よそゆきの画
話は数年前のことになるが、私が描いていた図面を横から覗いてきた、ある人に、なぜ、ハッチングの種類が違うんだと言われて、だって材質が違うじゃないかと答えたら、例のエモティコンよろしく
( ゚д゚)ポカーン
とされたことがある。
▽ 誰が考えたか知らないが、このエモティコンは素晴らしくよくできている、と思う。
それはそれとして、どうして「ポカーン」か、と思ったが、こんな図法、ほかではきっとないんだろうな。最近、ちょっとしたことがあって、ふと、このことを思い出した。
■それは米国風?
自動車エンジンの構造というと、シリンダがあって、シリンダヘッドがあって、このシリンダヘッドにインテークマニホールドやエギゾーストマニホールドだの、プラグだのが取り付けられシリンダ内部をピストンが往復して…というのを思い浮かべるだろう。
しかし、自動車のボンネットを開けて(フロントに搭載された車の場合)、エンジンを眺めてもこの構造は見えないわけである。そこで分解すれば見ることができる。エンジンの構成を示したいなら、分解図を描けばいい。
だが、シリンダからシリンダヘッドを取り外して燃焼室を「分解」してしまうと、シリンダヘッドに対向するピストンクラウンの面の周縁部と、燃焼室の天井との間に作られているスキッシュという隙間が見られなくなる。このスキッシュを設けた燃焼室の形状が、燃焼室内でのシリンダ幅方向の燃料拡散流(いわゆるスワール)の形成を促して燃焼効率が高められているというのに。
従って、このスキッシュを図示するには、縦横ナナメからエンジンを描いても、またエンジンを構成部品に分解した図を描いても分かりにくい。結局エンジンをシリンダの長手方向に沿って破断してやらないとだめだ。この破断によってエンジンは無残にも真っ二つになるわけだが、真っ二つにしたおかげで、スキッシュの形状を観察できるようになる。
さて、スキッシュは見た、と、ピストンに目をやると、なんとまぁ、ピストンの上部にはいくつものリングが取り付けられていた。しかもピストン自体の素材と違い、リングにはチタンコーティングが行われていたりして、念入りなことである。無残に破断された断面からは、構造だけでなく、素材の相違によって生み出される効果も見て取れることがある。
…というわけで、断面によって図示され、さらに素材が重要となる特許図面では、素材の相違をきちんと図示しなければ意味がない。一般的には金属、誘電体、木材、液体その他を区別することができればよい。これらの区別を行うため、米国の特許法施行規則であるMPEP608.02では、素材別の断面ハッチングの方法が掲載されている(素材別の表面の描き方も併せて示されている)。なお、斜線を引く場合、斜線の傾きは基本的に45度というのも定められているところである。
したがって米国出願では、これらを区別しておかないと思わぬ素材として扱われたりということもないとはいえない。一方で日本出願などで、ハッチングで「金属」と表しておいたとして、明細書に何ら記載がなかったら、請求項にそれが「金属」であるとの限定を行い得るか(新規事項追加にならないか)というと、甚だ疑問は残る。一種のコンベンションであって、広く使われているが、限定解釈には都合よく使われても、出願人に利する方向に働くとは限らない。世の中はキビシイのである。
■「正装」した図面
そもそも図面についてあまり注意を払う人が少ないというのは日本での実務の一つの風潮かも知れない。トレーサーに対してうるさいことをいうと煙たがられてしまいそうだが、米国出願を考えると、ある程度、ドレスコードを守った「正装」図面をつくらないといけないと思うのだが。
まず線種について規定がある。普通は実線で描画するが、引き出し線は細線で描画する。S字など曲線の細線は破断線などに使う。引き出し線はぐにゃぐにゃさせない。陰線(隠れて見えない線)は、破線で描く。一点鎖線は軸などの描画につかう。
例えば、断面図を作るにしても、エンジンの外観図を作成して図1とし、それをどこで切ったものが図2の断面図であるのか、それをどう図示するのか正しい方法をご存知だろうか。この場合、図1に、破断面に含まれる線を実線で引き、この実線の両端を、破断の方向を示す矢印の細線で止める。そして矢印に、断面が図2に描かれていることを示すため、数字の「2」を書く。なお、この数字は、符号と区別できるように、ローマ数字で表すこともある。日本の特許庁などはローマ数字での記入を勧めている。
また、一部を拡大した図を作成する場合、破線で拡大部分を取り囲み、さらに当該取り囲んだ破線から、これまた破線の引き出し線を描き、符号として拡大図の図番を記入する。
部材の表面についても、それが不透明であれば、陰(シェーディング)を入れる。なお、陰と影とは違うもので、陰というのは、光線の加減などで部材自体にできる暗部であり、一方で影というのは、部材が光線を遮った結果、部材以外のものに投影されてできる暗部のことである。部材自体を図示する際には陰は描いてもよいが、影は描けない。これは意匠図面などではよく知られているはずのことだ。
しかし、例えば断面であれば何がなんでも素材を表すハッチングを入れなければならない、ということではない。素材が発明の特徴にとって本質的であるから素材を図示するのである。素材に重要な意味がなければ、ハッチングを入れない方がすっきりした図になって見やすいこともある。
こうした米国での特許図面の作法については、まとめられた書籍(Guide for the Preparation of Patent Drawings)がある。なお、この書籍のワードデータは米国特許庁のウェブサイトから入手できる。このことはMPEP記載の通り。
■日本でも、一応、特許庁がガイドラインみたいなものを定めている。
それによると、引き出し線は直線によるべきことなどが書いてある。S字に「にょろ」と書いた引き出し線がよく使われるが(私も時折使うが)、それは「正装」ではないわけだ。
回路記号ではGND(共通)電位を表す記号で、斜線の数を3にするか4にするか、それとも下向き三角形で描くのか、ANSI や JIS などで定められている図法か、慣用されている図法か、いろいろ迷うところがある。「トランジスタ技術」誌では明快に定められているようだが、まぁ、接地とGNDと区別がつけばいいや、というものなのかどうかなどで判断は異なるかも知れない。
結局、図面といえども、発明の特徴をよりよく表すものが望ましいには違いないので、許容範囲を踏まえて描き分けるということが大事ではあると思う。ただ、「正装」した図面というのも一応はわきまえておく、というのが、「理」を「弁」(わきま)えるという弁理士の能力というものだろう。
□ちなみに、こちらが書籍版の特許図面の描き方(米国特許庁編)。品切れみたい…:
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投稿: ブランドスーパーコピー | 2019年11月17日 (日) 15時42分