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2008年3月17日 (月)

一見唐突なはなし

どの企業にも一般社会では知られていない顔というのがあって、例えば光学機器メーカーでF3(って、歳がばれますかな)などで有名なニコンが、実は半導体製造の工程で必要になるステッパの大手で、それが主要事業の一つだというのを知る人はそうは多くないように思う。

▽ ステッパというのはフォトレジストを塗布したウェーハに、回路パターンを露光する装置であり、回路パターンを一つ露光しては次の露光位置へステップするから、この名称があるわけだ。

■ それはそれとして、さいきん、半導体検査装置の大手メーカーKLAテンコールというところが、富士通の光学技術についての特許権に無効を申し立てているとかである。
 そうと言われて思い出すのは、富士通が半導体の試作に使うものとして開発した直接描画の装置だ。この装置の技術についても、また、KLAテンコールの訴訟についても詳しいことを知る由もないので、無効を主張されているのがこの技術であるかどうかは分からない

■ 無効主張
 日本で無効を求めるのであれば、特許庁での無効審判ということになるわけだろうが(もっとも最近は104条の3というのがあるからアレではあるが)、米国では特許商標庁での無効審判というのはなくて、無効主張は専ら訴訟の手続で行われる。
 訴訟というのはAさんとBさんという当事者間の闘いなので、当事者間で決着した内容(判決・審決)については当事者間では(inter partes)効果があるとしても、その効果が他人にまで及ぶかというと、それは必ずしもそうではない。判決・審決の効果がどの相手にも及ぶ場合、それは対世効(erga omnes)を有するという。
 日本の特許法での無効審判の場合、当事者同士の闘いであるといっても、仮に無効ということで決着するとなると、特許権が基本的に遡及的に消滅するので、対世効を有することになる。米国では裁判で無効主張が通ったとしても特許権が消滅するわけではないので、その特許権が他の裁判でも(他の相手についても)無効になったと言えるかというと、それは必ずしも明らかではなかった。
 「なかった」というのは、Blonder Tongue v. University of Illinois Found., 402 U.S. 313 (1971)という事件の結果、判例法上、実質的に無効の判決が対世効を有すると言えるようになったからである。

■ と、いうわけで、仮に富士通の特許権が無効だと判断されると、その判決の効果は後の裁判にも影響するわけで、富士通としては---この権利の重要度にも因るだろうが---頭の痛い事案なのではないだろうか。別に訴えてもいないのにこんなことである。
 しかし無効主張をする側もする側で、よほど勝てる自信がないとやり切れないだろう。なんとなれば、侵害を自白しているようなものだからだ。
 また無効判断が対世効を持つということは、特許保護の傘が消えることになるわけで、例えばX社が、Y社の特許権の傘の下に入り、Z社など競業他社の実施を制限して利益を上げていくということもできなくなる。要するに無効にすることが必ずしもよいわけではないわけだ。
 当事者間ではいろいろあったのかも知れないが、外見的には唐突で、なんでいきなりそんな訴訟を起こしたものだろうといろいろ憶測してしまう。

■ ところで、Blonder Tongue v. University of Illinois Found.の事件であるが、米国特許権について他国の裁判所が無効の判断をしたときにも、米国内の裁判所の判断を拘束することがあると読まれている。SOFTIC の国際シンポジウムの議事録で、ウェグナー判事が、当該外国の裁判所がフェアな判断をしていればその可能性は十分あると述べていて興味深い。もっとも他国の特許権の無効性について判断をするかどうかはよくわからない。しかしながら、例えば今後、特許ハイウェイなんかの制度を使って権利を取得するとして、クレイムがちゃんと対応してる外国特許権があって、その外国特許権が米国にもある要件で無効にされたら…とか思うんだが、そういう場合まで参酌されるだろうか。どうだろうか。

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