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2008年4月 3日 (木)

積和のはなし

ディジタル回路の話で、真理値表を「0」,「1」で書くのは素人だ、という話を聞いたことがある。回路上は電圧の高低、つまりは「H」,「L」で表すことが基本だというのである。論理積・論理和という言葉の意味を理解する側面では、「0」,「1」で考えた方が分かりやすいような気もするのだが、実際の回路ではゲート回路の電気的特性の問題もあるし、「0」,「1」では回路の設計はできない。

▽ さらに複数の論理ゲートを組み合わせると、いろいろな種類の論理回路を組むことができる。例えばNANDゲートをうまく使う例はよく知られているところだろう。従って具体的な回路の設計では、集積回路に入ってるゲートの種類と数をうまく利用することで集積回路の点数を減らしたりすることがよく行われる。

■ 米国の blog 系情報サイト、Patently-O(http://patentlaw.typepad.com/) に掲載されているその話を理解するためには、もしかすると、FDC Act. 21 CFR Part 314 Sec. 314.50 (i)(1)に規定された、ANDA(Abbreviated New Drug Application)申請についてある程度理解していないといけないのかも知れない。米国での医薬品の承認の話である。特許権のある医薬に対してジェネリック医薬を製造しようとして承認を得るための申請をする場合、申請人は当該特許権について、

(1)特許情報がFDAに提出されていない(パラグラフI)
(2)特許権の存続期間が切れている(パラグラフII)
(3)特許権の存続期間が切れる(パラグラフIII)
(4)特許権が無効であるか、権利行使不能である。または申請人の製造・販売等が当該権利を侵害しない(パラグラフIV)

のいずれかを主張しなければならないらしい。
 このうち、パラグラフIVというのは要するに権利者に対して攻撃的な姿勢を取ることを表明したわけで、このような申請を行った申請人については一定の保護がされるらしい(他社に180日間ANDA承認を与えないなど)。
 さらに、権利者にとっては、ANDA申請薬を対象として訴訟を起こすことで、30月の間、承認を停止に追い込む制度があるようだ。これを30-Month Stay of Approvalと呼んでいる。

■ この訴訟合戦
に入っていたのが、Ortho-McNeil Pharmaceutical, Inc.と、Mylan Laboratories, Inc.らとである(CAFC 2007-1223)。
 抗痙攣薬であるトピラメートという薬剤をめぐる事件である。クレイムを挙げるのが一番望ましいのであろうが、化学式を見ただけで拒否反応、という人も多いだろうから、ここでは敢えてクレイムを直接書くことはやめて、その構成だけを示したいと思う。なお、該当の Ortho-McNeil Pharmaceutical, Inc. の特許番号は、 4,513,006 で、006特許と呼ぶ。
 クレイムの構造では、

 A,B,C,D,E,X を有していて、
 Xは、x
 Aは、a
 B,C,D,E は、独立して(independently)α又はβで(and)、B及びC、及び/又はD及びEは、ともに(together)γ式で表される。

というもの。及び(AND)や、又は(OR)がいっぱいでヤヤコシイ。念のため主要部(最後のパラグラフ)を原文風に記載すると、

 B, C, D, and E are independently α or β and B and C and/or D and E together may be a group of following formula...

ということになる。どこがどういう組み合わせになるか、それが問題である。特に、

(1)B, C, D, and E are independently α or β

というところと、

(2)B and C and/or D and E together may be a group of following formula...

というところを結ぶ and の意味。これが問題になった。
 (1)かつ(2)と読むとすると、トピラメートをカバーしないのである。

■ 訴訟の決着
 訴訟の話のスジは少々難しい。だが、要所だけを捉えていくと、どうも、注目の and ((1)と(2)とを結ぶ and )は、independently とか together というような語とともに現れており、全体的に解釈すると、B, C, D, E は必ずしもαまたはβでなくてもよい、と判断されているようである。要するに、and とは書いてあるが、or の意味だ、というわけである。

むちゃくちゃだ

と思われるかも知れないが、たしかに解釈上、and と or との意味の取りようは難しい場合がある。言語的表現の限界だと言えばその通りだが、カンタンに、

either (1) B, C, D, and E are α or β,
OR (2) B and C and/or D and E together may be a group of following formula...

とでも書いておけば誤解のないところだと思う。あまり and や or を多用してそのままにするとワケのわからない文章になりがちで、注意を要するわけで、箇条書きっぽくするなど別の工夫を入れたりする方がわかるときもある。
 そういうわけで、Patently-O は、若干批判的に(?)

CAFC によると、AND=OR だそうだ、

と、述べている。もっとも、Patently-O の注視点は本件判決の別の点にある(KSR との関係部分)。

■ 地下鉄などでよく見る英文だが、
 不審物や不審者を見かけたら、駅係員または車掌までお知らせください
という趣旨のアレ。どうも and や or がいっぱいあって気持ち悪く思っていたのであるが、ネイティブな人たちのクレイムがこの有り様なのであれば、別段、あれで読めるものなのだろうな。

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コメント

時々、選択肢が何段にもなっていて、わけが分からないクレームを見かけます。選択肢が何段もあるクレームを作るときは、見直しは重要ですね。

>■ 地下鉄などでよく見る英文だが、
外国で、面白い日本語の表現をみるのと同じじゃないでしょうか。現地語だけが表示されるよりも、役に立つのでしょう。

投稿: バテバテ | 2008年4月 3日 (木) 09時51分

バテバテ様

コメントありがとうございます。
こういうワケの分からないクレイムは、引用文献でも困ることがあるのですが、一番困惑するのは翻訳の時じゃないかと思います。外内などの。問い合わせを出してもナシノツブテになるか、要領を得ない返事が返ってきたり…。

マーカッシュタイプになるようなクレイムの書き方というのをもう少し分かりやすく統一しておいてくれた方が良いのかもしれません…。

投稿: ntakei | 2008年4月 4日 (金) 12時21分

日本みたいにカッコ書きOKだとまだ理解しやすくなるんですけどね。
化合物名はいいのに、クレーム中だとなんでだめなんでしょうか?

投稿: minmin | 2008年7月23日 (水) 01時47分

minmin 様
コメント有難うございます。
分かりやすく書いてあれば構わないように思うのですが、この件の場合は、クレイムドラフトが悪いということになるんでしょうか。
ご存知のように、分かっている人が書くと、分からないことを前提とした記載がやり難いということがあって、私ら代理人としては十分気をつけているところなのですが、時折、こういう記載が散見されるのは、故意になのか、過失なのか…。過失でないことを祈るのですが。

投稿: ntakei | 2008年7月23日 (水) 03時04分

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