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2007年10月22日 (月)

たった一つのアクションのはなし

弁理士試験では、権利行使を受けた側の対策として、無効審判の請求を挙げるのが普通だ。でも、いつぞやも書いたけれども、日本における無効審判は対世的効力を有する---つまり、A社が金をかけてX社の特許権を無効にすると、コストを負担していないB社、C社…という、他社も恩恵にあずかることができる。だから無効審判の請求というのは、どのクレイムを無効にしたいのかとか、それだけの労力をかける意味があるかどうか、さらには無効にしたときの業界のパワーバランスはどうか、こういうことを考えに入れないと実務的にはよろしくない。

▽ これも昔いた事務所でのことだ。あるとき、米国実務に詳しい某氏が、所長級弁理士と話し合いをしているのを漏れ聞いた。某氏、

「だから、無効審判でも起こされたら…」

そしたら、所長級弁理士、これを咎めて、

「あ? どこの国の話してんの?」

 米国には無効審判制度はない。ただ、再審査という制度はある。

■ そのクレイム
 ここでも書籍紹介に使わせて貰っているアマゾン。一昔前ならば高額で取引されていた洋書が、いまでは現地と殆ど変わらない額で買える。ひとつ脱線していうが、そのむかし、例えば理学書のニーズのあまりないやつなどを日本で買うときには一苦労したものである。
 一つには、大学出入りの書籍紹介業者に依頼する方法がある。この種の業者は、外国で目ぼしいと思う本を見つけると、それを調達してきて大学にサンプルとしておいていく。大学側ではそれを見て、必要と思えば発注する。しばらくすると業者はサンプルを引き取っていく。また別の大学へサンプルとして置きに行くのだろう。この業者に依頼する場合、業者の仲介手数料が多少かかり、また、必ず買ってきてくれるとは限らない(入手できない場合がある)。
 一方、書店を仲介にする方法もある。この場合、版元で切れているなどのよほどの事情がない限り大概は入手できる。しかし、書店仲介では一冊頼んでも、2,3週間ほどを要し、現地価格の2,3倍の額になることもあった。
 それが、アマゾンならば、版元で切れている場合ですら、マーケットプレイス出店している店に在庫があれば、現地価格で普通に取引できる。理学書などの専門書でも種類・在庫ともに問題はないから、中身を精査して買いたいというのでなければ、これはもう、至便というほかない。

 そのアマゾンが有している有名な権利、それが「ワンクリック特許(5,960,411)」である。
 第1クレイムは次の通り。

1. A method of placing an order for an item comprising:
     under control of a client system,
     displaying information identifying the item; and
     in response to only a single action being performed, sending a request to order the item along with an identifier of a purchaser of the item to a server system;
     under control of a single-action ordering component of the server system,
     receiving the request;
     retrieving additional information previously stored for the purchaser identified by the identifier in the received request; and
     generating an order to purchase the requested item for the purchaser identified by the identifier in the received request using the retrieved additional information; and
     fulfilling the generated order to complete purchase of the item
     whereby the item is ordered without using a shopping cart ordering model.

私訳(あえて直訳的に):

1.アイテムのオーダーを設定する方法であって、
 クライアントシステムの制御の下に、
 アイテムを識別する情報を表示し、
 ただ一度のアクションであるシングルアクションの実行に応答して、当該アイテムの購入者を識別する情報とともにアイテムのオーダー要求をサーバシステムへ送信し、
 サーバシステムのシングルアクション注文コンポーネントの制御の下、
 受信した要求に含まれる識別情報によって識別される購入者について、事前に記録していた追加的情報を取得し、
 当該取得した追加的情報を用いて、受信した要求に含まれる識別情報によって識別される購入者の要求したアイテム購入のオーダーを生成し、
 オーダーを追完してアイテムの購入を実行する。
 ここに、アイテムの注文には、ショッピングカート注文モデルを用いない。

 日本での出願の場合は、例えば最後の whereby 以下は、

「ショッピングカート注文モデルを用いることなく、アイテムのオーダーを設定する方法であって、…」

のようにするのが普通かも知れないが、ここでは敢えて直訳風にしてみた。
 技術的なミソとしては、後で購入するときに必要になる情報(発送先とか請求先、注文者の氏名など)を購入手続の前に予め記録しておき、注文時には、クライアントから「購入対象と、購入者識別情報」とだけを受け取って、あとは記録している情報を使って注文を受け付けるという部分だろう。注文のときには必要最低限の情報しか受け入れなくて済むようにするっていう話。ファイルされたのが 1997 年の9月。うーん、新規/進歩性としては微妙な線だなぁ。

■ さて、それで、Peter Calveley というモーション俳優(モーションキャプチャーの演技をする人かなぁ?)が、2007年10月16日に、彼の blog (http://igdmlgd.blogspot.com/2007/10/amazon-one-click-patent-rejected-by-us.html)に書いたところによると、彼の再審査請求の結果、USPTO は、上記アマゾンの全26クレイムの権利のうち、クレイム1−5,11−26を拒絶したという。
 再審査の請求時に使った引例というのが、同 blog の 2005年11月3日の記事にあるようだ。「2種類の」といっていて、ひと種類目は特許文献、他の種類というのは非特許文献みたいだ。特許文献のほうは、USP 5,729,594 というもの。これ、

BUYボタンを押すと、自動的にダウンロードがはじまるっていう記述がある

っていうんだけど、ちょっと技術的には相違がないだろうか。まぁ、後からも引例を追加しているみたいだけど、何が効いた?

■ 残っている6−10のクレイム群
には、独立項が2つある(クレイム6,クレイム9)。
 6は、クライアントシステムに関するもの。

 6. A client system for ordering an item comprising:
     an identifier that identifies a customer;
     a display component for displaying information identifying the item;
     a single-action ordering component that in response to performance of only a single action, sends a request to a server system to order the identified item, the request including the identifier so that the server system can locate additional information needed to complete the order and so that the server system can fulfill the generated order to complete purchase of the item; and
     a shopping cart ordering component that in response to performance of an add-to-shopping-cart action, sends a request to the server system to add the item to a shopping cart.

 このクレイム6とクレイム1との相違といったら(方法、システムのカテゴリ相違は別として)、たぶん、最後のショッピングカートの有無の相違だけだ。このクレイムが残っているんじゃぁ、アマゾンは、あまり困らないんじゃないかなぁ?
 クレイム9は、サーバシステム。

 9. A server system for generating an order comprising:
     a shopping cart ordering component; and
     a single-action ordering component including:
     a data storage medium storing information for a plurality of users;
     a receiving component for receiving requests to order an item, a request including an indication of one of the plurality of users, the request being sent in response to only a single action being performed; and
     an order placement component that retrieves from the data storage medium information for the indicated user and that uses the retrieved information to place an order for the indicated user for the item; and
     an order fulfillment component that completes a purchase of the item in accordance with the order placed by the single-action ordering component.

 こちらもショッピングカートの話がある。どうやら、ショッピングカートと、ワンクリックとの組み合わせを有効としたんじゃないかと思うが、USPTO の判断を読んでいないので、これは憶測。だけれども、この組み合わせの書き方では単なる aggregation のような気がするんだけど。うーん、読み方による?

■ ところで
、この Peter Calveley 氏がいったいナゼ、アマゾン相手に、こんな再審査をやってるかというと、ある通信社の記事によれば、

注文した本がなかなか届かなかったから

という理由だという。本人の blog でそんな記載、あったかなぁ。本当だとすると、信頼を失うってことは怖いことだねぇ。いやぁ、私も気をつけようっと。

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コメント

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投稿: Claudevet | 2019年3月22日 (金) 02時29分

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