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2008年7月29日 (火)

乱読日記[98]

リチャード・ドーキンス、「ブラインド・ウォッチメイカー[下]」

ブラインド・ウォッチメイカー―自然淘汰は偶然か?〈下〉
リチャード ドーキンス
早川書房
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おすすめ度の平均: 3.0
4 人間が生きる意味、人類の目指す先を知った
2 古い

釣りがね型の関数を得たくって、久しぶりに双曲線関数(hyperbolic)である sech x を使うつもりになって、しかしながら processing には、hyperbolic は入っていないので、exp を使って作ろうと、うっかり、

{exp(x)+exp(-x)}/2

としてしまい(これは cosh だ)…。道理で虫たちが外へすっ飛ぶわけだ。

▽ 「山登り飛虫」は、Genetic Algorithm(GA)利用のプログラムの一つで、xy平面上で、適当な形の山を、関数を用いて仮想的に定義し、虫にこの山を登らせるというものである。各虫たちは、それぞれの遺伝子により存在位置が決まる。山の比較的高いところ(例えば全個体の平均より上)にいる個体は次の世代へ残る。山の比較的低いところ(例えば全個体の平均より下)にいる個体はその場で絶滅し、次の世代においては代りに新しい遺伝子を持った個体が発生する。簡単にいえば---このほかに「突然変異」等の変化があるのであるが---そういう仕組みである。ここで山を表すのに hyperbolic を使おうとして間違ったわけだ。

■ 下巻
 下巻では、ドーキンスは、進化論に対抗する諸説を列挙し、そして論破していく。その過程を通じてドーキンスの本意が明らかにされていくのであるが、この間に、私の進化論の認識と、ドーキンスの語る進化論との間に深い溝があることが分かってしまった。

 個人的には、進化の過程はランダムに発生するんだとばかり思っていたのであるが、違うんである。ドーキンス氏によると、突然変異はランダムではなく、制限された範囲で突然変異を起こすのである。そしてその結果が自然淘汰されていくのである。

■ なんてこった。そうすると、私が修士論文で作成した GA システムにも誤りがあることになる---思わず、この本を読んでいた電車の中でショックを受けてしまったのであるが、気を取り直して考えてみると、しかし GA システムが必ずしも、真の進化論をコピーしていなくても構わないはずであるから、この心配(?)は、まったくの杞憂である。
 とはいうものの、果たして制限的な進化と、完全にランダムな進化とで、GA システム上、どういう相違があるかと思い、手近なところで processing を使って、山登り飛虫を作ってみたわけである。制限進化と、ランダム進化との2種類の進化を選択できるようにしておき、実験をスタートしてみると、どうも挙動がおかしい、おかしい、…

 結局、先程までデバッグにかかってしまい、冒頭のようなアホウなバグを見つけた。これを修正して、今では正常に動いているようであるが、何かの結論が出せるほどの実験はできず。今回は諦めモードに。いずれ公開できたら、してみようかな。

■ なお、ドーキンスのバイオモルフについてならば、

http://www.rennard.org/alife/english/biomgb.html

というサイトに素晴らしいデモが置いてあって、進化するバイオモルフの様子を楽しむことができる。なるほど、あっという間に、単なるツリーモデルが虫のような形態に「進化」したりする。面白いものである。

■ 本書については、さらに、解説があの日高敏隆氏なのであるが、日高氏によると、「昆虫記」で有名なファーブルは進化論を信じていなかったらしい。一撃で獲物の虫を麻酔するハチが進化によってできたものとは思えなかったというのが理由のようであるが、これはちょっとした驚きである。
 本書は、---生物学の学生など、本当に進化論を学ぶ必要のある人々からすれば少々古いのかもしれないが---進化論の真意をもう一度見直すことのできる面白い本である。もしかしたら、あなたの進化論の理解は誤っているかも知れない

■ 最後に、動物学に関して私の好きな話を一つ。ドーキンスとは関係ないが、ある動物行動学会でのできごと。そこでは「ペンギン」が列をなして歩くのはなぜか、という疑問に対し、決定的な回答が発表されていた。いわく、

ペンギンは、歩いている仲間を見ると、ついていく習性がある

ことが明らかになったのである。
 ところが、質疑応答の場において、議論は紛糾した。なぜならば、ある学者が、

では、最初のペンギンはなぜ歩き始めたのか

と質問したからである。この質問に対し、喧々諤々の議論が戦わされ、終わることはなかったという…。
 少々マユツバな話ではあるが、多少近視眼的な学問の場ではありがちな話だし、ある側面からすれば、確かに質疑の内容は難問とも言え、academic の世界は、やっぱりちょっと違う、ということを表した楽しい話だなぁ、と。

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