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2007年3月 9日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(3′)=ちょっと番外編

午後6時ごろ、地下鉄の四谷三丁目の駅から出てくると、国道20号でつくられたビルの谷間に、夕暮れの空が美しかった。西空に輝いて見えていた一番星は、金星だとは思ったが、やけに明るく見えた。後で調べてみたら、今日の金星の光度は−4等前後らしい。金星の光度は地球からの距離と満ち欠けによって変化するのである。

▽ そろそろ日が長くなってきました。今年は雪も少なくてあまり実感がわきませんが、それでも季節は春へ向かっています。今年も試験のシーズンが始まります。

■論点などない
 論点を指導する側の問題もあるんでしょうが、論文講座というとどうしても著名な論点を中心にしがちかと思います。例えば前回挙げた平成18年の商標の設問3の問題を見ると、一目散に「ノベルティーだぁ!」と気持ちが焦って書いてしまうという人が多いのではないか。
 そういう方は、たぶん、合格していないわけでしょうが、論文ゼミなどではそれなりに得点を上げることができるわけです。

 設問3では、たしかに法上の商品該当性(ノベルティの問題)を挙げても構わないわけです。しかし、それだけだったか、そういう反省が必要になります。そういう意味では、ひと目で論点が浮かんだときには、一息つき、

「論点などない」

と自分に言い聞かせて、もう一度問題文を点検することです。

 実際に点検してみましょう。設問に入るまえの前提は、こうです。

 [S]株式会社CBAコーヒー(以下「甲」という。)は、/
 [T]{2002 年1月から}/
 [O1]{「CBAコーヒー」の名称}で/
 [O2]{喫茶店を運営している/が、
 [?]10 回来店した顧客に対し/
 [O3]{「CBAコーヒー」の文字を側面部に表示したマグカップ}を/
 [Q]{無償提供する}/
 [O4]{サービス}をし、/
 [O5]{「CBAコーヒー」の名称を用いた甲の上記業務及びサービス}は、/
 [R=P1]{関東一円}の/
 [P2]{一般的な需要者間}で/
 [P3]{広く知られ}[=周知性獲得]ている/
 [P4](なお、{全国的に知られるには至っていない}[=著名性の否定]。)。

 便宜上分説しました。また、[S]は権利などの主体になり得る者、[T]は時期的条件、[O]は権利の客体を表すかも知れない語、[Q]は論点となりそうな語(キーワード)、[R]は地域的条件、[P]は明らかに要件に関わる語について記号的に表したものです。
 設問3についても同様にやってみます。

 [S2]乙は、/
 [T2]{[2003年1月10日出願で2006年1月30日登録のものについて]同年(2006年)6月10 日}、/
 [X]甲に対し、{甲の上記「CBAコーヒー」の表示付きのマグカップの顧客への提供}の{差止めを求める訴え}を起こした。//
 [G]甲は、乙の訴訟上の請求に対し、{どのような主張をして}争うことができるか。

 では、この設問の答えがノベルティだけであったと仮定して、そうだとすると、なぜ、時期的要件[T],[T2]がこんなに詳しく書かれていたり、周知性のこと[P1−P4]が書かれていたりするのでしょうか。それに疑問を感じて欲しいのです。
 ひとつ、これを覚えておいてください。

問題文にムダな部分などない

 問題文にはムダな記載はありません。そう考えて、書くべきことを搾り出して下さい。この時期的要件や周知性のことにも意味があるはずです。今回の問題では権利侵害の訴えに対する抗弁ですから、抗弁になり得ることを考えていけばいいわけです。なお、請求されているのは差止ですから、「故意、過失がない」などの主張は意味がありません。思い出して下さい。差止請求では相手方の故意・過失は問わないのでしたね。

 時期的要件や周知性の話を使いながら、権利の行使を逃れるには。そうです。先使用の抗弁というのが考えられます。従って、少なくともこの問題では先使用とノベルティの話とを書かなければウソです。このほか、「CBAコーヒー」と、商号を連発している点はなんなのか。ここから抗弁事由が得られないか、こちらも考察してみて下さい。

■論点でない部分を書く
 論点でない部分について事例問題で書いていく場合は、各要件に合致する具体的事実を問題文から拾って指摘していき、要件が満足されているか否かを述べていくことになります。

 今回の問題の場合、まずは乙の請求に係る要件(差止が認められる要件)から検討する必要があります。この場合、指定商品と同一の商品に対する類似商標の使用ですから、明らかに37条1号の要件に合致しており、商標権侵害と見なされる関係にあります。従って、差止請求を受け得る立場にはあるわけです。このことをまず、指摘します。
 その上で、抗弁事由があることを説明していきます。抗弁の一つは、先使用権の主張です。
 前回列挙したところによると、先使用の要件は、

(イ)他人の商標登録出願前から、
(ロ)日本国内において
(ハ)不正競争の目的でなく
(ニ)その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用、
(ホ)その結果、商標登録出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている

です。時期的な要件の事実からして、乙の出願前から甲が日本国内で類似商品に対して同一といっていい商標を使っていたことがあきらかです。なお、業種が完全にちがいますから、不正競争の目的は考え難い。そうすると、残るは(ホ)の要件のうち、「商標登録出願の際現に」という部分だけです。ですから、論文としては上記関係を指摘した上で、周知性の獲得時期が明らかになっていないが、「商標登録出願の際現に」周知性が獲得されていたならば、先使用の主張が可能になる、というような流れとなるでしょう。

■論点にバランスを置き過ぎない
 さらに、今回の問題ではどうしても、ノベルティグッズが商標法上の商品に該当するかどうかの論点を逃すことができません。「コーヒーの提供」役務をしているはずの喫茶店が、「無償提供」しているマグカップは、どう考えても法上の商品とは考え難い。なぜならば一般市場で流通するものでないからです。
 論点を述べる場合は、まず、問題を提起します。問題提起といいつつ、例えば上の先使用の要件について、「この甲の行為が先使用権に基づく行為といえるかが問題となる」なんてことは書かなくていいのです。それは法律上問題になっていることではなくて、要件に合致するかどうか事実的な問題だからです。論点の問題提起はあくまで法律上の問題提起です。
 「このように、喫茶店を運営する甲によって無償提供されるマグカップが、商標法上の商品たり得るか。商標法上の商品とは何かが問題となる」
 次に、商標法上の商品について解答してしまいます。
 「商標法上の商品とは、商取引の目的たりうべきものであって、特に動産をいう。」
 そしてマグカップは商取引の目的でないことを論述します。
 「甲は、コーヒーの提供役務を行っており、マグカップはこの役務提供に供される物品ではあるが、甲は、当該マグカップを営業促進のために用いているにすぎない。すなわち本件甲のマグカップは、いわば販促用のノベルティグッズであって、商取引の目的となっていない。つまり、このマグカップはこれを製造販売している業者にとっては商品だが、買い受けて無償配布している甲にとっては、商標法上の商品とはいえないと解する。したがって、本件甲のマグカップへの乙商標に類似の商標の使用は、乙の商標権を侵害するものとは認められない。」
 ひっくり返して妥当性も述べておきます。
 「また、このように解したところで、甲の当該マグカップは一般市場に流通することはないのだから、乙商標との混同が生じる虞などもなく、乙も、需要者も、なんら損害を被ることはない。」
 そして、このように甲は自己の無償提供するマグカップが法上の商品に該当せず、乙の権利を侵害していないと主張できる、というように問題文に答える形にして、解答します。

 いちばん問題なのは、先使用とこの主張とがほとんど同じバランスであるべきなのに、論点ばかりを重々書いてしまうことはバランスを失した答案ということになってしまいます。論点は、踏み込み過ぎず、記載分量に配慮して記載します。

■さて、来週あたり、この種の論文作成の方法についてもうすこし一般的な立場から記事を書いてみたいとおもってます。それから、つぎこそ、きちんと「商標法案内」に戻りたいですね。

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