[弁理士試験]判例案内(13′)
私の持っている携帯電話には、「iチャネル」という名称で情報が配信されてきます。一行程度のニュースが数件入るだけのものですが、天気予報がいつも表示されて便利なのでそのまま使っています。さらに定常的に入ってくる情報に「占い」というのがありまして、大した意味はないのですが、折角なので、自分の生年月日を入れて自分の占いが表示されるようにしています(ホロスコープなのです)。
▽ ところで、東京を走る中央線では、車内にディスプレイが取り付けられておりまして、ここに宣伝が流れるのですが、そのなかにソニー、プレイステーションの番組があります。例の「サルゲッチュ」キャラクタとともに、これまたホロスコープの占いが流れるのですが、自分の星座のものを見ていると、どうも時折「iチャネル」のものと矛盾しているような…
■ 共同訴訟再び
先週のこの記事(判例案内)で、拒絶査定に対する審決取消訴訟の事件、平成6年(行ツ)83号事件を採り上げましたが、今回はそのリターンマッチです。この事件、共同出願された実用新案登録出願に対し拒絶審決がされたとき、当該審決を取り消すための訴訟は、共同出願人全員でする必要がある。その訴訟は固有必要的共同訴訟だ、と判じたものです。
こちらを紹介しましたところ、同業者様からコメントを頂戴いたしまして(ありがとうございます)、
平成 13年 (行ヒ) 142号
という事件を教えて頂きました。この 142 号事件は、無効審判に対する審決取消訴訟の事件です。これによると、
「商標権の共有者の1人は、共有に係る商標登録の無効審決がされたときは、単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当」
ということになります。
こちらの事件では、出訴は一旦発生した権利の消滅を防止する「保存行為」である、と判断しているわけです。合一確定の要請は、類似必要的共同訴訟と考えておけば十分、ということですね。なお、これらの用語については先週の記事を参照して下さい。
そして先にご紹介した平成6年(行ツ)83号事件との関係については、「事案が相違する」と判じています。要するに、142号事件で、83号事件の判断内容を上書きする(判例変更する)ことはせず、飽くまでも 83 号事件の判断は維持しつつ、なぜか単独での審決取消訴訟を認めています。
そもそも 83 号事件で、拒絶査定の審決取消訴訟が固有必要的共同訴訟とされたのは、審決の合一確定の要請があったからにほかなりません。無効審判でもこの要請に変更のあるはずはなく、かつ審決が取り消されたときの結果は対世的効力を有するわけなので、「事案が相違する」と言われてもその相違が今一つ意味不明です。
■ 田村説
このことについて、同業者様は、田村善之先生の説を紹介してくださいました。この説は、「特許判例ガイド」に記載があるらしいのですが、その要は、無効審判においては、権利者は受動的な立場に置かれているので、権利者側に十分な保護を与えるべき要請があり、そのために共有者の単独による訴訟提起が認められる、ということらしいです。
どうでしょう。私には田村説もどうも納得が行きません。判決自体からは、登録権利の消滅防止が保存行為と見られているようなのですが、それをいえば特許を受ける権利等を維持する行為が保存行為でないと区別する理由がちょっと薄いような気がします。
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単純な判例集ではありませんただ、田村説について「そうかも知れない」と思わせるような事案がありまして、それが平成13年(行ヒ)154号です。こちらは共有特許権に対する異議申立事件で、取消の決定がされ、当該取消決定の取消を求めた訴訟なのですが、こちらについても「類似必要的共同訴訟」である。なんとすれば保存行為と考えられるから、ということです。
■ 少々矛盾してるような、してないような、そんな判決が並んでおりますが、どうして判例変更してくれないのでしょう。そうしてくれればすっきりするのに。
こういうときに難しいのは、この判例に関わるような論文試験が出てきたようなときですね。いっそ、
- 登録権利発生前 → 固有必要的共同訴訟
- 登録権利発生後 → 類似必要的共同訴訟
と整理してしまう手もあります。この場合、理由付けは「後者は保存行為と見られる」というようなことになるのでしょう。
別の手としては、「悩みを書いてみる」という方法もないではありません。
合一確定の要請があり、審決と同様、基本的に固有必要的共同訴訟と解される。しかし無効審判の審決取消訴訟では、他の者の脱落により、発生した権利が消滅してしまうと、権利維持を望む共有者が不測の不利益を被るので、類似必要的共同訴訟と解して共有者の一部による訴訟を認めることが妥当、
というように、内股膏薬というか、玉虫色っぽい書き方をしておくのです。
占いの矛盾している場合ならば、ポジティブに良い方だけ見とく、というような解決策がありそうですが、論文試験では対応が致命的になるのでは…と不安に思ってしまうと、筆が進まず、却ってよくないような…。
いずれにしろ、論文試験は自分がちゃんと問題を理解していることをアピールすることが肝要ですから、断定的な書き方よりも、こうして悩ましく書いておくほうが訴求力があるという場合があるようだ、というのが私が受験していた時期になんとなく言われていたことでした。経験則的な話なのかなぁ、とは思いますし、いまどきどうかなぁとも思いますが、一応、参考まで。
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コメント
特許事務所勤務の受験生です。いつも記事を楽しく拝見しています。
本件ですが、無効審決に対する審決取消訴訟でいうところの「保存行為」とは、
・登録された特許権の消滅に対する保存行為というよりは、
・登録された特許権の保護を受けて特許発明の実施をする権利(あるいは収益する期待権)が消滅することに対する保存行為
と理解しています。そうすると、実施をすること自体は、共有に係る特許権でも73条2項で原則として単独でできるとされていることから、単独で保存行為として無効審決に対する審決取消訴訟を提起できる、と解釈できるかと思います。
投稿: 受験生C | 2008年2月22日 (金) 12時41分
受験生Cさま、コメントありがとうございます。
なるほど実施権の現状を維持することを、本件判決の保存行為と考えられているわけですね。面白い見方かと思います。
しかし老婆心ながらその考え方はあまり論文では出されない方がいいと思います。試験論文ではある程度認められた見解を「答える」ものだからです。例えば、その考え方ですと、専用実施権者も無効審判に対する審決取消訴訟が提起できないといけないじゃないか、とでも言われて採点者の反感を買う可能性もありますし…。
結局、特許権の現状維持行為を保存行為と考えるのならば、確かに拒絶審決の審決取消訴訟では維持するべき特許権はないし、審決が取り消されてしまうと特許を受ける権利は発展的に解消されてしまう蓋然性が高いわけで、現状維持じゃないじゃん、ということなのかも知れません。
私としては、特許を受ける権利の財産権的性格を考えて、せめて「審決取消」の段階では「保存行為」と捉えたい気持ちなんですがね。
投稿: ntakei | 2008年2月25日 (月) 01時41分