情報開示義務のはなし
自宅近くの市を管轄している警察署に一定の届け出をしておくと、何か事件のある度に防犯メールというのを送ってくれるサービスがある。このサービスで、ときどき侵入盗の事件などが案内されると、戸締まりが気になったりする。そういう場合に効果が気になるのは、侵入検知システムである。有効なものがあれば取り付けることも検討に値すると思うのだが…。
この侵入検知システム(Intrusion Detection System)は、略して IDS という。このほか、攻撃機に IDS というのがあるらしいが、wikipedia には、この2つしか、記載がない。
▽ この記事の対象である IDS は、Information Disclosure Statement、先行技術の開示義務のことである。
■ IDS
私どもの業界で IDS というと、特に米国の IDS をいう。もとより審査時の調査負担を軽減することにつながる制度ではあるが、米国の制度だけに、日本からの場合にはいろいろと問題がある。すなわち非英語文献の提出にあたっては、本来全文を英訳して提出するのが好ましいのだが、全文訳させれば翻訳料がかかり、かといって部分訳を提出しておいたとして、残りの訳さなかった部分に、特許性に関わる記述があったとすると、不利な扱いがされ得るのである。
ところで IDS といえば、日本にも類似の制度があって、明細書には知っている文献を書くわけである:
□36条4項2号 その発明に関連する文献公知発明(第29条第1項第3号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
問題なのは、この規定に従って書いた文献の米国への IDS の方法である。一般に、文献として列挙するのは我が国の特許文献が多いわけであるが、IDS のためだけに英訳をするのもコスト的に難しい。ファミリーになっている米国出願があると少しはマシだが、対応する英文が日本文と整合しているとは限らないし、仮に整合していないと、部分訳の場合と同様の問題が発生してしまう。
そこで普通は、要約書の英文訳などに(これには少なくとも特許庁による機械翻訳がある)、簡易な関連性の説明を入れるという程度で済ましているのではないだろうか。
ここで関連性の説明について、簡単といってどれくらいかというと難しいが、本願発明との関連性をあまり逐一説明してしまうと、包袋禁反言(エストッペル)のせいで、その説明がクレイムの限定として効いてしまうので、義務を果たしながらあまり限定的にならない説明を入れていくわけである。少々テクニカルな部分ではある。
■ 改正の予定
http://www.Filewrapper.com/ によると、その米国 IDS の制度、近々改正される蓋然性が高いらしい。昨年 12 月 10 日に、大統領府行政予算局(Office of Managerment and Budget(OMB))が、修正なしで特許商標庁の案を承認したというのである(http://www.reginfo.gov/public/do/eoDetails?rrid=114766)。本来、問題なのはその改正の内容であるが、具体的なテキストはこの月末ごろに公表される予定らしく、未だ入手できる状態にない。
仮に、以前から検討されている IDS 改正と同等とすると、文献が長い、非英語文献である、文献の数が多いといった事情がある場合、現状よりも程度の高い開示を求めるということになりそうである。「程度の高い」というのは曖昧な言い方だが、例えば日本文のような非英語文献についての IDS においては、どのようにクレイムと関連があるかを説明する必要が発生するかも知れないのである。その場合、エストッペルとの関係で不利に扱われないよう、細心の注意を払って IDS に対処しなければならなくなる。
元をただせば翻訳がネックであるわけで、こと IDS だけの問題であれば、米国内の出願人には特段不利益にもならず、例の規則改正のように、訴訟が起きて施行停止---ということもなさそうだ。
あまりキビシイ話になってしまわないよう願うばかりであるが、あまり期待もできず、今後、難しいことになりそうな…嫌な感じである。
■ とりあえずの対策として、仮に米国への出願を考えているのであれば、日本出願の段階から---つまりは明細書に開示文献を記載する段階から--- IDS に気をつかう必要がありそうだが、いずれにしても、しばらくの間は IDS がどのような制度になるか、ちょっと注目しておきたい。
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コメント
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投稿: Amie25Wilkinson | 2011年12月 4日 (日) 13時48分