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2007年4月 6日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(7)

寒暖の差が激しいせいか、はたまた東京では19年ぶりという4月のみぞれのせいか、満開だった桜はあっという間に葉桜に変わってしまい、世の無常というか、さみしいやら…。

▽ 桜の季節が過ぎますと、もう試験の季節に入ります。そろそろ1次試験のことも蒸し返しで書いてみようかと思いつつ、今回はまだ商標法を続けます。

■類否
 今回は、商標の類否判断というところへ入ってみたいと思います。類否が問題になるのは、まずは審査のとき、権利範囲を確定するとき、そして不使用の判断のときです。商標の類否と聞いて、

あー、商標の類否でしょ? 「称呼・外観・観念」だよね。

というのは、中途半端もいいところなわけで、これはマークについての問題のほんの一部でしかありません。

■商品・役務の類否
 まず、商標はいつでもマーク+商品・役務。商品・役務の同一、類似はどうみるか。
 審査段階の商品・役務の類否については、「類似商品・役務審査基準」というものがあります。ただし、この資料は実務上重要なものではありますが、試験ではあまり関わらなくても大丈夫かと思います。むしろ試験のときの商品・役務の類否判断としては、商標審査基準の4条1項11号の解説がトドメだろうと思います。いわく、例えば商品の類否について

 生産部門の一致
 販売部門の一致
 原材料及び品質の一致
 用途の一致
 需要者範囲の一致
 完成品・部品の関係にあたるか

を総合的に勘案するなどというものです。この審査基準の4条1項11号の項目は、後で説明するマークの類否についてもある程度網羅的に記載があり、参考になる部分ですので、目を通しておくことを強くお勧めします。

 審査の段階で、こうした基準を設けているのは、出願の段階では具体的な事情が明らかでないからで、ある程度、画一的な処理をするためといえます。一方、侵害の訴訟などでは具体的な事案がそこにありますので、もっと直接的に、出所の混同が生じるかどうかで判断することになります。

 この類否の問題と具体的出所混同との間には相当の距離があり、それは例えば青本の64条の趣旨にもあります通りで、「商品・役務の類似という概念は画一的なもの」であるのに、「商品又は役務の出所の混同を生ずる商品又は役務の範囲は、それに使用をされている商標の著名度などにより変動する流動的な概念」で、後者は画一的な基準で判断されるものとは違います。なお、上記趣旨は64条(防護標章制度)のものですので他の規定で持ちだすとおかしいことになる場合もあります。ちなみに、防護標章の趣旨としては、

出所混同の範囲が流動的
 → 商品や役務の類似範囲を越えて出所混同を生じる範囲が広がることあり
 → 不正競争防止法の規定はあるが、立証が困難である
 → そこで防護標章制度を設けている

というような流れになります。

 ついでに念のため。商品・役務区分は、類否の判断に関わりがありません。

□6条3項
 前項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない

 不使用の場合? 不使用の場合は、「各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用」が求められます(50条)。類否の問題ではなく、指定商品・指定役務であるか否かです。もっとも実務的には多少難しい問題もないとは言えないのですが。

■マークの同一・類否
 審査の段階において、マークの同一は、外観というか、標章が同一であることです。要するに、「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」が同一であることです。
 一方、不使用取消の審判などでは、マークの同一をもう少し緩い観点で見ます。それは例えば商標の使用がされているかどうかの判断における相違です。
 そのむかし、商標権の更新時に審査(使用のチェック)がされていたとき、使用証明として出されたマークと登録されているマークとが完全同一でなくてもよかったわけです。「自他商品の識別を本質的機能としている商標の性格上、単なる物理的同一にこだらわず、取引社会の通念に照らして判断される必要がある」(青本)というわけで、このいわゆる「社会通念上同一」は、法律の文言でもあり、現在の不使用取消審判の規定に含まれています。

□第50条(1項) 継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

・着色は著者

 さて、マークの類否については、広く言われています通りマークの外観、称呼、観念(意味や内容)を比較することになります。こちらも審査基準の4条1項11号の解説によれば、「商標の有する外観、称呼、及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察」となっておりますが、この語の来歴について、一昨年(2005年)のパテント誌9月号(Vol.58, No.9)に、商標委員会の松田先生が、『氷山の一角「氷山事件」は怒っている』と題した記事を掲載されています。この記事は、氷山事件(最高裁判決昭和43年2月27日、民集22巻2号399ページ)というマークの類否についての画期的判決について、それをルーズに解釈した判決が多くなっているので、そんなことをするな、と論じるものです。論文の趣旨やその妥当性はさておいて、試験向けとしても、三点観察(外観、称呼、観念)の手法について、歴史的経緯などを踏まえて解説があり、副読書となり得て面白いので、ご紹介しておきます。
 なお、ネットワークでPDFファイルを参照できるかと思います。パテント誌でみるよりもPDFのほうが、---カラーになっているので---見やすいかも知れません。

 で、上記論文の趣旨はともかくも、論文的には「外観、称呼、観念のいずれかが類似であれば類似」と言い切っても悪くはないと思います。

 以下は補足的に書いておきます。

□類否判断は、当該商品役務の主たる需要者の通常有する注意力を基準として判断する。商標法は、商品役務の出所混同の防止を目的とするからである。
□類否判断においては、時と場所とを異ならせて、かれこれの商標を観察する隔離的観察を原則とする。需要者が商品を購入したり役務の提供を受けるときに、以前に購入又は役務提供を受けたときの記憶に基づいて再度の購入等を判断するという実情に鑑みたものである。
 また、商標はその構成が一体となって識別力を発揮するものであるから、原則として全体的観察を行う。ただし、特に需要者の注意をひく部分があり、それによって自他商品識別力を発揮しているときは、要部観察も用いる(併用するってこと)。

 さらにこれもちなみに、ですが、「ひよこ」の商標事件について、自他商品識別力の有無を争った判例があります。この判例について、担当弁護士が事情を説明している一文が、最近の「L&T」という雑誌(amazon では扱いがないようです)に掲載されています。これもまた、読み物として面白いので、一応、ご紹介まで。

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