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2007年5月16日 (水)

原点回帰−KSR v. Teleflex のはなし

再三のことになるが… KSR v. Teleflex について、である。
米国での自明性の裁判所での判断というのは、歴史的に見ると、1851年のHohikiss事件に遡ってみることができる。誰もが思いつくタイプのドアノブ、そんなものには権利は与えられません、という話である。その後、90年も経ってから Cuno 事件がある。いわゆる「天才のひらめき」を要する、としてあらゆるものが自明と判断されるようになったのである。

▽ ところで、このあたりではまだ、発明の成立性と自明性ということについて多少の混乱があったようである。

■ KSR v. Teleflex
 私は、具体的な事件の内容を見るのが好きなので、あえて KSR v. Teleflex 事件の具体的な部分をご紹介してみたい。
 特許の侵害訴訟というのは分かりにくいもので、クレイム解釈によって技術的範囲を定め、対象製品がその構成要件を具備しているか、と比較していく。こういう分かりにくい事案について、米国の裁判所では陪審がからんだりするのだから…というわけなのか、どうか。こんな企業がある。
     http://www.demonstratives.com/
この会社、裁判用のビデオというのを作成しているのである。KSR v. Teleflex 事件についても、自明性を説明するためのビデオがある。同社のウェブサイトから辿ることができる。一応、直接のURLを開示しておくと、
http://www.ffhsj.com/practice_groups/ksr/asano.avi
というものである。
 このビデオを見ると、ほぼ一目瞭然といえようが、要するに自動車用アクセルペダルを前後に調整する仕掛けは昔からあり、それに最近普通の電子制御用のセンサを取り付けただけのことである。むろん、発明としては「逆向き」で、電子制御用センサをつけたアクセルペダルがあったところへ、前後に動かす仕掛けを考えたのであろうが、実際にはそんな仕掛けは既にあったわけだ。
 CAFCにおいて Teleflex 社側は、単なる組み合わせからでは電子センサの取り付け場所が得られない、という主張を行った。TSMテストを字義通りに適用するのならば、なるほどピボットの軸に取り付けるという話はどこからもでてこない…

■103条
 米国における非自明性の要件(103条)は、1952年の制定になる。この条項の起草委員でもあった Giles S. Rich 判事の講演の内容が、APLA Quaterly Journal, Vol.1, 1972 に記載されている。それによると、103条において、それまで発明の成立性であるか、特許要件であるかの混乱を解消したということになっている(表題からして Laying the Ghost of the "Invention" Requirement となっている)。
 103条を発明成立性という条項から決別させ、特許要件の条項へと移行させることの基礎となったのは、The Great Atlantic & Pacific Tea Co v. Supermarket Equipment Corp, 340 U.S. 147, 87 USPQ 303 事件における裁判所の迷走だったようだ。組み合わせを一体的に動作させるための発明があるかどうか、という曖昧な判断基準を取り除き、技術分野を超えて画一的な判断基準を設けること。それが103条の要件として著されたわけだ。

■ Graham v. John Deere Co.
 そして話は1966年に至る。農耕用の器具(Chisel plow)についての特許事件の判決(グラハム判決)である。1952年に導入された35 USC 103を受けて、この判決では具体的な判断手法として、

Under 103, the scope and content of prior art are to be determined; differences between the prior art and the claims at issue are to be ascertained; and the level of ordinary skill in the pertinent art resolved.

103条の下、従来例の外延と内容とを確定し、その従来例と発行されたクレイムとを比較し、そして当業者のレベルを鑑みること。
としている。
 また、二次的要素(セカンダリー・コンシダレーション)に触れて、

Such secondary considerations as commercial success, long felt but unsolved needs, failure of others, etc., might be utilized to give light to the circumstances surrounding the origin of the subject matter sought to be patented.

商業的成功、長年望まれながら解決されていなかったこと、他者の失敗など、二次的な考慮要素は、特許の主題となる要素の起源をめぐる事情を明らかにするだろう
という。
 一つ脱線するようだが、先の、Rich 判事は、ここで「他者の失敗『など』」とあることを強調する。商業的成功などは例示列挙なのである。
 この判決の内容は、MPEP 2141 にまとめられている。そこでは、

(A) Determining the scope and contents of the prior art;
(B) Ascertaining the differences between the prior art and the claims in issue;
(C) Resolving the level of ordinary skill in the pertinent art; and
(D) Evaluating evidence of secondary considerations.

と、まさにそのまま、4つの判断基準としてまとめられているのである。

■Amicus Briefs
 話をKSR v. Teleflex へ戻す。本件については、最高裁で採り上げられる結果となってから、KSR(自明を主張する側)をサポートする意見書と、Teleflex をサポートする意見書とが大量に現れた。一般的にKSRをサポートする側の見解は、

  • 疑問のある特許権が多すぎる
  • 無効であるとの判決が得られ難い
  • 自明性の基準と立証責任について明確な基準が求められている
  • 自明性を教示する事項を見出すことは難しい

といったものであり、対するTeleflex側の見解は、

  • 予測性が必要であり、主観性を排除するべき
  • 組み合わせ容易との理由を確立するべきである
  • TSMテストを柔軟に適用するべきだ

というものである(昨年末、Infopatにて行われた Buchanan Ingersoll & Rooney PCの弁護士による講演資料より)。

■The decision
 さて、それで最高裁の decision である。これに先だって、TSMテストについて、最高裁判事が「おかしい」などと発言していたという記事がいくつか目についていた。
 この decision では、最高裁は Teleflex 側の主張(それはつまりCAFCの判断でもあるわけだが)であるセンサの取り付け位置についてこんなことをいう。

Reversing, the Federal Circuit ruled the District Court had not applied the TSM test strictly enough, having failed to make findings as to the specific understanding or principle within a skilled artisan's knowledge that would have motivated one with no knowledge of the invention to attach an electronic control to the Asano assembly's support bracket.

 要するに、当業者ならば、そこに取り付けるのが当然だろうと。
 そして、具体的教示は必ずしも必要でなく、当業者が容易に組み合わせて為し得るものであれば自明であるとする。

As our precedents make clear, however, the analysis need not seek out precise teachings directed to the specific subject matter of the challenged claim, for a court can take account of the inferences and creative steps that a person of ordinary skill in the art would employ. (p.14)

 既に記事にしたように、TSMテストそのものを完全に否定しているわけでもないのだが、例えば teaching している個所はここだ、というように具体的に述べずとも、当業者が当然に想到するのならば自明と判断するべきだ、とする。
 なお、当業者については、

A person of ordinary skill is also a person of ordinary creativity, not an automaton.(p.17)

当業者というのは通常の創作能力を有する者をいい、機械的組み合わせを行う者ではない。
とする。この、当業者による創作能力の範囲、というあたりが、どうも flexibility の問題に関連しているようである。
 結局のところ、CAFCの判断は、グラハム判決における、(C) Resolving the level of ordinary skill in the pertinent artの部分、つまり当業者の「レベル」という部分を無視し、これを低く見積もりすぎていたため、TSMテストが「凝り固まって」しまったのであろう。
 そこで当業者の創作能力をすこしプラスに動かせば、国際的な平均レベルに近づくことになる。動かしすぎると、厳しくなってしまう。今後、問題になるとすると、この当業者という曖昧な観念かも知れない。

 なおその後 USPTO(の中の偉い人) は、審査官に対し、

in formulating a rejection under 35 U.S.C. 103(a) based upon a combination of prior art elements, it remains necessary to identify the reason why a person of ordinary skill in the art would have combined the prior art elements in the manner claimed.

と垂れて、さらにMPEP 2141 を再確認している。グラハム判決の精神をもう一度確認しよう、というような趣旨かと思われる。

■影響
 以上の通り、「当業者」のレベルが高められる結果、今後は安易に自明性が認められなくはなりそうだが、我々外国から出願処理を行う側からすると、こちらの感覚に近くなってきたというわけで、実務的影響というのはあまり大きくないと思われる。

 ちなみに、その後 CAFCが KSR v. Teleflex の最高裁判決を踏まえて出した、といわれる判決がある。Leapfrog Enterprises, Inc. v. Fisher-Price, Inc.(06-1402) である。その後の「当業者レベル」の判断を見るため、ちょっと参照してみよう。
※6/19追記:最近 Leapfrogのケースを調べられる方が多いようですので念のため追記します。この判決についてはCAFCの判事が、「KSRのdecisionが出る前には書き上げていた」と述べているそうです。ですから直接的にKSRの影響がでているかというと、少々ビミョーなところです。

 このケースで自明性が争われたのは、そのクレイム25である。

□ 25. An interactive learning device, comprising:
a housing including a plurality of switches;
a sound production device in communication with the switches and including a processor and a memory;
at least one depiction of a sequence of letters, each letter being associable with a switch; and
a reader configured to communicate the identity of the depiction to the processor,
wherein selection of a depicted letter activates an associated switch to communicate with the processor, causing the sound production device to generate a signal corresponding to a sound associated with the selected letter, the sound being determined by a position of the letter in the sequence of letters.

自明性主張の基礎というのは、USP 3,748,748 と、テキサスインスツルメントの"Super Speak to Read device"(SSR)というおもちゃである。

 USP 3,748,748については、公報が見つからなかったのであるが、判決によると…

In the preferred embodiment of the Bevan device, a housing contains a phonograph record as a voice storage means, a speaker for playing sounds from the voice storage means, and an actuated electric motor to turn the record. Uniquely shaped puzzle pieces fit into correspondingly shaped openings in the top of the housing. Depressing the puzzle pieces in the openings causes the motor to turn the record and brings phonographic needles into contact with the portions of the record where the sounds associated with the puzzle pieces are stored so that they can be played through the speaker.

…という機械である。
 なかなか巧妙な機械のようだが、非自明を主張する側としては、この構成と何ら変わらないじゃん、と言っている。
 もう一つの非自明の証拠であるSSRは、

For example, the child can press the letter 't' and hear the t phoneme and then press 'ug' to hear all the sounds in the word 'tug.' Similarly, the child can press the letter 'b' and then 'ug' to hear the sounds in 'bug.'

という電子装置である。

 しかしてこれらの組み合わせからは、"a reader configured to communicate the identity of the depiction to the processor,"という構成が開示されない。CAFCは、「開示されていないが」としたうえで、この構成は、発明の時点で当業者にとって容易に為し得たものだと判じている。
 この辺りの判決から、CAFCの新しい「当業者」の基準が垣間見えてくるのではないか。

■というわけで、結論としては、KSR 最高裁判決については、影響は思ったより少ないこととなりそうだ。だが、とりあえず「当業者」レベルの落ち着き先くらいは注意しておくべきかも知れない。

■参考文献
1.Giles S. Rich, Laying the Ghost of the "Invention" Requirement, APLA Quaterly Journal Vol.1, No.1, 1972

2.J.A.LaBarre, and W.C.Rowland (Buchanan Ingersoll & Rooney PC), Recent developments in the US, Infopat セミナー資料

3.D.A. Mancino, and H.Ito (Taft Stettinius & Hollister), Winds of Change for U.S. Patent Laws, Infopat セミナー資料

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