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2008年5月23日 (金)

[弁理士試験]吉藤を読む(9)

いまごろは、短答式の自己採点も終了し、だいたい35−41点あたりの方は落ち着かない日々をお過ごしではないでしょうか。ボーダーは何点なのか。今年は何人ぐらい通す予定なのか。気になることでしょう。残念ながら、私はその手の話題を出せる立場にありませんが、どうせ最終合格を目指すのであれば、受かったつもりで勉強していても差し支えないはずです。

▽ と、いうわけで、本日も吉藤を読んで参ります。ただし…!

■ 間接侵害
 吉藤幸朔「特許法概説」の実質的な最終版は第13版ということになっています。Amazon では、1998年12月の出版となっていますが、記憶によると、もう少し後だったような…。

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…まぁ、別にどうでもいいんですが。それはそうと、従って、平成14年の改正は、この本には入っていないのです。つまり、改正後の間接侵害の規定については触れられているはずがないわけです。
 そこをまず確認しておいて、吉藤先生の記載を見て参りましょう。まず、位置づけですが、特許権の効力の「拡張的例外」という位置づけとなっています。話のスタートラインは、「権利一体の原則」で、この原則を貫くとき、いくつかの不都合が指摘される、とします。その第1は、

 特許権を侵害していないが、これを放置すれば侵害が生じるおそれが強い、いわゆる予備的な行為をする者があるときに、この行為を効果的に禁止できない

というもの。第2は、

 特許権侵害は業を要件とするため、最終の組立てのみを個人的・家庭的に行わしめるものについては何人も侵害の責を負うことがない

というものです。前者が狭義の間接侵害、後者を含めるのが広義の間接侵害、ということになります。
 ちなみに、中山先生は、この間接侵害規定については「特許権保護の実効を図る」ものと説明され、竹田先生は「直接侵害と同等の評価」をしたものと考えておられるようです。

■ 基本的に改正前のこうした趣旨は、改正後の法律にも同じように当てはまるのですが、ここは吉藤を離れ、改正の要点を一応述べておくのが正しい姿勢かと思います。この改正では、改正前の条文では不十分な場合があることを意識しています。
 ですから、まずは改正前の法律を見たいのです。

□第101条(平成14年改正前)
 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
 一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
 二 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その発明の実施にのみ使用にのみ使用する物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入糸、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為

これが平成14年改正で次のように変わります。

□第101条(平成18年改正前)
 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
 一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 三 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 四 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

 古い条文は1号と3号とに分かれ、間に新しい条文、2号と4号とを置いています。
 では、古い条文の何が問題だったのでしょう。それは、「のみ」の問題なのです。
 例えば、特別な形状のピストンを備えたエンジンに特許権がある場合 --- これは吉藤先生の例です --- 、その形状のピストンは、この特許にかかるエンジンにのみ使用するという場合、そのピストンを業として製造する行為は、エンジンの特許権の侵害と見なされます。しかし、そのピストンが他のエンジンにも使えるものであるとすると、「のみ」の要件に該当せず、侵害とは見なされないことになります。
 ですから、この「のみ」の解釈は大変重要でした。いわく、
(a)他の用途の有無の判断時期はいつか
 特許時か、侵害時か。これは基本的に侵害の時点と考えられます。例えば他の用途が権利化後に見つかった場合、その他の用途のために製造する行為は許されないとおかしいのです。ただ、差止を求める場合は口頭弁論終結時、損害賠償を求める場合は侵害のあった過去の時点で判断する必要があることでしょう。
(b)他の用途は実用的な用途であることを要するか
 要するに可能性があればいいのか、それとも経済的・商業的な可能性が必要なのか、それとも現に経済的・商業的な使用の事実が必要か、という話であります。吉藤先生は、「現に」経済的・商業的な使用事実があることを条件とすべし、と述べます。有名事件として「交換レンズ事件」というのがあるのですが、これももう歴史的事案のような気がします。

■ 14年改正
 で、14年改正でのポイントはこの「のみ」だったわけです。一つの理由はソフトウエア特許の増大です。ソフトウエアの場合、共通部分をライブラリとして分離し、プログラムの開発・実行の効率を高めることがよく行われます。だとすると、ライブラリだけを提供する場合、それが「のみ」の要件に合致する可能性は極めて低く、大概何か他に利用可能になっているものなのです。それでは、間接侵害の効力が著しく減殺されてしまうのではないか。
 また、実際に侵害に使われると知りながら、「のみ」に該当しない品を製造して納めている場合、これは許しておいていいのか、という議論があったりしたわけです。
 そういうわけで、主観的な要件を入れて、「…発明の実施に用いられることを知りながら」というようにしたわけです。その代わり、「のみ」の要件を省き、さらに「国内で広く一般に流通しているものを除く」としました。この広く一般に流通しているもの、というのは、「汎用品」という解説がたまにありますが、むしろ、「特注品などではなくて、市場で一般に買えるもの」、という改正本の記載を優先したいところです。
 さらに新しい要件として、「その発明による課題の解決に不可欠なものにつき」というのがあります。不当な効力の拡張を防止するものですが、要するに発明にとって重要なものであれば、この要件を満足するわけです。
 その他文言解釈は、改正本に任せましょう。

■ 吉藤先生に戻りまして、少々マニアックな論点を確認します。
 それは、「間接侵害の成立には、直接侵害の存在を必要とするか」という話です。これを見て、「ハァ?」と思わない人がいるだろうか。なにせ、直接侵害を問えない場合があるから間接侵害の規定を設けたというのに、なにゆえ「直接侵害の存在を必要とするか」などと抜かすか。
 いや、これは事情がありまして。要は、間接侵害行為者の行為が元で、直接侵害が発生しているか、という話なんです。かみ砕いて言うと、間接侵害者Aが発明実施のための専用品を用意して販売し、直接侵害者Bがその専用品を買って、発明実施品を業として製造した(直接侵害)という場合でしか、Aの間接侵害を問うことはできないのではないか、という議論です。
 この議論のために、直接侵害行為が、何らかの理由で差止や損害賠償請求の対象とならない場合、これを考えてみましょう。その例は

(1)家庭的・個人的に実施されちゃう場合 (組み立てキット販売みたいの)
(2)試験研究のために実施されちゃう場合
(3)実施権者への販売である場合
(4)ノックダウンの場合 (製品に必要な全部品を用意して輸出し、輸出先で組立てて完成品とするケース)
(5)準ノックダウンの場合 (現地調達の部品がある場合)

というようなことです。いずれも直接侵害には該当しません。
 すると、間接侵害は直接侵害の存在が必要とする説(従属説)では、これらの元となる行為はどれも間接侵害に該当しないことになります。
 一方、間接侵害は直接侵害の存在は必要でない、と言う説(独立説)もあり、こちらは、上のどの場合でも間接侵害が成立します。おっと、実施権者への販売みたいのもダメ? という話で、少し修正がいるんじゃないか、というのが「修正説」で、合目的的な考え方を取ります。
 例えば、(2)は69条の趣旨から間接侵害不成立、(3)は実施権者の手足と見なせる場合(他へ売り渡してないとか、実施権者の指揮監督があるとかのアレ)は不成立、(4)は国内市場の独占性に害がないという理由で不成立、または組立てのテスト工程があるので、直接侵害だから、間接侵害ではないというハナシ。(5)はこれを間接侵害とするのは、不当な拡張解釈だということで、不成立とします。(1)はそもそも本条の趣旨だとして成立を認めます。古い「裁判実務体系(9)」に、この修正説についての松尾和子先生の論文が掲載されているはずで、吉藤先生もそれを紹介しています。ちなみに、吉藤先生は、独立説を良しとされておられるようです

■ や、長くなってしまいました。
 最後に、現在の101条を挙げます。これは模倣品による被害を有効に防ぐために、輸出等の目的の所持を禁じるもので、3号と6号とを追加したものです。

□101条 (現在)
 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
 一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 三 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
 四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
 六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

 …長い条文になったものですな。

■ 法改正がされて、従前妥当だった説明がダメになる。これは法律の本の宿命みたいなものですが、受験生にとっては、過去の良い本を参考にするときの邪魔になるように見えて嫌なものです。しかし、これを却って逆手にとり、過去の良い本を理解した上で、現在の改正で過去のものとなった論点がどれなのか、それを考えてみるのも、一つの勉強となり得るのではないでしょうか。
 次回からは侵害に対する救済、という話に移ります。

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