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2007年3月 2日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(3)

論文というと力が入って、自説を滔々と展開したくなる気持ちはよくわかります。でも法律の試験でいう論文というのは、自説を展開するのではなくて、広く受け入れられている説を展開する方が得点につながるのです。結局、少なくとも受験生をやっているうちは習作の論文を書いている気持ちになって、自説展開を諦めた方がよいでしょう。

▽ 法律系の論文作成法を説明した本はいくつかあって、弁理士試験受験でも一冊くらい読んでおくと、書き方がわかりやすいかも知れません。既に何度か紹介している本だけど、ここで再掲しておきましょう。ほとんどが司法試験用なので、そのまま使えるというものではありませんよ。念のため。

以上の三冊。

■商標における商品・役務(えきむ)の概念…の前に
 平成18年度の弁理士試験の商標法の問題は、この概念を説明するのにちょうどいいと思います。簡単に引用してみましょう。

株式会社CBAコーヒー(以下「甲」という。)は、2002 年1月から「CBAコーヒー」の名称で喫茶店を運営しているが、10 回来店した顧客に対し「CBAコーヒー」の文字を側面部に表示したマグカップを無償提供するサービスをし、「CBAコーヒー」の名称を用いた甲の上記業務及びサービスは、関東一円の一般的な需要者間で広く知られている(なお、全国的に知られるには至っていない。)。

これは問題の前段になります。上掲の書籍でもそうなのですが、具体的な論文記述方法に先だって、何を書かなければいけないかを見出さなくてはいけません。それが題意の把握ということがらです。論文試験では論述の展開よりも、この題意の把握が重要で、これに失敗すると、どんなに美しい論述が行われていても、得点にならないのです。なぜか。だって、問題に答えていない答案は、答案ではないからですね。

題意把握においては、ヒントとなるのはどうしたって試験問題そのものだけです。上の例を見て下さい。重要なのは、この問題文から「法律的に意味のある部分」を切り出すという作業です。いつぞやも試みてみましたが、もう一度やってみましょう。記号法的に、意味のある部分を中括弧で括り出してみます。

株式会社CBAコーヒー(以下「甲」という。)は、/{2002 年1月から}(1){「CBAコーヒー」の名称}(2−a)で/{喫茶店を運営}(2−b)しているが、10 回来店した顧客に対し/{「CBAコーヒー」の文字を側面部に表示したマグカップを無償提供するサービス}(3)/をし、「CBAコーヒー」の名称を用いた/甲の上記{業務及びサービスは、関東一円の一般的な需要者間で広く知られ}(4)/ている(なお、/{全国的に知られるには至っていない}(5)。)。

それぞれ、

(1)時期的要件に関わることがら、
(2−a)商標に表れているマーク(権利の客体を表現していることがら)、
(2−b)商標の商品・役務(権利の客体を表現していることがら)、
(3)行われているサービスの内容(使用態様)、
(4)周知性を表すことがら、
(5)著名性を否定することがら

になっています。

一方、問題文は続けて、乙が2003 年1月10 日に、商標「CBA」について、「マグカップ」を指定商品に含む商標登録出願をし、紆余曲折の末、2006 年1月30 日、商標「CBA」について、「マグカップ」を指定商品とする商標登録を受けることができた、といいます。
そして設問(設問3)にいわく、

その後、乙は、/{[2003年1月10日出願で2006年1月30日登録のものについて]同年(2006年)6月10 日}(A)/、甲に対し、/{甲の上記「CBAコーヒー」の表示付きのマグカップの顧客への提供}(B)/の/{差止めを求める訴え}(C)/を起こした。甲は、乙の訴訟上の請求に対し、どのような主張をして争うことができるか。なお、/{甲の「CBAコーヒー」と乙の「CBA」とは、類似}(D)する/ものとする。また、/{乙の商標登録に対する無効理由は、考慮しなく}(E)/てよい。

こちらも法律的に興味のあることがらを抜き出してみましょう。

(A)時期的要件に関わることがら、
(B)訴えの対象となっている使用の内容、
(C)訴えの内容、
(D)類否判断、
(E)無効理由

実に親切なことに、類否判断をしてくれており、無効理由はないといってくれています。これで、甲の主張に「無効理由が仮にあれば」などと書くと減点ものになるとわかります。折角の親切は額面通り受け取っておくものです。また、差止請求ですから、その要件もありますよね。

さて、上の分析と下の分析とを比較しますと、(1)−(A)の組み合わせから時期的要件について甲が主張できそうなポイントがあります。先使用の主張ですね。ちょっと先走りになりますが、見ておきましょうか。

□第32条(1項) 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(…中略…)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

この32条1項の要件を書き並べますと、

(イ)他人の商標登録出願前から、
(ロ)日本国内において
(ハ)不正競争の目的でなく
(ニ)その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用、
(ホ)その結果、商標登録出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている

ということになります。甲の「CBA」商標の使用来歴をみますと、2002年ごろから行っているとあり(1)、出願は2003年です(A)。不正競争の目的があるかどうか(ハ)、そして出願の際に周知性を獲得していたか(ホ)は問題文からは定かではありませんが、周知性についての記載(4)があり、この辺りをどう考えるかは判断ポイントになります。

また、商標自体の問題を見ますと、マークは自社商号そのままです(2−a)。これにより26条の適用可能性も一応考慮の範囲内でしょう。こちらは説明を始めるとながくなる(既に長いですが)ので、後日のために置いておきましょう。

さて、ここまでは条文レベルの問題なのですが、受験生として見逃して欲しくないポイントがあります。それは商標法上の商品・役務の問題です。

■商標における商品・役務(えきむ)の概念
「青本(工業所有権法逐条解説)」によると「商品」というのは、商取引の目的たりうべき物、特に動産をいう、とあります。また、「役務」というのは、他人のために行う労務または便益であって、独立して商取引の目的たりうべきものをいう、とあっります。これらの定義はそのまま暗記してしまいましょう。一次試験で、これはサービスか、と聞かれたら、「他人のため」か、「独立して商取引の目的になっているか」を考えればいいわけです。例えば「買った商品の無料配送サービス」は、独立して商取引の目的になりません(何かを買ったという商取引に付随しているからです)。

また、商品への商標の使用態様について、まとめた本があります。「Q&A商標法入門」という本です。この本については強くオススメはしません。ちょっとばかり難し過ぎて使い難いのです。
ただ、ここでの問題についてはよくまとめられていて、使用態様の問題として、次の4つを挙げます。

(1)商標が役務に提供される物品について使用される場合、例えば販促用のノベルティグッズに使う場合、これを製造販売している業者にとっては商品だが、買い受けて無償配布している場合は商品についての商標の使用とは解されません。商取引の目的でないからですね(「BOSS事件」昭和61年(ワ)7518を参照)。

(2)無償譲渡される場合も問題になることがありました(「趣味の会事件」,事件番号不明)。

(3)店舗内で消費される物品について使用されるケースも問題があります(「天一事件」,昭和62年(ネ)1462を参照)。判決にいわく、「商標法における「商品」は、商取引の目的物として流通性のあるもの、すなわち、一般市場で流通に供されることを目的として生産される有体物であると解すべき」とありまして、店舗内で消費されるものや、お持ち帰り用パックのように一般市場で流通せず、店舗内消費に準ずるものについての商標の使用は、商品への商標の使用態様に当たらないとしています。

(4)そして商品の包装に使われる場合も問題になることがあります(「宝焼酎事件」など)。

さて、話を戻しまして、平成18年度の問題では、このノベルティグッズに当たらないだろうかということを論じていけると思います。このあたり、書き方にテクニックがあるところですが、ここいらへんを次回にしたいと思います(なかなか商標法本文に入れませんねぇ)。

□Q&A商標法入門 「入門」といいつつ、結構学者向けっぽい内容で、あまり試験向きではない:

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