« ぴったんこ | トップページ | ポンのはなし »

2008年3月 7日 (金)

[弁理士試験]判例案内(15)

本当は、コの字を下向きに開いた状態で配し、その中に漢字の二みたいに横棒二本を引くものであったらしいですな。それを常用漢字としては「日」の字に直したらしいです。本来の意としては、目を覆うというような意味で、覆う、かぶりもの、伏し目で見る、犯す、むさぼる、というような意味がでてくるものらしい。その意のうちに、「人の姓名をいつわる」というような意味合いが出てきて、この文字が使われていることになるとのこと。

▽ 実をいえば「冒認」という二字熟語の意味合いが今一つ分かりにくかったので、「冒」の字を角川の「新字源」で調べたのです。昨日は、blogpet のココロが、「和歌山大学」だの「茨城大学」だのについて記事を書けという話だったのですが、どうやら二次試験が行われたか合格発表があったか、そんな話だったみたいですね。受験用の漢和辞典として、私は新字源、いいと思いますが(私の高校の漢文教師、M先生もご推奨だった)。

角川 新字源
角川 新字源
posted with amazlet on 08.03.06
小川 環樹 西田 太一郎 赤塚 忠
角川書店 (1994/11)
売り上げランキング: 160366
おすすめ度の平均: 4.0
5 引きやすい漢和辞典だが、若干クセがある
3 画数表示がほしい

■ 平成9年(オ)1918号事件
 本件も民集収載の事件です。それだけ重要性があるわけです。
 真の発明者でも、その人から正当に譲渡を受けたわけでもないのに(つまり正当に特許を受ける権利を備えていないのに)、自分の名で出願をする行為。例えば産業スパイみたいな話ですが、こういう行為を「冒認出願」というわけです。
 特許法でいえば、49条7号。

□ 49条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
…中略…
7 その特許出願人が発明者でない場合において、その発明について特許を受ける権利を承継していないとき。

同じく無効の理由を定めた123条1項6号

□ 第123条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、2以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
…中略…
6 その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。

ですね。
 本件事件の事案は、実はこれとは少々事情を異にします。整理して言うとこういうことです。
 最初にある発明Xについて、特許を受ける権利を備えているAとBとの共同出願がありました。ここへCというのが現れます。CはXについて特許を受ける権利を有していないのに、Aの印章を無断で使い、特許庁にする名義変更の書面を「偽造」します。そしてこれを使ってCとBの共同出願に変更してしまいます。
 やがて特許査定が下り、その結果、CとBとの共有になる特許権が発生してしまいました。Aは、審査段階でこの事実に気がつき、Aが特許を受ける権利を有していることを確認する訴えを起こしていましたが、途中で登録査定になってしまったので、Cに対してAへの移転登録手続を求める訴えに変更したわけです。

 原審である高裁では、

発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「真の権利者」という。)であっても,これ以外の者(以下「無権利者」という。)を特許権者として特許権の設定の登録がされたときは,特許権の移転登録手続を請求することはできない。なぜならば,このような場合に真の権利者の無権利者に対する特許権の移転登録手続請求を認めることは,裁判所が,特許庁における特許無効の審判手続を経由せずに無権利者に付与された特許を無効とし,真の権利者のために新たな特許権の設定の登録をするのと同様の結果となるが,このことは,特許権が行政処分である設定の登録によって発生するものとされ,また,特許の無効理由の存否については専門技術的な立場からの判断が不可欠であるために第1次的には特許庁の判断に委ねられているという特許争訟手続の趣旨及び制度に反するからである。

として、移転登録手続請求を認めませんでした。本件上告審では、これを「是認できない」とします。
 その理由は次の通りです。

上告人は,本件特許権につき特許無効の審判を請求することはできるものの,特許無効の審決を経て本件発明につき改めて特許出願をしたとしても,本件特許出願につき既に出願公開がされていることを理由に特許出願が拒絶され,本件発明について上告人が特許権者となることはできない結果になるのであって,それが不当であることは明らかである(しかも,本件特許権につき特許無効の審決がされることによって,真の権利者であることにつき争いのない上告補助参加人までもが権利を失うことになるとすると,本件において特許無効の審判手続を経るべきものとするのは,一層適当でないと考えられる。)。また,上告人は,特許を受ける権利を侵害されたことを理由として不法行為による損害賠償を請求する余地があるとはいえ,これによって本件発明につき特許権の設定の登録を受けていれば得られたであろう利益を十分に回復できるとはいい難い。その上,上告人は,被上告人に対し本件訴訟を提起して,本件発明につき特許を受ける権利の持分を有することの確認を求めていたのであるから,この訴訟の係属中に特許権の設定の登録がされたことをもって,この確認請求を不適法とし,さらに,本件特許権の移転登録手続請求への訴えの変更も認めないとすることは,上告人の保護に欠けるのみならず,訴訟経済にも反するというべきである。

不都合を是正するためには,特許無効の審判手続を経るべきものとして本件特許出願から生じた本件特許権自体を消滅させるのではなく,被上告人の有する本件特許権の共有者としての地位を上告人に承継させて,上告人を本件特許権の共有者であるとして取り扱えば足りるのであって,そのための方法としては,被上告人から上告人へ本件特許権の持分の移転登録を認めるのが,最も簡明かつ直接的であるということができる。

特許権が特許庁における設定の登録によって発生するものとし,また,特許出願人が発明者又は特許を受ける権利の承継者でないことが特許出願について拒絶をすべき理由及び特許を無効とすべき理由になると規定した上で,これを特許庁の審査官又は審判官が第1次的に判断するものとしている。しかし,本件においては,本件発明が新規性,進歩性等の要件を備えていることは当事者間で争われておらず,専ら権利の帰属が争点となっているところ,特許権の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項であるから,本件のような事案において行政庁の第1次的判断権の尊重を理由に前記と異なる判断をすることは,かえって適当とはいえない。

 長々引用しましたが、無効にしてもういっぺん出願しても権利は得られずAの保護に欠けるということです。また、共有者Bの権利まで失わせてしまうことなどから、妥当性がないというのです。
 さらに、特許庁の第1次的判断権の尊重ということも当事者主張にあったようなのですが、権利の帰属自身が技術に関する専門知識がなくても判断できるので、上記事情の尊重によって妥当性のない判断をするのは適当でない、とします。
 結果、移転登録請求は認められたことになるわけです。

■ 比較:平成14年(ワ)8496号事件
 この事件では、

登録後の特許権については,真の権利者から無権利者に対し,当然に,当該持分について特許権の移転登録手続を請求することができるものでもない。すなわち,特許法は,冒認出願(発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「発明者等」という。)以外の者による出願。)に対しては拒絶査定をすべきものとし(特許法49条7号),冒認出願者に対して特許権の設定登録がされた場合,その冒認出願は無効とすべきものと規定しているだけであり(同法123条1項6号),特許法においては,発明者等が冒認出願により特許の登録を得た者に対し特許権の返還請求権を有することを認める旨の規定はない。したがって,冒認出願をして特許権の設定登録を受けた場合に,発明者等から冒認出願により特許登録を得た者に対する特許権の移転登録手続を求める権利は当然には認められていない

という判断がされています。1918号事件とはどのように事情が違うのでしょう。
 高裁は、上記1918号事件を引用した上で、次のように述べます。

本件では,原告は,自ら出願手続を行っていないのみならず(原告は出願依頼書に発明者として記載した旨主張するが,そのような事実が認められないことは前記認定のとおりである。),原告以外の者が発明者として明記されている本件各登録発明の出願依頼書(前記のとおり,特許を受ける権利の譲渡証を兼ねるものである。)にその上司として日付入り確認印を押印して,これを承認しているものである。しかも,本件各発明については進歩性等が争われており,特許登録に至るまでに補正などもされており,原告は,この間に,特許を受ける権利を有することの確認を求める訴訟を提起するとの方法も採り得たのに,原告が予備的に移転登録請求を提起したのは,上記出願依頼書の作成から相当の長期間が経過した後の平成17年5月23日であり,いずれの特許についても特許登録の後である。したがって,本件については,仮に原告が共同発明者であるとしても,上記の最高裁判決のように,例外的に特許権の移転登録請求を認める必要性がないことは明らかである。
したがって,仮に,原告が共同発明者であると仮定しても,本件の事情の下では,特許権の持分の移転登録請求を認めることは,そもそもできない。

 これによると、1918号事件の判断が適用されるのは、かなり当該事件と事情が共通している場合で、つまりは、

  • 真の権利者が他者と共同出願をしたこと
  • 冒認者が真の権利者からの名義変更書類を偽造したこと
  • 登録がされてしまい、真の権利者が移転登録手続請求を認める以外に真の権利者に生じた不都合を是正する他の救済方法が存しないこと

といった条件が満足されなければいけないようです。さらに高裁は明言はしていませんが、もしかすると登録前から特許を受ける権利の確認請求などをしていることも条件となるかも知れません。いずれにしろ、1918 号事件は例外という扱いで間違いはないようですね。

■ 角川の「新字源」は、大層よくできた漢和辞典で、コンパクトながら、成り立ちから意味、利用例など幅広く解説がついています。本来解説というのは、内容を完全に理解していると、比較的コンパクトにまとまるものなのです。そういう意味からいきますと、今回のこの記事みたいのは…、まぁ落第点でしょうかなぁ

|

« ぴったんこ | トップページ | ポンのはなし »

コメント

弁理屋さんが「登録前から特許を受ける権利の確認請求などをしていることも条件となるかも知れません。」とおっしゃっているように、この辺が射程がどこまでなのか良くわからないところですよね。
そして、判例中の理由付けでは特許を受ける権利と特許権とが連続した物と評価できる云々の箇所が苦しいですよね、権利として明らかに別物ですから。
中央知的財産所の研究報告13号にこの判例の研究が掲載されていますが、ここでは射程を広くみて、登録された後に特許移転登録請求をしても認められると解されています。

投稿: 同業者 | 2008年3月14日 (金) 18時21分

同業者様

いつもコメントありがとうございます。
本件の最高裁判決については、それが最高裁判決ということで法源としての扱いをするのは分かるのですが、変に拡大解釈して取られやすく、注意が必要な気がします。どうもかなり例外的に考えないといけないような印象を受けるのです。
中央知財研の報告(ご紹介ありがとうございます)は参照しておりませんでしたが、私は、広くとるのはどうかなぁという考えです。折をみてその研究報告を見てみたいと思います。

投稿: ntakei | 2008年3月17日 (月) 02時13分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [弁理士試験]判例案内(15):

» 漢和厳選サイト一覧 [漢和サイト]
漢和のリンク集形式のサイト情報です。の情報収集にお役立てください。 [続きを読む]

受信: 2008年4月 1日 (火) 06時15分

« ぴったんこ | トップページ | ポンのはなし »