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2007年5月25日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(12)

気がつけば1次試験が終わってまして、所内の受験生に聞いてみますと、軒並み45点レベル。まぁ、ボーダーが40程度であっても、彼らは一応、合格圏内にいるようです。しかし、本当の合格は3次に受かってから、だからな。
 しかしながら、まだ試験が終わって間もないことでありますし、今回はちょっと息抜き的な話に致しましょう。

▽ 2次試験の過去の「論点」を見ていきますと、商標の問題については、大概「商標の多面的な理解をみる」というような文言があります。要するに商標らしい論文をかいてくれ、という意味と見ましたが、商標らしい論文というのはどんなものなのでしょう。

■商標らしさ
 そもそも商標は、その法律の位置づけからして、特許、実用新案、意匠の各法と相違しています。特許等が発明などといった「創作物」について、一定期間の独占権を付与する形式を採るのに対して、商標法は登録の対象も、権利の期間もそれぞれに異なっています。商標法において登録の対象となる「商標」というのは、「選択物」であって、なんらかの創作である必要性がありません(むろん、いわゆるストロングマークの多くは創作的な商標ではあるのでしょうが)。

 このことは各法の目的規定の相違としても現れます。特許法の法目的が、

□特許法1条
この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

というものであるのに対して、商標法の目的は、

□商標法1条
この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

ここで目的とされているのは「創作の奨励」ではなくて、使用者の業務上の信頼の維持であり、「あわせて」、需要者の利益保護なのです。

 登録された対象に対して化体してくる業務上の信頼。これがまずは保護法益であるので、特許における侵害事件とは違い、商標では機能侵害といった形での侵害事件が散見されることになるのです。

 機能侵害の事件については、このサイトでも何度か採り上げましたが、こうした問題が直接的に試験に出題されることは稀だと思います。そうではなくて、機能侵害の事案を通じて、「商標らしさ」を感じ取って頂きたいのです。

■例えばパーカー事件
 既に出題されてしまいましたが、特許において「BBS事件」があるように、商標にも真正品の並行輸入に関する「パーカー事件」というのがあります(大阪地判S45.2.27)。パーカーの筆記用具について並行輸入をして販売していたところ、パーカー社の国内正規代理店から差止めを求められたという事案です。この事案について、大阪地裁は、

・当該商標によって識別される商品の出所は海外の商標権者である。
・並行輸入商品と国内商標権者等の販売する商品とが同一である。

との認定の下、

商標の各機能は何ら阻害されておらず、国外商標権者の業務上の信用や需要者の利益も害されておらず、実質的な違法性が認められない

として、国内商標権者等の権利侵害を認めませんでした。

 この事案とBBSの事案とを見比べて頂きたいのです。
 BBSでは、結論が相同的であっても、「販売が国際的に行われ得るのは明らかなのに、販売地域として明示的に除外しているなどの事情がない」というような形で、いわば黙示的に実施を許諾していたという論理構成になっています。決して、法目的に即して権利の機能的な侵害があるとかないとか、そんなことは述べていないのです。

■手続的な「商標らしさ」
 また、「商標らしさ」は、手続の側面でも現れます。実務上は、こちらの「らしさ」のために、商標に慣れた弁理士とそうでない弁理士との間で実務能力に大きな差が生じてしまうのですが、それは試験合格後の話ですね。
 さて、「商標の特質」は、網野先生の「商標」の序説の章にも記載がある(上に述べたような事柄も含めて書かれています。一読されてはいかがでしょうか)のですが、商標は、公開の代償として保護されるわけではなく、出願前に秘密にしておかなければならないものではありません。むしろ使用によって信用が蓄積されていないと登録されないものだってありますよね。
 さらに拒絶理由の多くは、登録・査定時を基準時としていて、従って他人の先登録を理由に拒絶を受けても、例えば当該他人から登録を譲ってもらうとか、放棄してもらうとかいった方法で拒絶理由を解消できるものです。特許では考えられない「事後的解消方法」が成立するわけですね。
 一方で、特許では当たり前になっている「補正」が使い難い。というか、マークについては殆ど補正不可ですし、指定商品・役務についても削除していく方向に補正できる程度です。

 こういう手続的な商標らしさは、どちらかというと実務的な経験から身に付くものなのかも知れませんが、それならば多少実務的な本を読めば良いだけの話です(可能ならば後からご紹介致しましょう)。

■無体財産権法の一角として、特許法等との共通点も多いのですが、一方で商標には商標としての「らしさ」があります。これは他法と比べても際立っていると思います。論文試験ではこういう「商標らしいポイント」を念頭においておくべきではないでしょうか。

□今回の参考文献:

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コメント

網野の商標ですか。全部読み終えた頃には試験が終わっていた、なんて話もありましたね。
4条1項11号の拒絶理由の対応については、受験生の方は、「つぶす」、「もらう」、「ごねる」の3つを覚えておけばよろしいかと。

投稿: てるける | 2007年5月25日 (金) 17時10分

パーカーやフレッドペリーの判例は、係争の対象となった具体的なケースでの並行輸入行為は、商標の機能を害さないから、非侵害だといってるのに、受験機関では、並行輸入=商標の機能を害さない=非侵害 と短絡させて教えているみたいですね。
たとえ並行輸入でも、機能が害されてれば侵害になりうるんですが。たしか、フレッドペリー以降でも、地裁で並行輸入でも品質保証機能が害されているってことで、侵害とされた事件がありましたよね?
こんなケースが出題されても、弁理屋さんの言うように、商標法の目的、機能から考えたら試験場でそれなりに対応できるんですよね。
もっとも、私なんか、普段特許しかやってないんで、お客さんからたまに意匠や商標の類否について聞かれると、目を白黒させちゃうんで、えらそうなこといえませんが。

投稿: | 2007年5月25日 (金) 17時21分

コメントありがとうございます。

>てるける 様
そうですね。網野は辞書的につまみ食いするのが正しい読み方のような気がします。もっとも最近の試験では、あまり登場場面もないかも知れません。

>受験機関では、並行輸入=商標の機能を害さない=非侵害 と短絡させて教えている

なるほど、並行輸入=商標機能を害さない、という短絡は誤解を生みそうですね。ご指摘のフレッドペリー事件にしても、いくつか認められる要件が上がっていると思うのですが。実際、並行輸入事件については、いろいろの見解が述べられているところですし。
判決については、丸飲みしてお終いではなくて、咀嚼してロジックを抑えておかないといけない、と考えています。

投稿: ntakei | 2007年5月25日 (金) 23時00分

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