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2007年4月 9日 (月)

典型のかたち(2)–––独占禁止のはなし

弁理士試験の勉強を始めるとすぐに、特許法の全体の趣旨として、「新規な発明を公開した者に対して、一定期間の独占を認める」というような話がでてくる。実施の独占は特許法のキモにあたる制度ではあるが、一方で日本には独占禁止法という制度があって、私的独占の禁止が求められていたはずである。と、すると特許法と独占禁止法とは相対立する関係にあるのだろうか。

▽ などと、もって回ったように疑問形で始めてみたが、そんなわけはなく、どちらも国の経済発展に資するという究極目標は変わらない。

■ 特許において独占禁止が問題になるとき
 独占禁止法は、私的独占や不当な取引制限、不公正な取引方法を禁じている(独占禁止法3条、6条)。ここに、例えば、私的独占というのは、

□独占禁止法2条5項
 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

とある通り、「公共の利益に反して…競争を実質的に制限すること」までを含むものであり、特許権者が正当に特許権を行使している間は問題にならない。が、特許権者が特許権を背景にこの私的独占や不当な取引制限にあたる行為をしたとすると、まずは「三年以下の懲役又は五百万円以下の罰金」(同法89条1項)となり、さらに、情状によっては、刑の言渡しと同時に、「違反行為に供せられた特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権は取り消されるべき旨」の宣告を受け得る(同法100条1項1号)。これが特許権消滅原因の一つであることは、弁理士試験受験生であれば周知の通り。

 大雑把にいって、特許において独占禁止法が問題になるのはライセンスの場面において、である。従ってライセンス契約の契約書などでは、独占禁止法に関わる問題がないかのチェックが求められる。そしてもう一つ、ライセンス契約の一態様ではあるが、パテントプールを形成する場合にも独占禁止法の問題が現れる。

■平成9年(勧)第5号事件
 この表題の事件は、パチンコ業者10名に対する公正取引委員会からの勧告に関わるものである。この勧告の制度は現行法では廃止されてしまったが、改正前の独禁法では、審査の後、必要によって勧告がされていた。そして、この勧告に対して応諾すれば勧告と同じ趣旨で審決がされ、勧告に対して不応諾であると審判が開始されるという流れであった。この事件の場合、勧告に対して10社が応諾したので、そのまま審決している。
 事案の骨子をいえば、要するにこの10社が保持している特許を、株式会社日本遊技機特許運営連盟というところで管理させ、相互にライセンスする形態をとっていたわけである。いわば特許権を持ちあってプールし、相互にライセンスしたということであり、パテントプールという態様である。
 問題は、このパチンコ遊技機の製造について必要なパテントのライセンスを、新規参入希望者に対して適切に出さなかったことなのである。審決では、契約条項の一部削除を求めている。

■パテントプール
 要はパテントプールという仕組み自体が問題なのではなくて、その運営の態様が問題なのである。MPEG2のライセンス関係でチェアマンをされていた加藤恒氏が、その著書「パテントプール概説―技術標準と知的財産問題の解決策を中心として」で指摘するように、技術高度化のおり、一つの製品をめぐり多数の企業のパテントライセンスを取り付けなければならないのでは、負担が大きすぎる。一つの標準技術についてパテントプールがあれば、そこから集中したライセンスを取得すれば済む。パテントプール自体に問題点がないとはいえないが、このメリットは大きい。

■パテントプールと独禁法
 公正取引委員会は、平成17年に、ガイドライン(http://www.jftc.go.jp/pressrelease/05.june/05062902.pdf)を発表。パテントプールと独占禁止法との関係についての公式な見解を明らかにした。この内容は多岐にわたるので、興味のある方は上記リンクからダウンロードできる資料を参考にしてもらうか、加藤氏の著書を見て頂くとして、最近の流行としては標準技術のことがある。ちかごろでは仲裁センターの業務と関係して、この方面が一部で注目されているのである。

■必須判定
 すなわち、標準技術(MPEG2やDVD技術など、何らかのスタンダードに即した技術群)のパテントプールを形成するときには、当該パテントのライセンスが、合理的で差別的でないという条件(Reasonable And Non-Discriminatoryな条件、略してRAND条件---ランド条件と呼ばれる---)であることだけでなく、パテントプールに含まれる特許に必須性があることが求められる
 標準技術を形成する技術がプールされる意義というのには、必要な技術が一括してライセンスを受けられることにあるので、必要でない技術や、代替可能な技術まで含まれていたのではプールとしての意義がないばかりか、不公正な取引が行われかねない。と、いうわけで、標準技術を形成する技術でパテントプールを作るとき、そこに含まれるパテントは、当該標準技術の実施に必要であり代替できない技術に関わる「必須特許」でなければならぬ。日本ばかりでなく、ヨーロッパや米国のガイドラインでも同様に、パテントプールが必須特許のみを含むことが独占禁止法規に抵触しないことの評価に資するとされる。

 そこで仲裁センターの話というのはこうである。
 ある特許発明が、ある標準技術の実施にとって必須であるか否かを判定する「必須判定」の業務を、仲裁センターが昨年からはじめたのだ。なるほど仲裁センターならば、国内で適当な第三者機関として機能するだろう。仲裁センターの業務として今後広く活用されるのではないかと思われる。

 長くなったので、このあたりで打ち切るが、この独占禁止の問題等については、また折りに触れて扱ってみたい(ラムバスの事件のこともあるし)。

■ふと、思い立って日米欧以外のエリアでは独占禁止法はどうなのかと、ちらと調べてみると、例えば中国では独占禁止法の制度が整備されていないらしいことがわかった。そのうち現地代理人が来たらちょっと聞いてみようと思うが、この国ではむしろ私的独占よりも国家企業による独占が問題になっているらしく、社会制度の違いというのを改めて感じた。

□ 「パテントプール概説」
 パテントプールについて、構成や独占禁止法との関係、税制との関係、具体例や関係ガイドラインなどを広く取りまとめてある。多少、整理がついていない感が否めないが、この程度は許容の範囲だろうと思う。むしろウラ表紙の、金勘定しているブタのほうが大問題じゃないだろうか。

今は関係のない弁理士のみなさんも、後学のためにいかが??

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