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2007年10月25日 (木)

浸透するKSR

80年代、「マイコン」というと、「my computer」のことでもあった。多くは8ビットマイコンであって、ザイログのZ80を筆頭に、インテルの8080、モトローラの6800や6809といったマイクロプロセッサが主流に使われていた。あっと。アップルなんかが使っていた、6502という有名どころもあったか。

▽ 昨今では、「マイコン」というのは、micro computer のことになり、どちらかというと組み込み用途というか、家電製品の制御など、機器制御に広く使われているものになる。そのうちでも大手であるルネサス(Renesas)テクノロジは、日立製作所と三菱電機との半導体部門を事業統合して作られた企業で、一部の分野では世界的なトップシェアを誇る企業である。H8などのチップを扱っているといえば、ピンとくる人もいらっしゃるだろうか(個人だと一部のマニアだけだろうか)。

■ ルネサスの勝訴
 H8というと、開発者は、Macintosh のプログラムでもやって喰ってこうかと思っていた矢先に、開発の話がでて、辞められなくなったとかいう逸話をどこかで読んだ。そうとうむかしの日経エレクトロニクスだったかなぁ?

 いま、この会社が一部ニュースで話題になっているのは、特許侵害訴訟で米国(CAFC)で訴えられていたのに、勝訴したからである(10月23日にプレスリリース)。勝訴といっても、相手側権利が一方的に潰れたのであって、非侵害が当然になったということである。相手方権利は、マルチプレクサというデジタル回路に関するものである。

 デジタル回路におけるマルチプレクサは、セレクタ、とも呼ばれていて、N個の入力のうち一つを、制御信号に基づいて選択的に出力するものである。比較的基本的な電子回路の一つである。

 こんかいのCAFCの判決(http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/06-1192.pdf)を参照すると、対象権利に対して、IEEE のプロシーディングスだとか、一般的な教科書の類いのような非特許文献が引用されて、組み合わせ容易の判断がされている。
 基本的な部分は IEEE の文献に開示があったようだ。しかしながら、クレイムでは、マルチプレクサが、TGM(トランスミッション・ゲート・マルチプレクサ)に限定されている。このTGMの利用について IEEE の文献には開示がなかった
 しかしながら、マルチプレクサにおいて、トランスミッション・ゲートを使うのは、ごく一般的な話なのである。トランスミッション・ゲートというのは、p型MOS(Metal -Oxide Semiconductor )と、n型MOSとを並列につないだ回路である。
 詳しい動作については、ちょっと google で調べるだけで優秀な解説をしているサイトがいっぱいあるようなので、ここでの説明は省くことにする。

 判決では、案の定(というか当然に)、KSR 判決を引用して、「当業者にとって当然」というような論調で組み合わせ容易と判断している。今回のケースでは、その結論は是認できそうに思うが、やっぱり米国での進歩性がちょっぴり厳しくなっている印象は否めない。

■ 翻って、最近の我が国の進歩性判決について、ここのところ集中的に読む機会に「恵まれ」た。結果的にいって、残念ながら明細書の書き方に不備があるために、進歩性の主張ができなくなっているケースが多いみたいだ。
 そういう意味では、案件が重要であればあるほど、事前の調査というのにもっと力を入れるのが良いということだ。そうして見つかった先行例との差別化を主張するのに役立つ文言をクレイムに入れていく。または入れられるように準備をしておく。そういうのがないから進歩性が否定されちゃうからである。
 いや、こういう「方針」も、書き出してしまえば当たり前のことだけれども、ちゃんとした事前調査というのは結構大変なものだし、第一、調査の時点から1年半程度前までの誰かさんの出願には公開されていないものも多いのだから、万全を尽くすといっても無理がある。
 というわけで、せめて発明のポイントをちゃんと書く、というこれまたごく当たり前のことをやっていく能力が問われてくる。

 いくつか面白そうな判決については、いずれ、ここでも採り上げてみたいと思う。

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