件を地裁に差戻した。地裁では再度 SMC が敗訴(1998 年)。この際 SMC 側は、補正がされており、禁反言の原則から侵害でないと主張し、Festo 側は、自発的補正は禁反言にならないと主張した。その後 CAFC において SMC はさらに敗訴(1999 年)、そして 2000 年、CAFC は、en banc で、均等論と禁反言との関係について次のように判示したのである。
 すなわち、102条、103条だけでなく、101条や112条に対する補正も特許取得のために必要なものである以上、禁反言の対象となるとし、自発的補正であっても、他の補正と同じ扱いを受ける以上、禁反言の対象となるとした。
 要するに、記載不備に対する補正も、拒絶理由がないのに勝手にやった補正も禁反言となり、補正により確定された範囲については文言通り解釈するという話になったわけだ。しかも、CAFC は、こうも判断した。クレームの告知効果(notice function)を考えれば、従来の flexible bar(除外範囲を柔軟に解釈する) は bar の引き方が難しく、機能しない。従って補正されたクレーム構成要素に対する均等論の適用は complete bar(完全除外)される、すなわち、補正された事項についての均等論侵害は一切ない、と。

■ Festo 事件
 これが世に知られた Festo 事件であって、この事件(56 USPQ2d 1865, Fed. Cir., Nov.29,2000)は、当時物凄い衝撃になった。なにせ、補正をしたら均等論は働かない、というのである。米国の代理人がこぞって日本にやってきて、説明会をしたうえ、今後は中間処理で気を使うので、という理由で値上げ要求をするところもあった。
 もっとも 2001 年には、最高裁がこの件に対する上告を受理し、まず特許性に関連する補正については、最高裁は、CAFC と同じく、112条の補正であっても禁反言の対象となるとしたが、単に記載を整えるだけで特許請求の範囲を減縮しない場合は禁反言は生じないとも判断した。また、補正されたクレイムに均等範囲はあるか否かにつき、言語表現の限界を考慮し、また過去に特許権を取得した者に対して fair でない等、として complete bar は適用すべきでないとしている。
 しかしながら、特許性に関連する補正をした場合には禁反言が働くわけで、均等主張が困難になる場合がないとはいえない。要は、補正により放棄されたサブジェクトマターが何だったかというところが問題になるわけだが、放棄されたものを戻すような主張はできないからだ。
 まぁ、もっとも、均等主張を狙うようではそもそも問題であるとの考え方もあり、ちゃんと文言侵害に追い込むのがキレイな筋であろうから、こんな話は大したことない、という考え方もないではない。

■ University of Texas v. BENQ. et. al.
 と、いささか古い判決を持ちだしたのは他でもない。表題の事件(Fed. Cir. 2008---2007-1388---)において、特許性に関わる補正の禁反言について、この Festo 事件の判断が行われたというわけで、少し話題になっていたからである。Festo 事件、久しぶりに名称を見たが、当然ながら、まだ生きている判決である。

■ 人間の短期記憶が20秒ほどしかもたないのに対し、特許権は場合によるが20年ないし25年。なかなか長期の問題である。しかし最高裁判決は判例変更が行われるまでは、無限長寿命(?)を獲得しており、こんなものを代理人としては、ある程度は頭に入れておかなければならないのだから辛いところではある。もっとも米国であればチザムの本(なんか Amazon の取り扱いはないようだが---)などがあるのでよいのだが、日本ではあまり実務的判例集というのが少ないような…。というか、染野・金子判例集は、もう新しいのはでないのかなぁ

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コメント

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投稿: iida | 2008年8月10日 (日) 20時54分

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