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2007年7月20日 (金)

[弁理士試験]条約案内(2)

1986 年公開のふるい映画ですが「人間の約束」という映画があります。内容は老人介護の重みによる家族崩壊のようなものだったと記憶しています。タイトルは中で刑事のいう「法律は人間の約束だ」(私のうろ覚えな記憶による)というセリフに因っています。家族の中でふつうに起きる極限的状態での犯罪。大層重たい映画ですが、現実に起り得ることで、切ないことです。

□「人間の約束」…弁理士試験とはまったく関係がありませんが。

▽ さて(話はがらりと変わりまして)、法律が人間の約束であるならば、条約は国家間の約束です。条約へ加盟することは、国としてその条約の規定に拘束されることの意思表示でもあるわけです。

■加盟
 パリ条約の同盟国となるためには、批准(Ratification)か加入(Accession)を行います(20条、21条)。一般に批准というのは署名をしたうえで条約の規定に拘束されることの意思を表示することで、加入は署名をせずに条約の規定に拘束されることの意思表示をすることになります。

 いきなり脱線して恐縮ですが、国連の「条約ハンドブック(http://untreaty.un.org/English/TreatyHandbook/hbframeset.htm)」に記載のモデル文書を使って、仮のパリ条約批准書(日付や、国名その他は偽物です)をつくると、批准のモデル文書は、

WHEREAS the paris convention was concluded at Paris on March 20, 1883,
AND WHEREAS the said convention has been signed on behalf of the Government of Japan on March 20, 1883,
NOW THEREFORE I,  GaimuZaemon declare that the Government of Japan, having considered the above mentioned convention, ratifies the same and undertakes faithfully to perform and carry out the stipulations therein contained.
IN WITNESS WHEREOF, I have signed this instrument of ratification at Paris on March 20, 1883.
※着色はこの記事著者

となり、同じ方法で仮の加入書(こちらも偽物)をつくると、

WHEREAS the Paris convention was concluded at Paris on March 20, 1883,
NOW THEREFORE I, GaimuZaemon declare that the Government of Japan, having considered the above mentioned convention, accedes to the same and undertakes faithfully to perform and carry out the stipulations therein contained.
IN WITNESS WHEREOF, I have signed this instrument of accession at Paris on July 15, 1899.

となるでしょう。大きくは、2段落目「サインした」という項目が抜けるわけです。基本的には、発効前など署名のために条約が開かれていれば批准をすればいいわけです。その後、署名可能な期間が終わってしまったら加入しかできないわけです。
 パリ条約を批准、またはパリ条約に加盟した国は、「同盟(Union)」を形成します(1条1(1))。この同盟が組まれることで、パリ条約の目的を遂行する機関を持つ国際法上の法人の設立が要請されてくるわけですが、それはそれとして。
 取りあえず弁理士試験の問題としては、同盟を組んでいる国、つまり同盟国の国民についての規定、2条(1)が重要になるわけです。

■内国民待遇
 パリ条約は、工業所有権(1条(3)を参照)の国際的保護を目的として締結されながら、実体的な側面は各国の対立を受けて大きく後退してしまい、結局、属地主義(知財法でいうそれは、要するに権利の発生や効力などについて各国ごとに規定するということ)を是認してしまっています。そのうえで各国の規定を調整していこうね、という約束になっているのです。パリ条約が「属地主義を前提とした調整法規」と言われるのはそういうことです。
 その調整の一つの例が、この内国民待遇という原則なのです。

 すなわち、属地主義では、各国ごとに自国民を有利に扱い、他国民を差別する規定を設けることができます。しかしながら、そういう差別的取り扱いが許容されるとなると、条約の目的達成が危うくなります。
 ところで、差別的取り扱いを防止する方法としては、最恵国待遇や相互主義というのもあり得ます
 最恵国待遇というのは、A国がB国民を自国民(A国民)より有利に扱う場合、B以外の各国国民もB国民(最恵国の国民)と同様に扱うよう要請するものです。
 相互主義というのは、B国がA国民に有利な扱いをする限り、A国もB国民に便宜を図るというようなものです。
 そして内国民待遇というのは、自国民と同等の扱いを他国民に認めていくというものです。
 条約設立当初、最恵国待遇では条約加盟国がすくないのではないかと心配されたわけです。なお、相互主義になると相手国ごとに取り扱いが変わってしまい、あまりに煩雑です。というわけで、パリ条約では内国民待遇を以て原則とします。その規定が2条(1)です。

□2条(1)
各同盟国の国民は,工業所有権の保護に関し,この条約で特に定める権利を害されることなく,他のすべての同盟国において,当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち,同盟国の国民は,内国民に課される条件及び手続に従う限り,内国民と同一の保護を受け,かつ,自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。

 以前の論文試験上のポイントとしては、同盟国民をどのように考えるか、準同盟国民はどうあつかうか。論点として無国籍人の取り扱いをどうするか、などがあります。特に重要なポイントとしては、「内国民に課される条件及び手続に従う限り」の部分で、ここは内国民と同じ手続を要求していると同時に、内国民以上の条件や手続を要求してはならないことを意味しているわけです。

■そうそう、「当該他の同盟国の法令が」という部分。この「法令」は、国内法令を意味していて、国際条約などは含まないことになっています。ただし、国内法令に取り込まれている場合はそれを介して、実質的に含むことになる場合はあるわけですが、そんな例外は試験に出るところとは思えません。

 さて、今回は内国民待遇の規定を見るだけで終わった気がしますが、次回は優先権と特許独立の原則についてまとめて見てみたいですね(優先権だけで優に数回分ありそうな予感がしますが…)。

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コメント

いつも楽しく拝見しております。
さて、条約といえば、私が最近気になっているのが、特許翻訳の世界では「PCTは逐語訳」と念仏のように唱えられていますが、その法的根拠はどこにあるのかということです。
以前、弁理士会の電子フォーラムでちょっとだけ話題になっていましたが、あまり納得のいく説明がなされていませんでした。
弁理屋さんは、御存知ありませんか?

投稿: 拭き便利氏 | 2007年7月20日 (金) 09時12分

コメントありがとうございます。
そうですねぇ、確かに念仏のように「カガミのような翻訳(mirror image)」だとか「逐語訳(literal translation)」とか言われていますね。

基本的に各国移行時の手続なので、指定国側の国内法令に依って、不利益のない翻訳とはどんなものかを「念仏」にしたものだと思いますが…、根拠規定ですか。そうですね…。

まずPCT自体には「国際出願の正確でない翻訳」というタイトルの条文(PCT46条)があります。ここでは原語を越える部分を含む翻訳がされたとき、限定解釈や無効を宣言できるとなっています。
で、我が国ではこういう規定を受けて、184条の18に、原文新規事項の場合に拒絶、無効理由とする旨が書かれています。そして、この原文新規事項の具体的判断の方法は、というと、それが審査基準 第VIII部の5.1.2に書かれていて(この話は外国語書面出願についてですが、PCTの外国語出願についても準用されています:5.1.2直前の注を参照)、ちょっと引用しますと…

…外国語書面の語句を一対一に文脈に沿って適正な日本語に翻訳した翻訳文…(以下「仮想翻訳文」という)…に記載されていると認められている事項、及び…仮想翻訳文の記載から自明な事項に限り…

…原文に記載されたものと認める、となっています。一方で一部を落として翻訳したりといった訳抜けの場合、誤訳訂正で認められる範囲を除くと、まぁこれは出願人側の不利益になるのでしょうから、結局、「一対一文脈に添って訳せ」という話になったのだろうと思います。

米国でも、PCT46条を受けた規定(35USC 375(b))を備えていますし、このあたりが根拠規定と考えてよいのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

なお、弊所のメンバーの一人は、「国際出願の翻訳文」といっているので、それだけで過不足のない翻訳が求められていると文言解釈できると主張しています。まぁ、これも一つの考え方かなぁとも思います。

投稿: ntakei | 2007年7月21日 (土) 00時40分

詳しい、ご教示ありがとうございます。
PCTルートはパリルートよりも厳密に逐語訳するべきだと言う人がいますが、この点はどうお考えでしょうか?
パリルートは部分優先できるのに対し、PCTルートは内容的には追加できないという実質的な内容面での話が、形式的な文字づらのことにまで拡大解釈されている気がするのですが。

投稿: 拭き便利氏 | 2007年7月21日 (土) 09時55分

うーん、パリの場合には、都合上「翻訳」という過程が入りますが、翻訳の対象となっているのは、各国での出願ですから、それとPCTの翻訳とを直接比較できるというものではないと思います。パリの場合に比べてむやみに逐語訳を主張する結果、直訳みたいになっている例があるかというと、私の身の回りではあまり聞かないのですが…。

PCTは、もとより原出願それ自体が各国の出願なので、例えば権利範囲を画定したいときに別段、原出願より狭くせよとは言われていないわけです。むしろ等価になるよう書くべきですね。そうとすると、日本では「…手段」というのは特に実施例に限定して解釈されていない以上、米国宛の翻訳で"means for ..."と訳さなければならない必然性もないはずです。もとより「翻訳」というのは原文の意味に対して過不足なく、各国語で表現するという意味ですから…。それでも「逐語訳」という表現があまり適切でないと言われればその通りですが…。

投稿: ntakei | 2007年7月24日 (火) 05時16分

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