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2007年9月14日 (金)

[弁理士試験]条約案内(10)

我が国では古くから、業務上の信用という無形の財産を「ノレン」という有形物に化体させてきました。それゆえ、円満な形で独立して元の屋号を引き継ぐことを「ノレンワケ」といったりしたわけです。ノレンワケでは師弟関係というか、従業員の中でコレという人間を見つけ出して、ノレンを受け継がせるわけなので、その人格がよく知れるほどの時間をかけなければ成り立たない話。

▽ 一方で、近年では、株主(オーナー)から経営者が株式を買い取って、実質のオーナー会社をつくることを、MBO(マネージング・バイ・アウト)と言ったりします。オーナーが交代するわけだけど、この場合も屋号がそのままのことが多い。
 古くは考えられなかったようなMBO等の制度が、海外から徐々に浸透してきている近年。我が国では人格的要素によって信用の維持が担保されていたのが、近年では人格的要素の側面は薄れているわけです。

■ 2つの考え方
 このように、業務を実際に遂行している部門と商標というものを密接な関係と位置づけて、その営業の「人格」というかそこに信用の根っこがあるとして、

商標だけを移転するなんてありえねぇ、

という考え方がまずあります。
 一方で、業務遂行部門と商標との関係は希薄、またはナイものと考えて、

営業と関係させるなんて信じらんない

という考え方もあるわけです。

 前者はどちらかというと公衆の利益を優先した考え方であると言われます。今まで通りの営業部隊がついてるなら、同じ商標で業務を続けてても、従前の信用と同等の仕事をするだろう、というわけです。
 一方、後者は現実的に考えて、商標の財産的価値に重きをおいた考え方であると言われます。もっとも、こっちだって、重大な財産的価値のあるものをみすみす傷つけるはずがあるか、と、考えれば、公衆の利益を全く無視したものだともいえないわけですね。

 パリ条約のロンドン改正条約の会議では、このそれぞれの考え方をとる同盟国間で、喧々諤々の議論が行われたようです。その結果、どっちつかずの折衷的規定が置かれるに至りました。

□6条の4(1)
(1)商標の譲渡が,同盟国の法令により,その商標が属する企業又は営業の移転と同時に行われるときにのみ有効とされている場合において,商標の譲渡が有効と認められるためには,譲渡された商標を付した商品を当該同盟国において製造し又は販売する排他的権利とともに,企業又は営業の構成部分であつて当該同盟国に存在するものを譲受人に移転すれば足りる。

 この規定の読み方ですが、「当該同盟国」という部分に注目して下さい。

企業又は営業の構成部分であつて当該同盟国に存在するものを譲受人に移転すれば足りる

 そうです。他国に存在するものの移転までは要求できないわけですね。
 我が国では商標は財産権的性格を与えられて自由に譲渡されているところですから、この規定はあまり関係がないことになります。
 と、いうわけで、この規定についてはこれでお終い。

■ テルケルマーク
 「世界一市場化」という言葉をご存知ですか。
 文字通り商品の流通するマーケットが世界的に一つになっていくことをいうわけです。パリ条約では、基本的に商標もまた、内国民待遇の原則で保護していくわけです。そうするとパリ条約というのは属地主義を是認した上での調整法規なわけですから、各国での商標の形成観念は区々になります。ここで商標独立の原則を徹底しすぎた場合、ある国(本国と呼びましょう)で登録されている商標が、そのままの状態で他国で保護されないことも生じます。そうすると、世界一市場化が促進される現代において、流通秩序が維持できないことになってしまう…と、こんなのがテルケルマークを設けた趣旨になります。

□6条の5A(1)第一文
本国において正規に登録された商標は,この条で特に規定する場合を除くほか,他の同盟国においても,そのままその登録を認められかつ保護される。

 本国の定義は、前も見たように思いますが、営業所→住所→国籍の優先順位で決定されます。ショッピングはできないわけです。
 「そのまま(テルケル)」というのは、マークの形がそのまま、という意味です。

 例えばですね、XX国で「商標に含まれる言語はXX語でなければならない」とあったとしますね。これに対してYY語の言葉を含む商標があって、これが「本国」で正規に登録されていたとすると、XX国は、XX語でない言葉が入っているからといって拒絶ができず、他の拒絶理由がなければ登録を認めていかねばならないわけです。
 ただ、この規定を拡張解釈して、ある国で音響商標が認められていないからといって、本国で登録された音響商標がある場合、「そのまま」登録しろと言ってるじゃんか、といってもダメです。商標概念まで広げなければならないわけでもないからです。
 それから「そのまま」といいつつ、まったく同じでなければダメっていうのではなくて、本質的に同一な商標であればよいといわれます。例えば株式会社の文字列を他の文字列に置き換えるなどは可能なのです。

 まぁ、論文試験のない今、こんなのがテルケルマークなのかと分かって頂ければそれでいいのでは。
 あて、後はちょっとの管理規定と、それからPCTかなぁ。

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