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2007年11月22日 (木)

預けるはなし

つい先頃まで、金曜日恒例の[弁理士試験]記事では、条約案内と題して、パリ条約からPCTまでを眺めていた。実のところ、アクセス履歴その他の状況から、あまりにもニーズがなさそうなのでPCTなどは途中からそそくさと打ち切りモードに入ってしまった。ちょっと心残り。
 とはいえ、現状では論文試験に条約があるわけでなし、短答式レベルの問題としては一応条文に沿ったあたりが理解できていれば大丈夫だろうから、あれ以上に細々やっていても意味はなかったろうとは思うんだ。

▽ ただ、私が受験生だった頃、多枝選択式の問題としては、条約には少なくとも一つ、奇問が含まれているのが通例だった。その一つはいまでも記憶の片隅に残ってる。

ニース協定の公定訳文の一は、アラビア語で作成されている。

マルか、バツか。「そんなこと知るか」が答えじゃないだろうか、と当時は思ったものである。

□橋本先生の「特許関係条約」4版:

■ 知的財産権をめぐる様々な条約
 だだっ広く、知的財産権をめぐる条約とすると、特許だけでもパリ、PCT、TRIPs、ブタペストなどというのがあり、意匠独特なものとしてはロカルノ協定、商標独特なものではニース協定、TLT、マドリッド・プロトコール…とあって、試験準備としては到底網羅しきれない。しかし実務的には例えばブタペスト条約あたりは(特別な分野においては)ひどく重要なのであって、その手続がわからないようではどうにもならない。

■ 微生物寄託
 ほとんどの発明については、追試実験が可能であるけれども、生き物相手の場合、追試・再現性の研究が難しいという場合がある。しかし例えば、往年の「黄桃育種事件(平成10年(行ツ)19号)」などに、

発明の反復可能性は、特許出願当時にあれば足りるから、その後親品種である晩黄桃が所在不明になったことは、右判断を左右するものではない。

とあるように、少なくとも特許出願時には発明の反復可能性がないといけない。そこで、微生物にからむ発明に関しては、その微生物の入手可能性を担保するために、出願前に所定の寄託機関に微生物を寄託せねばならぬ。追試したい人は、寄託機関から分譲を受けるわけだ。

 私じしんは微生物発明を扱った経験がないので、多少聞きかじりなのであるが(誤っていたら教えて欲しいが)、この寄託には2つの方法があるようだ。ひとつは、特許庁長官が指定する機関へ微生物を寄託する方法(国内出願用ということだろう)。いまひとつは、ブタペスト条約に基づく国際寄託機関へ寄託する方法である。後者は国際的条約に基づく方法なので、この国際寄託機関が発行する預かり証(受託証)があれば、ブタペスト条約に加盟する国への出願に使える。前者はたぶん日本国出願だけのことである。
 この寄託先であるが、独立行政法人 製品評価技術基盤機構や産業技術総合研究所というところが寄託を受け付けてくれるみたいである。この寄託、実際には寄託が行われた後、生存確認の試験を経る。存外キビシイ試験みたいだ。そして、生存した菌等が寄託されたと判断できる場合に、寄託先から受託証というのが届く。この受託証を添えて特許願を出すのである。

■ 微生物といってもミジンコのように比較的無害なものばかりではない(まてよ、ミジンコにも有害なのがあるか?)。それこそ病原となり得るものもある。仮にも漏れ出たらたいへんなので、寄託機関はそれぞれの設備に応じて、預かることのできるものとそうでないものとを区別している。設備が足りなければ危険なものは預からない仕組みである。従って危険度の高い微生物については、寄託しようとしても、寄託依頼先によっては断られる場合がある。
 このような微生物の怖さについては、もうすこし客観的に定められた表がある。それによると、微生物に関するBS(Bio Safety)レベルは、4段階に分けられる。

 レベル1は、「ヒトあるいは動物に疾病を起こす見込みのないもの」で、例としてはパン酵母などがある。もっともパン酵母みたいな一般的でどこでも手に入るものは寄託の必要性がない。すなわち、

□特許法施行規則27条の2(冒頭一部抄) 微生物に係る発明について特許出願をしようとする者は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその微生物を容易に入手することができる場合を除き、…

寄託してその番号を教えよ、という通りである。

 レベル2は、「ヒトあるいは動物に感染すると疾病を起こし得る」が、だた、重大な健康被害を起こす見込みがないものなのだそうで、ピロリ菌、黄色ブドウ球菌などが挙げられている。

 さらにレベル3、「ヒトあるいは動物に感染すると重篤な疾病を引き起こす」が、感染者から接触者への伝染可能性が低いものをいうという。ブルセラ菌、炭疽菌などがあたる。

 レベル4.これはかなり危険な部類で「エボラウィルス」、「黄熱ウィルス」などがあたる。
 こうしたレベルが、実験設備などでいわゆるBSL(Bio Safety Level)と相関しているのかどうか、それはちょっとわからなかった。
 仮にBSLと関連しているとすると、国内にはBSL4施設はないと思うので、レベル4を預かる場所は海外しかないわけだ。

■ で、今回問題になったのは産業技術総合研究所というところが、当時レベル1の生物までしか預かることができなかった(そのレベルの施設しかなかった)平成13年ごろに、レベル2の菌15株と、レベル3の菌3株を預かってしまっていた、というのである。
 しかも誤って取り扱った職員に対して、その事実を知らせていなかったという、当時の事情というのはあるんだろうが、これは後から考えるといかにもまずい。まぁ、そんな次第で、近隣住民などへの説明をしているのである(http://www.aist.go.jp/aist_j/announce/au2007/au1113_2/sheet01.pdf)。なお現在、同機関にはレベル2まで寄託できる。
 資料によると、レベル3とされていたものは、結局レベル1の菌であることが後から判明しました、ということになってるんだけど、この発表から推論するに、原寄託申請書には「レベル3」とあったんだけど、実はそんなに危ない菌じゃなかったという、そんなことなんだろうか。

 まぁ今回は結果オーライとなった(と信じていいんだと思う)わけだけど、ちょっと怖い。菌が漏れたらただ事では済まないから、寄託機関側もちゃんと対応して欲しいものである。

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