« [弁理士試験]吉藤を読む(6) | トップページ | レシピのはなし »

2008年4月28日 (月)

あるヒストリー

そろそろ「暖かい」から「ちょっと暑い」に季節が変わりつつある。とはいえ、まだ梅雨があるから、ここで春物の服をしまい込むと、梅雨寒のころにまた引っ張り出す必要があったりする。この時期だからエアコンを使うまでもなく、ちょっと窓を開けておけばそれで過ごしやすい気温になるのだが…。

▽ 先週の記事で、硫化水素自殺が増えていてまきぞえが怖いと書いておいた。硫化水素は化学式 H2S で、硫黄に水素が2つばかりくっついた単純な分子である。水素の原子量が「1」、硫黄の原子量が「32」なので硫化水素の分子量は1×2+32=34、空気の平均分子量がだいたい30前後だから、硫化水素のほうが若干重く、従って静かに放っておくと、低いところへ移動することになる。窪地に硫化水素がたまっていることがあって、温泉地などで窪地にうっかり入り込むと危ないことがあるのは、こんな理由による。そんなわけで、階上の住人たちがこの種の自殺をしないでいてくれることを期待するが、窓などを開けたまま寝入っていて、うっかり…などということがないように注意しないといけない。

■ 山口県の選挙で、民主の候補が自民の候補をあっさり破ったということで、福田首相の求心力低下が懸念されている。と、いうか、このところの「後期老齢年金」だの、「暫定税率」だので話題沸騰中だったから、そもそも勝ち目は低かったと見るべきだろう。ガソリンの金額はそもそも米国の投機家の動きが原因の一つのような気がするので、どうして一部富裕層のためにこっちが苦労しなけりゃいけないのか理不尽なものを感じるわけだけど、それでも暫定税率でせしめた税金の使い道がかなりいい加減で、どうも。

 海外からの食料調達も思うようにならないということで、身近な例でいえば、バターなどが食品売り場から姿を消しているし、飲食店は軒並み値上げしている。

「こうなったら特許事務所も、『昨今の原材料物価高に伴い…』とかなんとか値上げ交渉でもしてみようか」

というのは、半分かた冗談にしても(原材料?)、このご時世、少々の料金交渉はしてみたいものである。

■ そんなこんな
で(?)食料品の自己調達を重視したいのか、なんなのか。ここのところ、特許庁でも農業や水産業分野の技術を推進しようとでも思ってるのか、はたまた単なる地域活性化策のひとつか、農林水産省と経産省との連携強化など(http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/press_database_renkei.htm)を背景としてか、知財分野でやけに農業関係の報道記事が目に付く気がする。私だけかな?

■ まぁ、農業といっても食品ばっかりでなくて、例えば愛媛県松山市では、ミカンに代る収入源として観賞用ユーカリの育成技術を登録したという。まだ特許公報がでておらず、検索にでてきたのは公開公報だった。出願は平成18年3月15日。発明の名称は「ユーカリ属植物の挿し木苗」である。
 クレイムを見ると:

【請求項1】
ユーカリ属植物から選ばれた採穂母樹より得られる挿し穂を、通気性、保水性に富む、スポンジ状の多孔性物質に挿し付けた状態の挿し木苗。

(クレイムは全部で4つ)
とある。相変わらず、こういう農水分野のクレイムというのはよく理解できない。
 いつぞや話題になった冷凍枝豆の事件だって、

 豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している、緑色の維持された、ソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品。

とかいうクレイムだもの。「薄塩味」とか、「ソフト感」とか、今回の場合、「通気性・保水性に富む」だもんなぁ。他分野ならば考えらんない。だいたい「薄い」とか「ソフトだ」とか、「保水性に富んでる」というのはどのレベルなのか、それが問題になるもの。権利侵害のときにも、これでイケるんだろうか。ちなみに、せめて

ユーカリ属植物から選ばれた採穂母樹より得られる挿し穂を、スポンジ状の多孔性物質に挿し付けた状態の挿し木苗。

というようにするのが、私の感覚。これでも「採穂母樹」あたりを限定するか、何か入れないと多分新規性が怪しそうだと思っちゃうのだが。

■ と考えてきて、ふと気がついた。本件も登録時にはもっと違うクレイムになってるんじゃないか。
 最近の IPDL では、2003年7月以降の審査書類を閲覧できる。試みに、と本件の審査経過を見てみる。出願内容を調べてみると、出願当初は代理人がついていない。その後、一年ほど経ってから代理人が中途受任している。どうやら審査請求以降は代理人に任せるという方針だったようだ。やりにくい案件の典型である。
 審査請求と同時に早期審査をかけている。出願経過で、手続補足がついてるのは、代理権に係る書類を補足したのである。代理権が必要な手続から3日以内に手続をする場合は「手続補足」ということになる。それ以降は「手続補正」をすることになる。ただ、ちょっとした原因で、結局、委任状を出し直してる。
 さて、最初の拒絶理由通知は2007年の6月。理由は36条、29条1項、29条2項とてんこ盛りだ。これに対して代理人はやっぱり当初のクレイムをばっさりやっつけている。この対応時点での補正クレイムは、

  【請求項1】
 ユーカリ属植物から選ばれた採穂母樹より挿し穂を採取する工程と、
 通気性、保水性に富むスポンジ状の多孔性物質であって、主成分であるココヤシ繊維にピートモスを主成分とする培土を加え、成型材として親水性ウレタンプレポリマーを添加してスポンジ状に加工した成形培土である多孔性物質に、前記挿し穂を挿し付けて、挿し木苗を作る工程と、
 前記挿し木苗の周囲を遮蔽しない場所に前記挿し木苗を固定する工程と、
を備えることを特徴とするユーカリ属植物の挿し木方法。

 や、や? 方法クレイムに変更したのは何の意味だろうか。ちなみに、この代理人の方の意見書、かなり一般的な体裁とお見受けしたが、一番最初に拒絶理由通知のコピペを置いてる。だいたい要旨を述べるのが普通だと思うが、これは労力を抑えられる方法の一つだなぁ。
 さて、特許庁は、さらに第2回目の「最初の拒絶理由」を通知している。これも36条(記載不備)。
 「挿し木苗の周囲を遮蔽しない」という文言が意味不明、というような趣旨。そこで、これを説明するべく、

  【請求項1】
 ユーカリ属植物から選ばれた採穂母樹より挿し穂を採取する工程と、
 通気性、保水性に富むスポンジ状の多孔性物質であって、主成分であるココヤシ繊維にピートモスを主成分とする培土を加え、成型材として親水性ウレタンプレポリマーを添加してスポンジ状に加工した成型培土である多孔性物質に、前記挿し穂を挿し付けて、挿し木苗を作る工程と、
 前記挿し木苗の周囲を遮蔽しないように、プラグトレーの排水口のある穴に、前記挿し木苗の成型培土の下部を差し込んで固定する工程と、
を備えることを特徴とするユーカリ属植物の挿し木方法。

と補正したところで、特許査定。わりと典型的な流れである。なお、最終的なクレイムはこれ1つだけだ。
 ニュースを斜め読みする限り、ストーリーとしては、「従来はタネから」→「発現形質が現れるまで不明で人気のある品種の収量が低い」、一方で「挿し木方法が確立されていなかった」という話で、培土の成分が工夫のポイントらしい。
 そうとすると「親水性ウレタンプレポリマー」の限定がちょっと気になってしまうが、まぁだいたい、こんなものだろうか。

■ そのユーカリ、コアラが食べてるのを見た人もあるだろうが、そもそも獰猛らしいコアラが大人しくしているのはユーカリの鎮静作用だという話を聞いたことがある。本当かどうか知らないが、強烈な悪臭のガスを発生させるくらいなら、ユーカリでも置いて落ち着いている方が良いに決まってる。
□  防虫効果もあるよ!丸葉グニーユーカリ 3.5号ポット

   

 母の日も近い今日この頃、カーネーションはありきたりなので、こんなユーカリはいかが?
 夏にむけて、防虫効果もあるらしいですよ。

|

« [弁理士試験]吉藤を読む(6) | トップページ | レシピのはなし »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: あるヒストリー:

« [弁理士試験]吉藤を読む(6) | トップページ | レシピのはなし »