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2007年6月 8日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(14)

今週は弁理士試験多枝選択式…もとへ短答式の合格発表がありました。合格された方はとりあえず、お疲れさまでした。しかし、正念場はこれからです。

▽ 前回26条のことについて書いたわけですが、よくよく考えてみると、先使用の趣旨なんかについて説明を欠いている気がしますので、今回は少々、落ち穂拾いをしつつ先使用制度のことを。

■趣旨を書く
 ある条文の趣旨を書く、というと、だいたいは、

(1)原則は…
(2)しかし、
(3)そこで、

という流れをつくって、条文が設けられた経緯といいますか、意味を書くことになります。
 以前はレジュメなどを参考に、各条文の趣旨を丸暗記している人もおりましたが、現代的な方法ではないような気がします(やってもいいのでしょうが)。さて、商標法において先使用権の規定が設けられた趣旨ですが、その前に商標法32条をもう一度確認しておきましょう。

□第32条(1項) 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第9条の4の規定により、又は第17条の2第1項若しくは第55条の2第3項(第60条の2第2項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第17条の3第1項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

 この規定の趣旨を上記の流れに当てはめていけば…

(1)原則:先願主義
(2)しかし、先願主義を貫きすぎると、抵触する商標の先使用者は商標の使用を継続できない。ここに出願を怠ったということのみで、善意先使用者の利益状態を覆滅することは具体的妥当性を欠く。
(3)そこで、登録主義・先願主義の例外として、登録主義と使用主義、先願主義と先使用主義とを一定の条件下に修正調和し、善意先使用者の利益状態を保護するべく先使用制度を導入した(32条)。

 こでは、善意の先使用により、使用されている商標に業務上の信頼が化体しているときには、商標権が存在していても、その商標権の効力に制限を加えるべき、ということになりましょうか(小野・「商標法概説」より)。

 前回もちょっと書きましたが、趣旨を書く時には、各条文の趣旨においてキーになる語を飛ばさないように注意するべきです。ここでいえば、「先願主義を貫きすぎると…」などというのがそれです。
 また、こんなことも。例えば本条についていえば、題意によって他の趣旨の書き方もありそうに思います。「無効審判の請求をさせるまでもなく、先使用者の利益を保護する」というような趣旨です(網野・「商標」など)。趣旨というのは、題意に添って展開しないといけませんので、レジュメだけから丸暗記して安心せず、多面性のある規定は、多面的に捉えて、それなりに趣旨を構成し変えられるようにしておくと安心です。

■商標法に内在する対立
 さて、それでここにもありますが、
 登録主義と使用主義、先願主義と先使用主義とを一定の条件下に修正調和するというのはどういうことでしょうか。
 我が国商標法の特色の一つとして登録主義というのがあります。
 使用主義というのは、現実に使用されている商標のうちで、識別標識としての機能を発揮し、保護する利益のあるものについて保護を行う、という考え方です。一方、我が国の登録主義というのは、識別標識として機能し得る商標の要件を法定し、この要件を満足する場合に、使用の有無を問わず、独占排他的権利を与えて未必的に化体する信用を保護しようという考え方です。

 また、使用主義において独占排他的権利を構成しようとする場合には、最先使用者に権利を与える(先使用主義)というのが自然です。しかしながら一旦最先使用者として認められても、それに反証をすることができれば、こんどは別の最先使用者が現れて、独占排他的な地位の保持者が変動することになります。そうとすれば、先使用主義的な考え方では、権利が不安定になります(法的安定性を欠く、といいます)。

 そういうわけで、我が国では、権利の法的安定性の観点から登録主義・先願主義を採用しているわけです。
 もっとも、使用主義と登録主義というのは、必ずしもどちらかを採用するというものでもありません。例えば、登録主義的な考え方を貫きすぎますと、使用しないのに登録だけされている商標が蓄積されて、商標選択の幅を狭めてしまうなどの弊害があります。ですから、使用主義的な修正が必要なのです。
 そうして、登録主義を支える規定と、登録主義に対して使用主義的な修正を行う規定とが商標法内に併存することになります。32条はそうした「修正」をしている規定の一例ということです。

■悩み、を書く
 このように法律において、相対する制度のいずれかを採用し、しかしながら、他方の制度で修正を加えていくという場合、双方の制度の持つ長所を発揮させるべく、バランスをとるように規定をつくり、解釈することになります。
 こういう状況では、バランスの置き方をどこにするかがとっても難しいんだけど…
というように、論文のうえで「悩み」を出していくというちょっと高度なワザがあります。採点者に「あぁ、商標法の本質的な部分がわかっているな」と伝えていくわけです。ただ、これはワザですので、こういう悩みを書けばいいのか!、といって明確に「バランスが難しい」だとか、「この点が悩ましい」などと書いてはいけません。あくまでも婉曲に、搦手から攻めるような書き方をしないといけないわけです。
 そういう意味では、試験自体が易化しているといわれる最近の試験向きのテクニックではないのかもしれません。

※この後、32条2項について記載しようと思っていたんですが、都合により、次回以降に回します。

□今回の参考書:

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