« 特許事務所の環境対策? | トップページ | 乱読日記[64] »

2007年10月16日 (火)

オープンな、はなし

大学時代、それを何て読むのか、ということについて、講師のH先生はこういった。

彼のサイトで彼自身がしゃべってるオーディオデータがあって、再生してみたらね、

「りぬーくす」

って聞こえたよ。

 ただ、wikipedia の記載なんかをみると、本人(ライナス・トーバルズ)は何と呼ばれるかについてあまり気にしていないようで、リナックスでも構わないわけである。

▽ linux は、オープン・ソースのソフトウエアとして広く成功したソフトウエアの一つである。我が国の政府も、Microsoft 一社依存の体質を危機とする考え方があるにはあって、linux などで代替を作っていく例も見受けられる。
 さて、linux じたいは、カーネルというOSの中核部分でしかないので、これを利用可能にするには、他にいろいろのソフトウエアが必要になる。そういうソフトウエア一式をひっくるめて配付する人たちがある。それぞれに独自性を盛り込んだソフトウエア一式を付しているのであるが、そのうちの大手というと、Red Hat Enterprise と、Novell であろうか。

■ 訴訟
 その、Red Hat Enterprise と、Novell に対して、特許権侵害の訴訟が提起されたらしい。CNET のニュースで知ったのである:
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20358738,00.htm

当該ニュースには、訴状 PDF ファイルへのリンクがついている。訴状によると、対象となっている権利は、

  • 5,072,412('412特許)のクレイム1,
  • 5,533,183('183特許)のクレイム3,
  • 5,394,521('521特許)のクレイム1

がある。いずれもワークスペースに関係する特許権らしい。

 ワークスペースというのは、仮想的に複数のデスクトップ環境を用意し、それぞれを切り替えてディスプレイに表示させることで、作業効率を向上させようというものである。例えば、ワードプロセッサを開いているワークスペースと、メールソフトを開いているワークスペースとがあるとして、それぞれを切り替えるようにすれば、ウィンドウを開いたり/閉じたりという操作をせずに、ワープロからメールへ、メールからワープロへと、素早く移ることができるわけだ。

■ ’412特許

 訴状で筆頭にあがっている’412特許のクレイム1をみてみた。なお、同特許には、62のクレイムが含まれ、そのうち独立項が9もある。
 クレイム1は、こうである:

1. A system comprising:
a display;
first and second workspace data structures relating respectively to first and second workspaces that can be presented on the display; each of the first and second workspaces including a respective set of display objects; each of the display objects being perceptible as a distinct, coherent set of display features; the display objects of each respective set being perceptible as having spatial positions relative to each other when the respective workspace is presented on the display;
display object means for generating first and second display objects; the first workspace data structure being linked to the display object means so that the first display object is in the respective set of display objects of the first workspace; the second workspace data structure being linked to the display object means so that the second display object is in the respective set of display objects of the second workspace; and
control means for accessing the first workspace data structure to cause the display to present the first workspace including the first display object; the control means further being for accessing the second workspace data structure to cause the display to present the second workspace including the second display object; the display object means generating the first and second display objects so that the second display object is perceptible as the same tool as the first display object when the second workspace is presented after the first workspace.

 物凄い英文だと思う。仮に訳してみると、こんな風か。明細書をみていないので、各語の技術的意義がちゃんとしておらず、あまり良い訳ではないと自認するが…

1.ディスプレイと、
 前記ディスプレイに表示され得る第1、及び第2ワークスペースにそれぞれ関係する第1、及び第2のワークスペースデータ構造であって、第1、第2のワークスペースはそれぞれ対応するディスプレイ・オブジェクトのセットを含み、各ディスプレイ・オブジェクトは、識別可能であり、一貫したディスプレイ特性のセットであり、各セットのディスプレイ・オブジェクトは、対応するワークスペースが前記ディスプレイに表示されるときに、互いに相対的な位置を占めて視認される第1、及び第2のワークスペースデータ構造と、
 ディスプレイ・オブジェクト手段であって、第1、及び第2のディスプレイ・オブジェクトを生成し、前記第1ワークスペースデータ構造が当該ディスプレイ・オブジェクト手段にリンクされると、第1ディスプレイ・オブジェクトが第1ワークスペースのディスプレイ・オブジェクトのうち対応するセットに含まれることとなり、前記第2ワークスペースデータ構造が当該ディスプレイ・オブジェクト手段にリンクされると、第2ディスプレイ・オブジェクトが第2ワークスペースのディスプレイ・オブジェクトのうち対応するセットに含まれることとなるディスプレイ・オブジェクト手段と、
 制御手段であって、第1ワークスペースデータ構造にアクセスして前記第1ディスプレイオブジェクトを含む第1ワークスペースを前記ディスプレイに表示させ、また、第2ワークスペースデータ構造にアクセスして前記第2ディスプレイオブジェクトを含む第2ワークスペースを前記ディスプレイに表示させ、前記ディスプレイ・オブジェクト手段が、第1及び第2ディスプレイ・オブジェクトを生成して、第1ワークスペースに代えて第2ワークスペースが表示されたときに、前記第2ディスプレイ・オブジェクトが前記第1ディスプレイ・オブジェクトと同等のツールであると視認される制御手段と、
 を含むシステム。

 いろいろ読みにくい上に、

「ディスプレイと、」

というのが、どうにも日本の実務的にはズッコケるところだと思うが、それはとりあえず措いておくとして、主要部を検討してみよう。
 どうやら、ディスプレイ・オブジェクトというのが、インタフェース部品というか、ウィンドウだのアイコンだのの総称みたいだ。そうすると、この権利を善解すれば、インタフェース部品の表示位置を規定した「ワークスペースデータ構造」というのが複数あって、いずれかがディスプレイオブジェクト手段にリンクされると、そのリンクされたデータ構造内のインタフェース部品が表示される。で、制御手段というのがそれを切り替えるのだというのだろう。
 ツッコミどころはいろいろあって、例えば

...a respective set of display objects; each of the display objects being perceptible as a distinct, coherent set of display features...

というところ。この coherent set of display features というのがわからない。明細書の方を参照すれば意味が知れるかもしれないが、文言通りだと、配色だとかいった特性が共通しているというような意味になるんだろうか。この限定にはどんな意味があるんだろう。
 それに、善解した結果からすると、どうも obviousness の観点からどうだろうと思う。issue date が、1991 年 12 月というから、当時の GUI を考えると、Macintosh であれば System7 だ。発明日あたりまで遡るとしても、1989 年とかか?
 たしか Mac の system 6 環境で、ディスプレイを複数つないだときに、どっちにどのデスクトップを表示するとか出来たんじゃなかったろうか。いわば仮想デスクトップみたいなものは、他にも例があったような気がする。

■ 背水の陣?
 そして本件を複雑にしているのが、侵害品がオープンソースであることだ。ライセンスの体系は主に GPL のようだが、GPL では、例えば Red hat が持つ権利を、開発者に与えるよう求められるらしい。仮に Red hat が、本件特許権の実施権者の立場にたつとすれば、開発者も実施権者にならなければならない※。これは事実上、オープンソースとしての開発を困難にすることになる。まぁ、仮想デスクトップ部分だけ切り離してしまえばいいのだろうが、それでも Red hat による侵害の事実は残ってしまう。
 一方、デスクトップ切替の機能を維持しながら、設計変更するとしてもちょっと難しいように思う。権利を無効にしていくのが攻法ではないだろうか。

※サブライセンスを供与するなどの必要があるのではないかと思うが、いまはGPL を参照していないので、よくわからない。

■ 証拠収集の壁
 もっとも無効にするといっても容易じゃない。 1991 年より以前の古い情報なんて、そうそう入手できるものではないし、期待通りの内容がちゃんと書いてあるなんてことも稀である。コンピュータ関係の技術の場合は、古いビンテージ品のハードウェアを現役で動作させ、当時の技術を知るという術がないではないが、完動品の古いハードを入手するのもホネである。要するに、本件を無効にする証拠を集めるのも案外大変そうである。
 いまならば、web archive みたいなサイトがあるので、例えばアップルのサイトならば、1996 年までは遡れる(当時は、Macintosh Powerbook 1400 シリーズだったんだな。技術的には Rhapsody が入っていて、web objects なんかが広告されてる。ちょっと懐かしい)。
 だが問題は 1991 年以前にある。もうちょっと古いのだ。技術系雑誌あたりから virtual desktop の記事が見つけ出せるものだろうか。それとも先行技術がファイルされているだろうか。
 とはいえ、オープンソース団体のことだ、無効証拠の収集力が違うような気もする。今後の Red hat らの対応が注目されるところだ。

■ 黒い噂
 ところでCNETの記事には続きがある。この訴訟には Microsoft が噛んでいるのではないかという憶測である。それを示唆する一応の証明として Microsoft からの人事の異動があったことを指摘している。なるほど、Microsoft とすれば、この訴訟を通じて linux 陣営に泥を塗れれば、立場を多少でも安泰にできるということだろうか。憶測が成り立つ道理ではある。しかし、これはタダの憶測に過ぎない。
 まぁ仮に真実であるにせよ、そうでないにせよ、Windows Vista は大層使いづらいので、Microsoft には早急になんとかして頂きたいなぁ。

|

« 特許事務所の環境対策? | トップページ | 乱読日記[64] »

コメント

本家UNIX系列のシステム関連から、証拠がいくらでも出てくるような気がするのですが。

ワークステーションでは、随分と昔から、同一ディスプレイ上で各タスクの画面(≒ワークスペース?)切り替えが出来るようになっていた気が。

また、複数のユーザーとしてログインしておき、各ユーザー画面を切り替えて利用することも出来ますから、この各ユーザー画面がワークスペースに相当するともみなせます。

オブジェクト云々の表示制御周りの構成も、X Window Systemが1980年代に登場しているのでアウトじゃないでしょうか。

さらに、Macのご先祖様のAltoのようなウィンドウシステムも、この程度のクレームだと場合によっては引っ掛かるような気もします。

そこら辺なら、技術資料や仕様書・説明書等も残っているでしょうし、実機が現存しているので、証拠収集は難しくないと思います。特にUNIX関連企業・団体にとって、この訴訟は他人事ではないでしょうから、協力してもらい易いと思います。

投稿: とおる | 2007年10月16日 (火) 06時27分

いつもコメントありがとうございます。

alto にこの機能があったかどうか記憶が定かでないのですが、たしか sun3 のころの sun view に、似た機能があったとは記憶しています。そのあたりに証拠がでてくると面白いかな、とは思います。もっとも、あと2つほど侵害が主張されているクレイムがありますし、そっちの方が厄介なのかも。意外に、ライセンス契約が取れているみたいなのです。

投稿: ntakei | 2007年10月17日 (水) 05時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/165428/16774222

この記事へのトラックバック一覧です: オープンな、はなし:

« 特許事務所の環境対策? | トップページ | 乱読日記[64] »