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2007年11月 7日 (水)

乱読日記[67]

ジェフ・アボット,「図書館の死体」

原題は、"Do Unto Others"、まぁ、「他者のためにする」というような意味合いだ。邦題はこれと似ても似つかないが、内容を読んでみれば、しっくりくる。

▽ 優秀なミステリーに対して与えられる賞(awards)には、アンソニー賞、アガサ賞、バリー賞、英国推理作家協会のダガー賞、エドガー賞(または MWA 賞)、マカヴィティ賞、ネロ・ウルフ賞など様々なものがある。その 1995 年のマカヴィティ・最優秀処女長編賞と、アガサ・最優秀処女長編賞とをダブル受賞したのが、この「図書館の死体」である(http://www.mysteryreaders.org/macavity.htmlなどを参照)。

■ ストーリー
 アルツハイマーに冒された母親を看病するために、ボストンでの職を捨てて、テキサスの田舎町・ミラボーに帰郷したジョーダン・ポティート。彼は、期せずして町の図書館長の職に座ることになる。蓄えは十分とはいえず、また給与も病気の母親を抱えては十分ではなく、深夜のレストランで働く姉と、その息子(義理の兄は賭博にいれあげて行方不明)とともにつつましく暮らしている。

 ある日、ポティートは、図書館前の広場で誰かが落としていったバットを拾う。誰かが取りに来るまで図書館内で預かることとして、事務所にバットをおいた直後、狂信的なクリスチャンとして町内でも有名なベータ・ハーチャーが、図書館の蔵書について口論をふっかける。議論は白熱して、激しさを増し、やがてベータがポティートを殴り、ポティートの母親を侮辱するに及んで、ポティートは、「殺してやる」と。

 ところがその晩、そのベータが、どういうわけか閉館した後の図書館内で殺害される。しかもポティートが事務所に置いたはずのバットで殴られて。町内の無能な地方検事補は、当然ポティートが第一容疑者であると公言して憚らない。そしてポティートは、自身の潔白のために真実を明らかにしようと乗り出す---。

 物語の舞台となる町内が狭いので、いずれにしろ容疑者の範囲は、町内の誰かに限られる。これを書いてもネタばれにはならないと思うが、薮から棒に、ハナシの途中から突然に真犯人が現れるようなことはない。

 こうしたところは、たしかに容疑者あて推理を楽しませるアガサ・クリスティの十八番にも似ている。それが故のアガサ賞ではないだろうとは思ったのだが、じっさい、アガサ賞の受賞基準の一つには、ストーリーの舞台が限定されていることがあるみたいだ(そればかりではないが)。

■ それにしてもまぁ、だいたいこの手の受賞作というのは、期待外れに終わるんじゃないか---と思いつつ読み始めたのが事務所へ行きがけの電車のなか。ところが当日、帰宅して寝床に入ってから、寝るのも忘れてそのまま読み切ってしまった。即日読み切ったのは久しぶりだった。なるほど、この面白さは群を抜いている。思わず翌日からは同シリーズの第二弾に手を出してしまったほどだ(そちらも既に読み切ってしまった)。
 また、この本は翻訳も素晴らしくいい。名誉のため、翻訳者は、佐藤耕士という方である。まぁ、二冊目の後書きによると、登場人物の一人、ジューンバッグの肩書きは「保安官」ではなく「警察署長」と訳すのが正しかったらしいが。

 ちなみにその2冊目もそれなりに面白かったので(こちらは受賞はないようだけど。そして詳しくは次回の乱読日記用にとっておこうと思うが)、3冊目もどこかで手に入れて読もうと算段しているところである。

 物語に直接の関係はないが、町内では比較的若い独身男性であるポティートに興味を示す女性たちとの淡い恋愛話も、物語にちょうどよく華を添えている。それでいてハナシが不自然になることもなく、むしろストーリーの幅を広げる方向に役立っている。よくできているのである。

 多くの人にお勧めできるミステリーじゃぁないだろうか。

■ さて、アガサ賞
今年の応募締め切りは11月15日までというから、あと一週間ほどである。ちなみに、昨年の最優秀処女長編賞は、

  • CONSIGNED TO DEATH, Jane Cleland, St. Martinユs Press/Minotaur

  • THE CHEF WHO DIED SAUTEING, Honora Finkelstein and Susan Smily, Hilliard & Harris
  • 
FEINT OF ART, Hailey Lind, NAL

  • MURDER ON THE ROCKS, Karen MacInerney, Midnight Ink

  • THE HEAT OF THE MOON, Sandra Parshall, Poisoned Pen Press

(いずれも、まだ邦訳がないらしい)
である。ご参考まで。さぁ、上記の書籍から傾向を探り、受賞候補作を応募される方はお急ぎになったほうが…。

□ 2006 年 アガサ賞、最優秀処女長編賞作品

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