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2007年11月29日 (木)

分野間の壁のはなし

大学時代、物理を専攻していたこともあって、日本物理学会に所属している。もっとも学会自体には、大学院のときに一度発表にでたきりで、その後は当然に発表ネタがあるわけでもなく、単なる幽霊会員に成り下がっている。

▽ そんなことだから気づかずにいたのだけど、先月、日本物理学会から「重要なお知らせ」らしきものが届いて、何だろう、と開けて見ると、なんと、本年分の会費が未納になってるという。

あれぇ??

毎年年初には支払ってた気がしたんだけど(初回請求は年末だが、なんとなく忙しくて逃してしまい、年初に払うことが通例になっていた。まずいまずい)。来年分は初回請求期限に間に合わそう。それにしても、会誌が送られてきていないことに気づかないほどだから、退会してしまったほうがいいのかなぁ。

■ パテント誌
 日本物理学会の年会費が、1万1千円であるのに比べると、日本弁理士会の月会費2万円は相当な高額である。もっとも、活動内容が大分に違うのだから、比較の対象とするほうがどうかしてる。じっさい、日本弁理士会の会費は実際の弁理士会の活動に触れてみれば、そうは高くないと思う。それだけ陰の活動があるということである。多くは触れないが。

 その日本弁理士会の会員になると、毎月送られてくる冊子が大雑把にわけて2つある。ひとつはパテント誌であり、もうひとつは JPAA ジャーナルというものだ。後者は、各委員会や会長会などからの報告、連絡事項などが掲載される。PCTニュースなども含まれている。かなり重要な情報が入っている冊子だ。
 一方のパテント誌は、主として会員の書いた論説だとかいったものを掲載している。今月(Vol. 60, 11月号)の特集は「最近の米国判例」というもので、KSR 事件による進歩性判断の影響や、ドタキャン状態にある規則改正の概要、そしてマイクロソフト v. AT&Tの最高裁判決の訳文が掲載されている。そのほか「傘理論」(雨傘理論とも)復活への期待などと題した興味深い記事もある。こちらは特許庁からの投稿。未だ読んでないんだけど。

■ 冒頭の KSR 事件の記事については、医薬関係の特許が事例に挙がっていて、医薬関係への影響が主として論点になっている。ただ、一般論的な考察も含まれていないわけではなく、KSR 判決にいわゆる、Predictable Result(予測可能な効果)の反証として、発明のすぐれた効果を主張すべきだという。これを論文の著者らは、Secondary Consideration の一種だと述べている。

■ 日本における過去の判決を遡ってみると、つい最近まで、効果の主張というのが有効だった。これは「だった」という過去形が正しい。最近では、主要な観点が、構成上の相違に変わってきており、効果主張というのは確かに Secondary Consideration の範疇に落ちている。
 ただ、効果主張がまったく意味をなさないかというと、そうとは限らず、クレイムされた構成から生じる効果であれば、それはそれなりに参酌されるわけだ。一般的にクレイムの記載に基づかずに自由に効果を主張するから退けられるというのはよくあるはなし。いまだに比較的自由に効果主張を書いている人も多いような気もするが…。

 で(話を戻すと)、このパテント誌の論文は医薬分野の話だから特に、効果の主張が奏効するのだろうと思う。化学物質に関する発明は、その物質の奏する効果が重要視される分野の一つなのである。
 というのは、化学物質ではベンゼン環につく官能基がちょっと変わっただけで、予測不可能な効能の相違を生むからである。だからといって、官能基を特定しないクレイムから当該効果を主張してもそれはダメだけれども。

 一方で、機械だとか電気といった分野では、効果主張が奏効しないケースが多い。なにせ例えば機械などでは、ある機構要素の生み出す効果というのは見やすい話だからだ。例えば自動車のクラッチなどで、単板のクラッチよりも多板のクラッチのほうが伝達効率が高そうなのは見やすい話であろう。
 電気分野でも殆ど同じで、特定の回路構成から生じる効果は比較的予測が容易であるから、「予測不能な顕著な効果」といっても説得力が乏しくなる。通常期待される効果とは逆の効果があるとかそういうことでもあれば別だろうけど。

 そういう意味で、もっとも効果主張の有効性が薄そうなのは、ソフトウエア分野であろう。もとより「こういう効果を得よう」と考えてソフトウエアを設計・実装するわけで、予測不能もなにもないのである。ソフトウエアの進歩性主張にはそれ特有の考え方があるわけだ。
 きっとバイオ分野も相当特殊そうであるけれども、この分野ばかりは私の範疇の明らかに外なので、多くを語ることができない。

■ 要するに、有効性の高い進歩性の主張は、技術分野ごとにかなり異なっているのが現状だと思う。それは特許庁の審査部ごとの区別というよりは、発明の技術分野自体による相違であって、審査官の方は、どうも発明の属する分野を意識して進歩性に対する考え方を切り替えているように感じられることもある。
 さいきん、進歩性についての実務的な問題に入るとき、どうも分野別審査基準という昔の基準の作り方がとても合理的だったのではないかと思えてならない。なんで統一したものかなぁ。

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