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2007年7月27日 (金)

[弁理士試験]条約案内(3)

東京のJR中央線では最近、機械音声で駅や乗り換えの案内が行われています。そしてまたご丁寧なことに、英語でもアナウンスが行われます。駅の案内だけでなく、優先席(Priority Seats)についての説明も行われています。

▽ この「優先」という言葉は、日常で広く使われていますが、こと特許の世界でいう優先という観念は、初学者にとっては、結構取っつきにくい話なんじゃないかと思うわけです。

■パリ条約の構造
 パリ条約は、これまでに何遍も書いていますように、属地主義を是認した上で、各国に内国民待遇を要求して法規の調整を図ろうとします。しかしながら、ただ内国民待遇を要求するだけでは、言葉の壁という不利益がありますので、翻訳や通信にかかる時間を確保しておきたい。そんなわけで、手続に一定の猶予を与えておこうと考えたのが、この優先権という制度なわけです。
 その意味で、優先権制度は、内国民待遇を手続的な側面から実効あらしめる制度だ、と言われます。

 そして優先権という制度は、パリ条約において所定の工業所有権全般に通用する、締約国民の基本的な利益なのです。その証拠、というわけでもないですが、例えば優先権は意匠や商標などにも認められています。

□4条C(1)A(1)に規定する優先期間は,特許及び実用新案については 12 箇月,意匠及び商標については6箇月とする。

 パリ条約というのは、種々の工業所有権の保護について、まずは内国民待遇という利益をあたえ、次に特許や意匠、商標等について優先権という利益をあたえ、さらに…、というようにn階建ての構造をしているわけです。こんな多層構造の保護をおいていくのがパリ条約の構造です。

■優先権の規定
 では、優先権の規定についてもうちょっと見てみましょう。
 優先権は基本的に、最初の出願において開示されていた発明について、優先期間内の後日の出願でその発明についての権利が請求されたとき、もとの出願日において出願がされていたとして扱うという利益です。その利益の詳しい内容は4条Bに書かれていますので、後から見てみましょう。
 ただ、先の出願にあったからといって、後日の出願に同じように書かなくてもいいのです。また、後日の出願において新しい事項を加えてもいいのです。ただ、加えられた新しい事項は、新しく加えた日に出願されたと考えます。そして、それが最初に開示されたのであれば、当該新しく加えられた部分がまた、新しい優先権を発生させます。
 時系列的にいうと、

  • 1月1日に、発明Aを開示した出願Xをしておき、
  • 2月1日に、Xについて優先権を主張して、発明AとBとを開示した出願Yをすると、

Aについては1月1日に出願したものと考えて審査しますが、Bについては2月1日に出願したものとします(部分優先)。
Aの優先権は1月1日の出願で発生し、2月1日の出願では新しい優先権が発生しません。2月1日において初めて現れたBについては、この2月1日に優先権が発生します。

 ことしの弁理士試験の問題で、優先権の累積的な主張というのが一つのテーマになりましたが、出願Yだけでは発明Aの優先権は生まれないので、後日さらにA+B+Cの出願Zをしたとして、そのときに出願Xを基礎とした優先権の主張を忘れると、AについてはZの出願日を基準に審査がされることになります。ですから、どうしてもAを1月1日に出願したことにしたければ、出願XとYとのふたつを基礎にして優先権主張をすることになります(複合優先)。

 さて、優先権の性格については、むかしむかしのBIRPI局長、ポール・マテリー(Paul Mathely)による解説がトドメになっています。いわく、

  1. 優先権は最初の出願によって発生する
  2. 優先権は発生すると同時に、基礎となる出願から独立する(優先権だけ承継可能)
  3. 優先権は潜在的可能性のままに留まる
  4. 第2国で出願がされ、優先権が主張されると顕現化し、以降は、法的にその第2国出願に伴うものとして扱われ、分離はできない。

というわけです。優先権の発生については、同盟国で正規にされた最初の出願(4条A(1))があれば発生するわけですが、これは出願日が確定できる程度の出願であればいいと言われています。

■さて
、今回は長くなったので、優先権の効果を定める4条Bを挙げてお終いにしましょう。

□4条B すなわち,A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は,その間に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては,各同盟国の国内法令の定めるところによる。

優先期間中に、他に出願があっても、実施がされたり公開されても、拒絶などの不利な扱いを受けないとしており、かつ、他人に権利を与えないとしています。「使用の権能」というのは、使用等について訴追されない地位と説明されていて、いわば我が国の通常実施権のようなものを考えればよろしいかと思います。

 そうそう。この4条をよく見て頂くとお分かりかと思いますが、4条の規定のほとんどは、出願人等の権利を直接的に規定しています。前回見たように、条約というのは基本的には国と国との間の約束になるのに、ここでは国民の権利などに直接言及していますね。こういう規定を「自己執行的(Self Executive)」と言います。取り扱い自体は各国の条約の扱いによって異なるわけですが、一般には憲法が認めれば特に国内立法を要せずに、条約の規定が直接適用されます。憲法が認めなければ、立法を要求されるというわけです。我が国の場合、憲法98条2項がありますから、自己執行性が認められていて、この4条の規定などはそのまま我々国民に適用されることになります。

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