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2007年6月 1日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(13)

うわ、びっくりした。

何がって、DRMフリー楽曲が iTMS で、こんなに早くも展開されるとは思っていなかったのです。ついでに、ucb だとか MIT だとかの大学講義もダウンロードできるようになっている…。これは「商標法案内」やってる場合じゃないな、と思ったのですが、一方で弁理士の二次試験だって7月の1日に迫っているのですから…。

▽ 論文。そうなんですよね。今回は出されすぎて、そろそろ引っ込むかも知れないんですが、非侵害の抗弁で役に立つ、26条のことをちょっと…。
 いやぁ、しかし、iTMS、いよいよ Paul McCartney かぁ…と見てるうちに、ポチッといってしまいました。1800円で40曲あまりだから(DRMフリー版でないもの)、お値打ですよね:"Wingspan (Remastered)" →    Wings - Wingspan - Hits and History (Remastered)

■趣旨と適用場面
 まずはいきなり商標法26条からご覧頂きましょう。

□第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
1.自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
2.当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。次号において同じ。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標
3.当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標
4.当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
5.商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標

これらの規定をどっか他所で見たことありませんか。ええ、そうです。

□第3条(1〜3号) 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
1.その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
2.その商品又は役務について慣用されている商標
3.その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

ですとか、4条1項8号などに似てますね。商標法26条の設けられた趣旨の一つは、間違って(「過誤(かご)」といいます)自他識別力のない商標が登録されたときに、無効審判の確定を待たずに過誤登録された商標権の効力から逃れるようにしたのです。
 「無効審判を請求するまでもなく」ですとか「無効審判の確定を待たずに」というあたりが26条の趣旨の一つで、重要なキーワードで、これを落としますと、「過誤登録された商標権の行使を逃れる」というだけになり、「それなら無効にすればいいぢゃん」という話になってしまいます。あくまで商標らしく、「現実的な解決を図ってる」ことを示すのがいいのです。無効審判など請求して確定まで待ってらんないんです。それに無効審判には除斥期間があり、それを過ぎてしまったときにも実益がある、というのが無効審判とのもう一つの関係です。
 話がちょっとそれちゃいますが、こういうキーワードは結構多くて、試験で意外に点が伸びない人というのは、もしかすると、こんなところにも引っ掛かっていたりするのかなぁ。
 例えば、登録要件に例外的な規定を設ける場合(特許法30条なんかもその一例ですが)、登録要件を否定するような書きかたは避けないといけません。「登録要件はそうなんだけど、その適用を徹底しすぎたりすると具体的妥当性を欠く」というように、規定に穴を空けるときは十分に工夫して書くのです。

 話を元へ戻しまして、26条の趣旨のもう一つは、類似部分に権利行使を逃れさせたい部分があったりする、というものです。青本に、エスカレータについて、「アスカレーター」が登録されているときに、その類似範囲「エスカレーター」へ効力を及ぼさないように…という例がありますね。普通名称が類似範囲に入っていても登録要件を満足する場合があるわけですが、それで登録された後に問題が起きたり、というわけです。「みつ豆」に「ネリキリン」の登録があるとき、「菓子」の「練り切り(ネリキリ)」に効力が及ぶと問題だ、という例が小野先生の商標法概説などにあります。
□小野昌延「商標法概説」(ちょっと古くなってますが):

 そして26条の趣旨として、もう一つ(全部で3つですね)は後発的に本条に該当することとなった場合の配慮です。例えば登録商標と同じ名称の町ができた、とかです。そんな、後からひどいじゃないか、と思われるかもしれませんが、そんなことでも26条は効いてしまいます。
 また途中から普通名称化してしまった---というのは商標権者の管理が悪くて、普通名称になっているのに放っておいたような場合にもこの26条が効きます。「うどんすき」事件などは著名かと思うのですが。マニアックな話ですが、普通名称化したものからブランドへ戻ってくるケースもないとはいえず、戻ってきたときは26条の要件を欠きますので、また権利範囲が拡張されることになります。

 以上を要して言うとどうなるか。26条は、

「公益上、私人に独占させることが妥当でない商標の自由使用の確保」

を趣旨としているわけです。

■文言解釈上の話題
 本条での文言解釈上の話題の一つに、「普通に用いられる方法」とはどういう方法か、というのがあります。3条1項1号での「普通に用いられる方法」とはワケが違うんだ、というのです。3条1項1号の場合、登録要件としての判断ですから、出願された商標の外観・称呼・観念といったものが社会通念的に普通名称を表示するか否かを問題にします。ですから外観上、普通に用いられる方法で表示されているかどうかが問題です。
 一方で26条の場合、具体的に登録された商標との比較の問題ですから、商品に実際に使用されているその使用の方法が普通かどうかです。この語釈の問題は、知っていたら書きたくなる問題の一つかも知れませんが、事例問題で記述するべきかどうかは迷うところです。書いたとして、「実際に使用されている状況からみて、普通に使用されているかどうかが問題であり、3条1項1号のように外観が普通に用いられる方法で表されているか否かとは異なる。」程度の記載になるんでしょうね。

■というわけで26条でしたが、侵害訴訟対策としてはこのほか、当然に無効審判(権利そのものを消失させる)だとか、先使用権の主張だとかもありますので、どんなときに使えるかを、具体的な事案に即してシミュレーションして考えておくと、訓練になるかもしれません。

 

□参考文献…といいますか、こんな本も実務的ではありますが、参考になることもあるかも知れません(3部作ですが、基礎編もまぁ、まとまっています):
   

□…"Live and Let Die"が公開されたのは1973年だそうですが、ポールの曲というのはなんだか万人受けするようなメロディと、分かりやすい歌詞、しかしその上に意外性があって、良くできてます。多少古くても良作であることに変わりないですね。本人は来日時の事件もあって、個人的には尊敬できない側面もあるのですが。

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コメント

全然関係ないですけど、弁理屋さん、特許委員会の進歩性グループのメンバーだったんですね。今日、研究報告を何気なく読んでて、ふと気がつきました。そういや、昔ブログに書かれてような・・・進歩性要件導入に至る経緯を調べてらっしゃいましたが、清瀬一郎さんの「特許法原理」なんかを読まれたんですか?わたし、先日ネットオークションで「特許法原理」競り落としました(1998年復刻版の新品)ので、読んでみようと思ってます。

投稿: | 2007年6月 1日 (金) 16時22分

はい。浅学非才を顧みず、恥ずかしながら、研究報告の一部を作成いたしました。清瀬先生の本は残念ながら、今回は読みませんでした。導入経緯につきましては、他のメンバーが、特許庁地下にあります100周年記念文庫内の、荒玉文庫へ行って、当時の法制会議の議事録を調べました。

私は、どちらかといいますと、過去の判例分析担当ということで、染野・兼子先生の判例要旨集から、メンバー内で大変詳しい方がピックアップしてあったものを読みまして、まとめました。実働で2ヶ月あまりの作業時間でしたので、もうちょっと時間があれば突っ込めましたね…という感じではありましたが、そんな感想を漏らしたが最後、今年も継続することになっております。

なにか、耳寄りな情報がございましたら、御教示下さい。

投稿: ntakei | 2007年6月 2日 (土) 01時23分

商標法第26条第1項第1号について教えていただけないでしょうか
「そして26条の趣旨として、もう一つ(全部で3つですね)は後発的に本条に該当することとなった場合の配慮です。・・・そんなことでも26条は効いてしまいます。」と記載されていました。
事後的に、他人の登録商標と同じ名称を自己の名称(自己の氏名ではなく、営業標識としての名称)として使用することができるということでしょうか?
26条の趣旨から考えると、使用できるとするのはおかしいように思えますが(特に役務)、文理解釈上、使用できると思えるのですが・・

投稿: 佐藤賢一 | 2007年7月11日 (水) 11時40分

もし、具体的な事案をお持ちで、その事案についてどうしようかお考えであれば、まずは弁理士に相談されることをお勧めいたします。

 以下では飽くまでも、紙上の問題として、試験での結論の問題としてお答えいたします。現実の問題と試験での問題は往々にして異なります。

 試験的な観点から致しますと、結論から申し上げて、できる、ということだと思います。26条の趣旨はあくまでも商標の必要的な使用を確保するということでしょう。店名の利用などはまさにその例だと思われます。
 もっとも、立法者も抜けがありません。26条2項により、不正競争目的があれば使用が禁じられます。商標的使用に限っていないような点がおもしろいところです。
 従って「あの売れているヤツの商標と同じ店名にして…ヒヒヒ」というのは禁じられます。私個人の考え方ですが、基本的に周知・著名な商標と同じ店名にするなどというのは、基本的に不正競争の目的を推認させることになるんじゃないでしょうか。
 ですから不正競争に該当しない限りは使用を認めて差し支えない、ということだと考えます。いかがでしょうか。

投稿: ntakei | 2007年7月12日 (木) 02時49分

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