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2007年5月 1日 (火)

乱読日記[51]

「点と線」,松本清張

もう、はるか20数年前に読んだきりで、内容をすっかり忘れていたので、本棚の片隅からひょっこり出てきたのを機会に、その場に座り込んで読みふけってしまった。高々250ページほどの作品ではあるが、推理小説としてのエッセンスが凝縮されて詰まっている。

▽ 小説でも映画でも(おそらく特許明細書でも)、冗長にダラダラと書いていけばどこまでも長く書ける。むしろ要素を巧みに切り出していくほうが、高度な作業だ。

■そういう意味では、この「点と線」は、大層高度な技巧を駆使して創られた小説であるといえる。例えば結末を「報告書」として東京の刑事から、福岡の刑事へ宛てた手紙で語らせていることにも技巧の一端が伺えるというものだ。東京の刑事と福岡の刑事---そうだ、この作品には、主要な探偵が2名登場する。福岡署の老刑事・鳥飼重太郎と、東京警視庁の三原紀一とである。

■すでに古典ともいえ、内容が周知されている小説ではあるが、今一度そのストーリーを追って見る。事件全体は、某省庁の汚職事件に関連したもので、その実務畑にいる男が、赤坂の料亭の女中とともに服毒死しているのが博多の海岸で発見される。一見して心中であるので、その通り事件性のないものとして扱われるのであるが、福岡署の老刑事、鳥飼が男の所持品にある食堂車での支払いに不審を抱く。

■事件を遡ること数日前、この男女は、女の勤め先である料亭の女中と、その馴染客とによって、列車に乗り込むところを目撃されていた。その日、馴染の客・安田は、女中2人を食事に誘っていた。当日、鎌倉に住む病身の妻を見舞う予定で、その女中2人に送らせて東京駅へやってきていた。鎌倉方面への横須賀線は13番線。目撃された男女は隣に並ぶホームの15番線にいて、九州方面への列車へ乗り込もうとしていた。発着の激しい東京駅で、13番線から15番線発車の特急を見通せる時間。それは一日のうち、わずか4分間だけのことであった。

男女の死体はやはり心中なのか、それとも他殺を偽装したものであるか。

■推理小説好きとして、敢えて難点をいえば、刑事がボンクラに見えるといえば言える。つまり、多少、前後関係から内容が透けて見えるところがないとはいえない。ただし、ストーリーの巧みさは、その欠点を補って余りあり、しっかり楽しめる小説となっている。

■物語の末尾に、注釈があり、本文中のダイヤが昭和32年のものであるとある。

 東海道新幹線の開業が昭和39年のことである。ちなみに開業当時の新幹線車両は「0系」と呼ばれる車両であり、新規開発技術は一切使わず枯れた技術を集積してつくられたものであったという。もっとも、周知技術の組み合わせであっても、組み合わせに特許性があり得ないわけでもないというのは、よくある話。ただし現状では、審査は拒絶する方、裁判は権利を使わせない方へバイアスがかかっているやに見えるからどうか。

おっと、話が大分それた。

 現在、横須賀線は東京駅地下ホームで発着するので、このホームに立っていても、九州方面へ出発する列車は一本も見られないであろう。また九州−東京間の所要時間は5時間程度だから、九州から夜行で帰ってくる苦労もないわけで、本件のアリバイ作りもまた変わってきてしまうことであろう。時代がそれだけ変化しているのである。
 したがって、この話を読む前提としては、夜行特急で長時間をかけて旅行をする時代を想定しなければいけない
 しかしながら、その古さを感じさせないものが、この小説にはある。今回改めて(ちゃんと)読んで、練れた内容とストーリーの巧みさ、結末に見る、ある種の恐ろしさといったものが、まったく色あせていないことに驚いた。

 ミステリは海外ものに限ると考えて、まだこの作品を読まれていない方。ご一読されますと、日本の推理小説も捨てたものではないと気づかれるかも知れません。

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