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2008年3月14日 (金)

[弁理士試験]判例案内(16)

事務所を開設して個人事業主になっているので、今年から私は確定申告がどうしても必要になります。その期限は3月15日。ただし今年は当日が土曜日で、国税庁の閉庁日にあたるので、翌開庁日である17日が末日です。ちなみに遅れて申告しても、還付がある場合は大きな問題になりません。税金を支払う必要がある場合は延滞税が加重されるようですが。

▽ ただ個人事業を始めたときに知りあいの税理士さんにお願いしていろいろやってもらっていたので、何となくメールで受け答えをしていただけで、税理士さんのほうで、

「確定申告? あ、既に申告済みです」

ということに。さっそく送られてきました申告書類を見てみますと、還付金の欄の前に「△」が。

「おろっ、還付がマイナスということは払えってことですか?」

とよくよく聞いてみましたら、還付があるときに還付金欄に「△」がつくらしいです。分かりにくいなぁ。

「国にとってマイナス、ってことですかねぇ」

とパートナーの一人。なるほどねぇ…。

■ この税金の制度、私ら弁理士のような専門業種の個人事業の場合、売り上げの10%が支払い元の方で預かり源泉税として差し引かれて手元にやってきます(100万円を超える部分については20%)。例えば、10万円の請求があるとすると、10%の1万円を引き、5%の消費税を足して9万5千円を振り込んでもらう、というわけです。しかし所得税としては取りすぎになっていることもあるわけで、その「取りすぎ」分が還付金として戻ってくるわけです。

■ 昭和59年(行ケ)7号事件
 特許権などについて実施権を受けていたのに、その後その権利が無効になったとき、過去に支払った対価は「取りすぎ」だから返せ、とでも言えるものかどうか。それは契約の内容にも依存するような気もしますが、一般的には、

「いかなる事由による場合でも返還しない」

というような条項を入れるのではないかと思います。

 通常実施権契約を結んで実施権を与えた相手が、当該特許権なり意匠権なりに対して無効審判を仕掛けるというのは、権利者側としては何か裏切られたような気になるものなのでしょうね。「争うなよ」というような条項(不争条項:NAP)を設けるのは不正競争的なので問題がありますが、では通常実施権者が無効審判を起こすことは問題はないのでしょうか。

 昭和59年(行ケ)7号事件(蛇口接続金具事件)では、原告側は次のように主張します。

被告は、右通常実施権の設定を受けたことによつて、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をすることができ、許諾者からの専用実施権侵害の追及を免れ、かつ競業者に対する優位性を取得しているのであるから、このような利益を享受しうる被告が本件登録意匠の登録の無効を主張することは信義則に反し、許されないものというべく、右不争義務に違反する被告の本件無効審判請求は却下されるべき筋合いのものである。
しかるに審決は、被告の右不争義務違反について看過したものであつて違法である。

これに対して被告は次のように答弁します。

登録意匠につき実施許諾を受けることによつて、実施権者は、許諾者からの侵害追及を免れ、かつ競業者に対して優位性を取得することができるが、他方、原告が主張する不争義務なるものを負うことになるとするならば、無効となることが明白な登録意匠を実施した場合にも実施料支払いを継続しなければならない不利益を受け、また一般消費者も実施品購入により、価格に含まれた実施料の支払いを強要される不利益を受けることになるのであつて、右不利益は、実施許諾によつて得られる利益よりも大きいものであり、したがつて、通常実施権者の故に不争義務を負うという原告の主張は理由がないものというべきである。
また、訴外【A】と被告間で締結された、本件登録意匠の意匠権についての通常実施権許諾契約においても、原告の主張する不争義務に関する条項、本件無効審判請求を取り下げる旨の条項はなく、被告には不争義務なるものはない。

ここで「【A】」というのは専用実施権者です。
 原告は信義則から不争義務があると言い、被告側は無効が明白になった後も実施料支払いが必要になって不利益が大きい、しかも契約にも不争条項はない、と争っているわけです。
 裁判所は次のように判断します。

専用実施権者から通常実施権の設定を受けた者が、当然に、実施許諾を受けた登録意匠の登録の無効の審判を請求することができないということになると、無効事由を含むと判断される登録意匠の実施をした場合においても実施料の支払いを継続しなければならないという不利益を受けることになり、これをも甘受するものとすべき合理的理由はないから、通常実施権者であつても、右無効審判を請求することは、特段の事情のない限り、信義則に反するものではないものと解するのが相当であり、右特段の事情の存在につき主張、立証のない本件では、原告の右主張は理由がない。

ほとんど被告の答弁をそのまま入れています。ただ、特段の事情があれば---と、保険を入れることも忘れていませんが。
 要するに、無効事由があると分かれば、その後に実施料を支払う不利益を受けるべき合理的理由はないのだから、無効審判を起こさないよう、不争義務が要請されることはない、ということです。ただし現実的には無効理由が明らかにならない限り、わざわざ無効にしてオープンにするより、他社の実施を牽制しつつ、自分たちは実施権者グループに続けて属していたほうがお得、ということがあり得るのは、また別の話です。弁理士試験ではこの観点は伏せておいた方が妥当です。

■ 今年は実施権に関する改正もありましたので、実施権関係の判例が何か、と思ったのですが、実施権に絡む判決って、あんまり試験に絡みそうなのがないような…。今回のこれも有名事件なのでご紹介しましたが試験用としてはちょいとイマイチですかね。また見つかったらご紹介いたしましょうか。

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