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2007年12月10日 (月)

だいじな対価のはなし

詳しくはそのうちに書いていこうかと思うんだけれども、とにかく事務所を新規開設するにあたって、開設費用を低廉に抑えることが最重要ということで、加湿器やらコーヒーメーカーなどは、いわゆる新古品を購入してきて使っている。おかげで加湿器もコーヒーメーカーも千円から二千円程度のものである。この新古品を売っていた店には、完全な中古というのもいくつか置いてあって、中には懐かしいものも多かった。特に懐かしく見たものの一つは「ワープロ」である。いまでも需要があるとはあまり思えないが…。

▽ 高校時代、親が買ってきたものはシャープの「書院」というシリーズの一つだった。専ら私の玩具になっていたこの機械、たしか価格は数万円という程度だったと思う。そろそろワープロも安くなりかけだったのだ。

■ 最初期
 ワープロが登場したのは、wikipedia によると1978から79年のことで、シャープと東芝とから相次いで実用化されたものらしい。なお、NHK「プロジェクトX」でも採り上げられたらしいので、これも詳しくは、その「プロジェクトX」[※1]にでも譲るとして、とにかく東芝製のワードプロセッサ JW-10 の特徴は、その「かな漢字変換処理」にあった(ようだ)。
 橋本文法を基礎にしたという、JW-10 の変換処理技法は、
http://museum.ipsj.or.jp/guide/pdf/magazine/IPSJ-MGN431113.pdf
などに詳しいが、開発者が「二層式」と呼ぶ処理方式が特徴である。
 この二層式、第一層では文節変換が行われ、第二層で仮名漢字変換を行うというものであるようで、要するに文節へ切り分けてから仮名漢字変換を行うというものかと思われる。ただし、第一層では橋本文法をちょっと逸脱して「文節」の概念をちょっと拡大している。助詞によって区切られるような単位ではなく、もっと細かな単位で「文節」として区切る方式を採用しているわけである。

[※1]

■ で、このような話を持ち出したのは他でもない。この変換方式の発明者の一人である、天野真家氏(現・湘南工科大教授)が、発明当時に在籍していた東芝を相手に、職務発明の対価について争う訴訟を起こしたからである。
 試みに、「天野真家」氏を発明者に含む特許権を IPDL で検索すると、全部で34件ほどある。該当する権利がどうも検索にかからないと思っていたが、そういえばそうか。1978 年以前ということになると、IPDL でも全文検索の対象にならないのである。
 天野教授によると、消滅時効に係っていない分の対価として、96、97年の二年分に係るものを求めるという。当該2年間での東芝の発明による利益を26億と算定し、天野教授はその10%に寄与したとして、2億6千万円を請求している。

こりゃでかい。

 一時期、判決に表れた寄与率をいろいろ調べて、自主的に研究したことがある。算定式なども集めてはみたが、寄与率など、多くは5%程度が認められる程度で、それも全体からすると大きいと思われるのに、10%とはまた、大きく出てきたものである。
 なお、その自主研究については、その後、次のような本が出たので、もう放り投げた。

■ 例の青色発光ダイオードの事件以降、各所で職務発明制度についての研究が行われた。まぁ、かの判決の途中で表れたものすごい額は、対する企業側の対応が訴訟の面でも「あまりにも…」というものだったのではないかと邪推するわけであるが、それはそれとして…。
 ある研究では、出願時、登録時、自社実施時、ライセンス時という切り分けで、どのような評価が行われるかを調べているものがある。
 基本的には「ウミヤマ」状態である出願・登録時には一律の報奨金を支払い、実施時やライセンスのときには評価額に基づく報奨金を支払うのが一般的である。
 訴訟の内容は当然に私にはわかるべくもないが、ある報道によると、教授は、東芝から23万円程度を受け取っただけで、特許権譲渡などに対する対価を受け取っていないと主張している模様だ。まさかライセンス等のときの報奨金を含めて23万円ということもなかろうが、どういう算定基準だったんだろう。
 なお法上は、平成16年改正前には、使用者の利益額や使用者の貢献によって対価の額を定めることになっていた。その後、平成16年の改正によって、職務発明規定は見直されて、当事者間の契約を尊重して、その契約が不合理なものでなければ契約通りに対価を定めることになっている。

 基本的に従量制にする場合、発明者の寄与率というのを利益に掛けていくわけだ。発明者からすると、その発明がなければ製品はなかった、ということになるのだろうが、企業側(と、発明者以外の関係者)からすると、発明者の製品に対する寄与が5%なんてとんでもない、ということになるのが普通だろう。権利化や製品化にはいろいろな人の手が入るのが一般的だからだ。ただ、今回の場合はものがソフトウエアであることもあり、もしかすると発明者自身がほとんど実装まで行っているとすると、寄与率は結構高いのかも知れない。それでも製品化にあたっての寄与が10%というのは、ちょっと大きすぎの感が否めない。
 また今回も大きな対価額の判決がでるのか、どうか。ちょっと注目したい。

■ しかし、水をさすわけではないが、これで技術者の立場だとかそういったものが向上するとは必ずしも言えないんじゃないかなぁ。と、昔から思っているのだけど。その理由? ここで書くにはちょっと長すぎるなぁ…。

□それにしても、職務発明は、重要なトピックであることに変わりはなく、関連書籍も数多い。

初心者向けには竹田先生の「特許はだれのものか―職務発明の帰属と対価」あたりが、規定整備のためには、「職務発明規程実務ハンドブック」あたりが、それぞれ良いのではないか。

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1989.8.24 毎日新聞「10歳のワープロ社会3」 当時の漢字かなまじりぶん(普通の文書)の入力風景と弓場氏の「ワープロのようなものができるとは,思っていなかったんですが」発言。この発言は,記者が書いているような謙遜などではありません。それでは,第一話で「想像もできなかった」と書かれたSF作家小松左京氏に失礼というものです。 「誰がアクロイドを殺そうと」(そんなことはどうでも良い事だ)とは,斬新な手法で書かれたアガサ・クリスティの「アクロイド殺人事件」への批判論文です。同様..... [続きを読む]

受信: 2007年12月24日 (月) 22時23分

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