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2007年5月31日 (木)

乱読日記[54]

「ダン・カーニー探偵事務所」,ジョー・ゴアズ

「EQMM」と聞いて、フレデリック・ダネイの卵型のはげ頭を思い出すミステリ好きであれば、この本を知っているのかも知れない。個人的にはエラリイ・クイーンの小説はムリのあるものが多いように思っているが、EQMM出身(?)の作家には秀逸な人が多いと感じている。

▽ しかしながら、このジョー・ゴアズについては、この「ダン・カーニー」を読むまで聞いたこともなかった。それゆえにあまり期待せずに読み始めたのであるが…

■ 本書は11篇の短編をまとめたものだが、どれも「ダン・カーニー探偵事務所(DKA)」の事件をめぐる短編であり、主要な登場人物は変わらない。どころか、途中で事務員が体調不良で出社しない、とかいう話が続いた、と思ったら、最後の方の物語では当該人物が死去していたりして、時系列的にもちゃんと繋がりがある。
 本書は、基本的には債権回収(特に月賦が不払いになっている車の回収)を中心に請け負っている探偵社の物語である。各短編は、当初は「新人」であるラリー・バラード、元ボクサーの「強い」調査員、バートン・ヘスリップ、ベテランのパトリック・マイクル・オバノン、そして表題にもなっている探偵社の代表、ダニエル・カーニーの誰かを主人公にしている。
 読みどころは、各キャラクターに沿った物語のテイストの相違である。必読だといいたくなるような傑作は見られないが、軽く読んで「面白いんじゃないの」という佳作ぞろいであり、期待しないで読み始めた割にはそれなりに楽しめた。

■女性に弱いラリー・バラードのキャラクターは、「いかにも」である。調査対象者に心を動かされる若き探偵で、相手に気を使いすぎている。だが、仕事ぶりを買われて、ダン・カーニーに可愛がられているため、最終的にはどうにかこうにか形がつく。このラリー・バラードをめぐる話は、どれもエラリイ・クイーンの書きっぷりにどうにもカブるものを感じるのだが、これは私だけの感想だろうか。
 わるくいえば普通の話だし、良く言えば探偵物語としてはまずまずの出来になっている。

■ヘスリップの話は、ヘスリップが黒人の設定であるために、人種差別問題にからむ話が多い。また、元ボクサーとしての経歴設定のためか、多少暴力がかった事件も多いのだが、本人はいたって平静な人物で頼もしく描かれている。ただし、敢えて難をいえば、ヘスリップのキャラクターはあまり「立って」いない気がする。性格付けが今一つ揺れている風に見える。そのせいなのか分からないが、後半の方では出番が少なくなっているような気もする。

■対照的にキャラクターがはっきり「立っている」のが、オバノンである。
 いつぞやも書いたが、と、ある大学教授いわく、喜劇の主人公の典型は、シェイクスピアの「ボトム」と「フォルスタッフ」なのだそうだが、この分類によると、オバノンはフォルスタッフ的キャラクターである。
 なお、公平のために追記すると、私自身は、「お前の胸の肉一ポンド…」という有名セリフをしゃべっているのが「ベニスの商人」だと思っていたほどの「文学音痴」であって、残念なことに「ボトム」も「フォルスタッフ」も、この教授の講義以外に、作中で出会ったことがない。よって、この教授の講義を信頼して言えば、フォルスタッフというのは、いわばスーパーヒーローなのであって、「普通は、やりたくてもできないこと」を平然と為していく人物の典型であるらしい。どうしてそれが喜劇主人公の典型なのか、というとまぁ、それは「ルパン三世」でも思い出してもらえれば、あの何が何でも成功してしまう人物に胸のすく思いのする人は多いのだろうし、それがまさに「喜劇的」なのだそうである。
 話が長くなったが、オバノンは、大酒飲みで(ここもまぁ、フォルスタッフ的であるといえば言える)、アイルランド人で(いかにもだ)、物語によれば、ダン・カーニーを除けば、DKA内でも最高の調査員だという。僅かな時間に回収の対象となっている車を手元に移す手際といい、失敗が失敗にならない幸運につきまとわれるところといい、憎めないどころか、羨ましい人物である。ダン・カーニーは、彼の失策をとらまえて、高額の経費請求をいつか蹴ってやろうと思っているが、なかなか失敗の尻尾を出さない。それどころか期待以上の成果を上げてしまう。
 このキャラクターは、---最も現実味がないにも関わらず---強烈な個性のせいか、ちゃんと存在感のある人物に仕上がっていて興味深い。また、唯一失敗する話も取り混ぜられているのだが、これまた面白く読める。個人的にはこのオバノンのストーリーが本書の中でも気に入った。

■ダン・カーニー自身の話は、すくない。「影を探せ」という短編で、著名な他作に「見立て書き」して、プロットを乗っ取っている話が唯一といってもいい。この短編は多少実験作的な印象が否めず、面白さとしては、割引つきなのであるが、もし乗っ取られている他作を予め知っていればストーリーとしてはダブって楽しめるのかも知れない。生憎、その他作を知らなかったのだ。従って、その他作を知ってから読んでみたいと思うならば、この「影を探せ」については、その末尾部分に付された<作者のノート>を先に参照してから読めばいい。そこに他作が何かが書かれているのだ。

■全体的にみて、強くオススメできる本ではないものの、強烈な殺人事件だとか、ムリのありそうなトリック設定に疲れた、というミステリ(というか、ハードボイルド(?))好きには、「一杯どう?」とでも勧めるような感覚で、推してみたい佳作である。

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